Resolution:10 闇夜の一幕Ⅱ
分けた分は早めに上げたかったんで、頑張りました
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〈天翔空羅〉対〈閃天〉
『【閃鮮疾空】!』
〈閃天〉ザルバは、その背に紅く輝く翼を出現させ、上空で滞空する〈天翔空羅〉スカイへ突撃する。
『【紅閃翼斬】!』
紅の翼が刃の形となり、スカイへ迫る。
『【翼之盾】』
しかしスカイは慌てることなく、嫌見たらしいほどの冷静さで、その紅の翼刃を防ぐ。
『どうした? 我と同じ翼を持つ者でありながら、その程度か? 嘆かわしい』
『くっ………舐めるな!』
ザルバはさらに加速し、スカイを撹乱するように不規則に飛び回る。
『これなら! 【紅羽射烈撃】!』
紅い羽がまるでマシンガンのように雨霰と降り注ぐ。
『やはり、この程度か。【羽刃弾】』
そう呟いたスカイは、その翼を広げ、そこから同じように羽を射ち出す。彼はまるで全てが見えているかのように冷静に紅い羽の弾を撃ち落として行く。
『ふむ、底が見えたな』
『くっ………』
『貴様なんぞより、あの熾神騎の方が余程楽しめたと言うものだ』
スカイはとてもつまらなさそうに呟く。もうザルバへの興味は失ったと言わんばかりに。
『貴様はもうよい。我はより疾き者との戦いを望む』
言い終わると同時に、ザルバの目の前に現れるスカイ。松岡のような瞬間移動ではなく、それは純粋な疾さによるもの。
『なっ!?』
『死ね。【羽衝】』
片方の翼が持ち上がり、そのまま勢いよくザルバの腹部を衝き貫く。
◆◆◆
〈剣閃〉ユウシは善戦していた。その手には黒っぽい甲殻とは正反対の、純白の剣が握られていた。
そのユウシに相対するように立っているのは、〈剣影〉ブレイド。漆黒の二刀を構えた彼の力は未だ不明だ。
だが、剣士としての技量は同格。ならば、素早さ特化である自分の魂術を使えば勝機は見える。
『【閃斬】!』
ユウシの体が一瞬輝き、その姿が掻き消える。
直後に、ブレイドの体を幾つもの斬撃が走る。
まさに閃光のごとき素早さによる瞬撃の成せる技。今までもユウシはこれで決着を着けていた。
だが、彼は知らない。純粋な魔人の中にも、魂術に匹敵する魔術、名付魔術と呼ばれる技を使える者がいることを。
不幸なことに、ブレイド、いや、ここに来た5人すべての魔人は、その力を身に付けていた。
『【影像】』
故に、切り刻まれ手影に消えたブレイドが、分身であるとは微塵たりとも思わなかったのだ。
『なんだ、案外呆気なかったな。あいつらなら任せても大丈夫だろうな。さっさと松岡………』
仲間を信頼し、判断し、そして情報を届けるために踵を返した彼の言葉は、最後まで言葉にならなかった。何故なら、口から溢れた大量の血が、その喉を埋め尽くしたのだから。
『ごぶっ………な……に、が………』
自分の胸、心臓の位置に、一条の黒線が走っているのが見える。遠退く意識の中、見えたのは影から這い上がってくるブレイドの姿と、彼の言葉。
『影を刃とする【影刃】。その数多なる刃に飲まれて消えろ、【影刃・数多】』
地面から襲い来る大量の黒い刃に刺し貫かれ、ユウシの意識は途切れた。
◆◆◆
〈覇拳〉対〈蹴帝〉
『くっ、強い………』
『ハハハハハハ! 意外とやるじゃねぇか、コウジ! いいぜ、お前』
『遊びやがって………』
『おいおい、俺ぁ遊ぶときこそ全力だぜ?』
『ふざけるな! 【翔蹴撃】!』
一度跳躍し、空中一回転からの飛び蹴りを放つコウジ。本来なら避けることも、受け止めることも叶わないはずのその蹴り。あらゆるものを砕き、殺す必殺の一撃。
その一撃を放ったからこそ、彼は絶望する。
『おもしれぇ、受けてたつ! 【覇拳】!』
フィストの放った一発の拳打。自らの称号と同じ名を冠する名付魔術。
コウジの蹴撃と、フィストの拳撃がぶつかると、衝撃波が生じ、周囲の木々がなぎ倒される。
そして壊れたのはコウジの脚。フィストの腕の甲殻にヒビは入ったものの、完全に壊れたのはコウジだけだった。
『がぁぁぁあああ!!』
激しい苦痛に、コウジは絶叫する。そんなコウジに、フィストが静かに歩み寄る。
『なあ、おい』
しゃがみこみ、コウジの髪を掴んで無理矢理頭を持ち上げる。
『お前が、オレ達の情報を持ち帰れば、アイツは来るのか?』
『ひ、ひぃ………』
無自覚にドスの効いたその声は、自慢の足と戦闘力を同時に失い、心がけ折れかけていたコウジの心を完膚なきまでに叩き潰した。
『なあ、アイツは来るのかって聞いてんだよ』
『あ、ああアイツって、だ、誰だよ………』
『ああ? んなもん、〈同胞喰らい〉に決まってんじゃねぇか』
『く、来る! 絶対に来る! だ、だから命だけは………』
『そうか、来るのか………くくくく、はは、くははははは! そうかそうか、よし、行け』
突然言われたその言葉を、コウジは一瞬理解することが出来なかった。
『え?』
『え、じゃねーよ、早く行け。お前みたいな雑魚に用はない。オレは〈同胞喰らい〉と殺りあいたいんだよ』
コウジの髪から手を離し、フィストは立ち上がる。
『だからオレの気が変わらない内に、早く行け』
『は、はぃぃいいい!』
片足が使い物にならない状態で走っていくコウジを見ながら、フィストは自らの昂りを押さえきれなくなってきていた。
『くくくく、クハハハハハハハ! 楽しみだなぁ! なあ、カルマぁ! オレぁ待ってるぜ、お前が来るのを!』
彼にとって、戦いこそが存在理由。戦いこそが唯一にして至極の愉悦。
それ故に、全力で無かったにしろ、自らと同等に渡り合えたカルマと、もう一度戦いたいと強く願っていた。その願いが叶うのなら、彼はなんだってする。
『ハハハハハハハ! ハハハハハハハハハハハハハハ! ハハハハハハハハハハハハ!』
四つの死体が転がる夜の森に、フィストの笑い声が狂ったように響き続けた。




