Recllection:1 帰郷者
少し長くなり過ぎちゃいました。とりあえず、どうぞ
タタンタタン、タタンタタン……
「うにゅる…」
「…ふぁ」
耳元に聞こえた妙な寝言でオレは目を覚ます。どうやら眠ってしまっていたようだ。
自慢である亜麻色の、ややウェーブのかかった髪の寝癖を軽く直しつつ、立ち上がる。
『次は、桜坂駅、桜坂駅でございます。お荷物のお取り忘れにご注意ください』
アナウンスが告げた駅名は、目的の駅だった。どうやら丁度良いタイミングで目が覚めたようだ。
「おい、起きろ。着いたぞ」
気持ち良さそうにオレのバッグに抱きつき、よだれを垂らしながら眠る双子の妹の頬をペシペシと叩く。
「むにゅう…あと五分……」
「置いていくぞ、まったく」
オレは深いため息を付き、戦闘準備をしたのだった。
オレ達が降りた桜坂駅は、この青葉町の小高い丘の上にあり、町を一望する事ができる。
「……十年ぶりか」
桜坂の名の通り、この丘には桜並木がズラリと居並び、オレはそこから町を眺めていた。
「あの子は、元気かな……」
かつて、この町に住んでいたころ仲の良かった少女を思い出し、少しだけ感傷的になるが、すぐにかぶりを振り、その感情を振り払う。
「何を期待しているんだ、オレは。もう関係無いじゃないか…だって、オレはもう……―――」
オレは空を見上げる。そこには、雲一つ無く、果てなく透き通る青空がどこまでも続いていた。
春風に巻き上げられた桜の花びらが、空で渦を巻いた。
――オレはもう、人では無いのだから……――
◆◆◆
その少女は、私立青桜高校の青いブレザーの背中に、長い黒髪を踊らせながら歩いていた。
「おーい、ヒナター」
彼女の名前は朝霧日向。トレードマークは、艶やかな黒い長髪と、白くきめ細かい柔肌、そして、首にかかる青い透明な石のペンダント。
彼女は呼ばれた方へ顔を向け、親友の姿を確認し、顔を綻ばせる。
「おはよう、サナちゃん。今日から二年生だね」
「そうだね。同じクラスだったらいいなぁ」
彼女達はそんな他愛のない会話をしながら校門をくぐり、クラス表を見つめる。
「あ、サナちゃん、あったよ。おなじクラスだ」
「やったね! 宿題写し放題だ!」
「見せないからね」
「そんなぁ…。あ、そうだ」
サナはふと何かを思い出したように手を打つ。
「なに?」
「うちの学年に、外国からの帰国子女が編入して来るらしいんだって」
「へー」
軽く相づちを打ち、外国からの帰国子女というおかしな日本語にツッコミを入れようとしたが、ふと、幼い頃の記憶が蘇る。
世界中の何よりも、誰よりも大好きで、だけど、家庭の事情で外国に引っ越してしまった幼なじみの事を思い出し、つい黙り込んでしまう。
「ヒナタ? どうかした?」
友人に顔を覗き込まれ、ヒナタは我に返る。
「なんでもないよ、ちょっと考え事を…」
「もしかして、その帰国子女を狙ってるとか?」
「ち、違うよ!」
「困ったなぁ…ミス青桜が相手か…」
「だから違うってば。ていうか、そのミス青桜ってなに?」
「あはは、冗談はこれくらいにして、早くいこう? 始業式、もうすぐだし」
「あ、うん」
友人を追って歩く最中、ヒナタはそっと胸のペンダントに手を触れ、空を見上げる。
「おーい、早くー」
「今いくよー」
感傷的なりかけたところで、彼女は友人に呼ばれ、駆け出した。
始業式も無事に終わると、それぞれがそれぞれのクラスへ向かった。
私もそれに倣い、新しい教室へ向かう。
しばらくすると、先生が来て、帰国子女がこのクラスの一員になることを告げた。
入ってきたその生徒を見て、私は息をする事を忘れる程の衝撃を受けたのでした。
「じゃあ、自己紹介をしてくれ」
先生に促され、黒板の前に立ったのは、亜麻色の髪をした双子の兄妹でした。といっても、二卵生なのか、兄の身長は170以上であるにも関わらず、妹の身長は150以下という、でこぼこ兄妹です。
「えっと、桐久保真留華です。よろしくお願いします」
そのマルカと言う少女が、ペコンとお辞儀をすると、三つ編みにしたお下げがふわりと揺れる。
「うおおお! マルカちゃーーん!!」
「キャーーッ! かわいい!」
その愛くるしい姿に、男女問わず、異様な盛り上がりを見せる。
「ええい! やかましいわ!」
先生が怒鳴る。
しかし、私にとって、それらは些細な事でしかなく、その隣の少年から、目が離せなかった。
「えー、桐久保狩魔です。マルカの双子の兄貴やってます。ポルトガルから来ました。よろしくお願いします」
彼も自己紹介をし、礼をする。
「キャーーッ! カッコイイ!」
クラスの女子が騒ぎ出し、
「キャーーッ! イケメンだ!」
何故か男子も盛り上がる。それに対し、先生が制止をかけた。
「なんで男子も盛り上がるんだよ!」
「あ、その……つい…」
そんなコントも、私の耳には入って来なかった。
彼はいま、なんと言った?
彼が指定された席に座るのを見ながら、私は彼が口にしたことを考えた。
キリクボカルマ。忘れもしない、私の大好きな七文字。
あのウェーブのかかった亜麻髪、左目の泣きボクロ……。
クラスのみんなに囲まれる彼を見ながら、私は小さく呟いた。
「カル…くん?」
その声が届いたのか、彼は一瞬、驚いたようにこちらを見つめた。だが、すぐに顔を逸らし、何事も無かったかのように振る舞う。
「私は梶原佐奈って言うの。よろしくね」
隣に座るサナちゃんから自己紹介を受ける彼は、とても他人の空似とは思えなかった。
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