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あの日交わした約束を  作者: フリムン
第二章 決意
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Resolution:16 飛ぶ鳥は墜ちて

途中で切りたくなかったので、今回は長くなっちゃいました。

 一難去ってまた一難。シリアスは続く。

「松岡………さん………」


 診療所に帰ってきた僕が見たものは、右足を砕かれ、満身創痍となった〈蹴帝〉コウジこと阿久津光司だった。


「こ、光司くん! どうしたんだ、一体!?」

「情報を………」

「っ! 掴んだのかい?」


 その問いに、彼は弱々しく首肯する。

 早くその情報を聞きたいのだが、そんなことより今は、傷の処置をしなくては。


「早く中へ!」

「いや、いい………。そんなことより、情報を」

「しかし、その傷では!」

「すぐに追っ手が来る。その前に伝えたい」


 必死の形相だった。確かに、その方が確実なのだが………。

 そこで気付く。

 そうか、彼は、もう…………。


「わかりました。そしてその情報は、確実に彼と組織へと伝えます」

「ありがとな」


 光司はニッと笑い、情報を伝えた。


「まさか、こんなに近くにあったなんて…………」

「情報は確かに伝えた。…………なあ、松岡さん」

「なんだい?」

「看取って、くれないか?」

「…………ええ、任せて下さい」


 そう言ってベッドへ倒れ込んだ光司の体から、光の粒子が溢れ出す。

 魔人は人の心を亡くし、人の姿を棄てたもの。故に、肉体はなく、人の姿もとらない。

 神騎は強い願いとあり、人の身に神の加護を得たもの。

 そして、我々人魔は、人としての命を亡くし、それでも強い想いを棄てきれず、人と魔人の間に在るもの。

 だから、僕たちに肉体はない。心臓の代わりに魔力の塊、〈核〉が鼓動し、力を司る。


 今、彼のその核が消えようとしている。


「アナタの伝えた情報は、必ず、彼と組織へ伝えます。だから、安心して下さい」

「………ああ、ありがとうな」


 そして光の粒子は拡散し、消えていった。

 それを見送り、僕は携帯電話を手に取り、電話をかける。


『はい、もしもし竹井です』


 電話に出た声は若い。

 それもそうだ。なんたって彼は、カルマ君とほぼ同い年なのだから。


「あ、僕です。松岡です」

『松岡さん? どうかしたんですか?』

「ええ、魔人の情報つかみました」

『それは本当ですか?』


 さっきまでの柔らかい物腰の口調が消え、たちまち一流の戦士、否、総帥の態度になる。

 そう、彼こそ、我々人魔のコミュニティにして軍団〈サーガ〉の総帥、竹井(たけい)大介(だいすけ)だ。


『そうですか、その町に………彼、カルマ君には?』

「まだです。これから伝えます」

『そうですか。ではよろしく御願いします。こちらも用意が整い次第、そちらに向かいます』

「解りました。では」


 そう言って、僕は電話を切り、続いてカルマ君にコールをかけようとしたが、一人のナースが入ってくる。


「アスカ先生、お電話は住みましたか?」

「うん。ちゃんと伝えたよ」


 彼女もまた人魔。そして、〈サーガ〉の構成員。


「そうですか。それより、お客様がお見えです」

「客? 患者ではなく?」

「本人がそう言っていたもので」

「解りました。通して下さい」


 そう言って通されて来たのは一人の男性。


「やあ、アスカ君」

「ああ、あなたでしたか。どうしたんですか?」

「いやぁ、少しね…………………







…………………君に死んで貰おうと思って。

 魔人変躯(イーヴィル・トランス)


 男は変身する。その髪は白くなり、目は紅い猫目、そして全身は紅黒い甲殻へと包まれる。


「なっ!? 魔人変躯(イーヴィル・トランス)!」


 ここでとっさに変身し、転移出来たのは、我ながら凄まじい反応速度と判断力だったと思う。


「アスカ先生! 魔人変躯(イーヴィル・トランス)!」


 ナースの子が人魔へとなる。


『死になさい、【蠍毒針雨(スコーピオン・ベノム)】!』

『やめろ、下がるんだ! 彼は屍魔人(しかばね)だ!』

『え?』

『【冥道斬開】』


 男が軽く手刀を降り下ろすと、そこに黒い裂け目が表れ、そこから冥道へと繋がる回廊が切り開かれる(・・・・・・)。それは、カルマ君の力と殆ど同じ、そう、屍魔人(しかばね)がもつ〈冥道〉の力。

 その冥道が、ナース、いや、蠍の人魔を襲う。


『き、きゃぁぁああ!』

『下田さん!』


 そして彼女は、冥道へと飲み込まれていった。


『なん………で』

『次は君だよ?』

『なんで、あなたが…………』

『うん?』

『なんでこんなことを! あなただって魔人に全てを奪われたのでしょう!? なのに何故、あなたがこんなことをするのですか!』

『全てを奪われた? 違うよ? 僕にはまだ、彼が残っているよ』

『だったら、尚更!』

『それだけじゃ足りないんだ。それだけじゃ、僕の最も大切な女性(ひと)を奪った魔人(やつら)を赦せる筈がない』

『なら、あなたがやっていることは矛盾している! 何故魔人に協力するのですか!』

『全てを奪い尽くすためさ。やつらの望みも、大願も、全てを奪い、そしてあの人を………僕の妻を甦らせる!』

『そんなことが!』

『出来るさ! 魔神(アスラ)の力なら!』


 魔神(アスラ)。聞いたことはあるが、詳しくは知らないその単語を耳にし、僕は戸惑う。


『アス………ラ?』

『そう、魔神(アスラ)! 魔人(イーヴィル)とは違うもの! 魔人(イーヴィル)を造りし、生命の改変者! それが魔神(アスラ)だ! その力さえ手に入れば!』

『そんなことが赦されると…………』

『僕は赦しなど要らない! 僕は彼女がいれば充分なんだ!』

『それでは、何の為に彼は戦っているのですか!? あなたと同じ(・・・・・・)屍魔人(しかばね)でありながら、幾度も激戦を繰り返し、今なお命を削り続けている彼は、何の為に!』

『僕のためさ』


 平然と言ってのける彼に、僕は唖然とする。

 いくら何でも、それは無いだろう。


『違う! そんな筈がない!』

『いずれ、そうなる』

『だが彼はあなたの!』

そんなこと(・・・・・)なんてどうでもいい! 僕は僕の願いを叶える! ただそれだけだ!』

『あなたと言う人は!』

『その為には、あいつの力が必要なんだ。だから、その贄となってくれ』

『断る!』


 即座に転移し、外へ出る。戦っても勝てない、ならば逃げるのみ。僕に戦闘能力はない。ここで戦うのは得策じゃない。


『そうか、残念だよ。折角、楽に死なせようと思ったのにな』


 その声が背後から聞こえた瞬間、背中から腹部にかけて、強い衝撃と焼けるような傷みが襲う。


『がふっ…………』


 口から大量の血を吐き、うつ伏せで倒れる。


『な、んで…………』


 なんで、追い付けた?

 そう言おうとしたが、血が喉に詰まり上手く声が出せない。体から血の形をした魔力が抜けていく感覚が良くわかる。熱が無くなって行く。


『済んだか? 〈代行者〉』

『あ、〈天翔〉。うん、終わった』

『略すな。では行くぞ。向こうで〈消滅〉と〈剣影〉が戦っているらしい』

『あーあ、僕も参加したかったな』

『まあまあ、そうぼやかないの。また戦える時は来るさ。あ、でも〈同胞喰らい〉は渡さないよ』


 彼らは、そんな会話をしながら遠ざかっていった。



 ………………………………………

 ……………………………………

 …………………………………

 ………………………………



 誰も来ない。

 あれからどれ程倒れているのだろう。

 魔人たちの使った言霊は、いまだに通行人を寄せ付けない。

 魔力の形をした血は、血溜まりを過ぎて、常に体から立ち上っている。

 ああ、まただ(・・・)。最初は強盗で、次はこれだ。

 結局僕は、誰かに殺されて、誰にも看取られずに死ぬのか…………。



 足音が、聞こえる。

 僕の名を呼ぶ声がする。

 目を、開けなくちゃ。

 伝えなくては、いけない事がある。


 ―――やぁカルマ君。

 ―――いいかい? 良く聞くんだ。


 ちゃんと声が出ているかは分からない。だけど、伝えなくちゃ。


 ―――魔人の居城は、―――にある。


 音が聞こえない。彼が泣いているのは見える。駄目じゃないか、そんな簡単に泣いちゃ。


 ―――そして、〈代行者〉は、君の――――。


 ちゃんと、言えたかな? 伝わったかな? どちらにしろ、僕にもう力はない。だから、せめて、これだけは…………


 ―――カルマ君、〈同胞喰らい〉カルマ君。君が、僕を喰――――。


 体中の力が抜ける。意識が遠退く。


 そして訪れたのは、核が抜き取られる感触と、穏やかな死の波動。冥道の波動。


 ―――ありがとう、カルマ君。


 そして、僕の意識は光のような闇に溶けて行った。



味方の人死には本作では初めてです。ウーン、難しい。

伏線も難しいです

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