Resolution:4 カルマの受難
女の子に両側から腕を組まれてみたいですよね?
え? 案外そうでも無い?
――――9年前。
『こんにちはー、隣に引っ越して来ました、桐久保でーす』
そう言って、我が家の門を叩いたのは、一人の亜麻髪の男性でした。
「おい、なんでいきなり回想が始まっ「カルくんちょっと黙って」………すいません」
わたくしはその頃から人見知りが激しく(「嘘こけ」「シャラップ」「ごめんなさい」)、その男性と父上が話している間、ソファの後ろに隠れていましたの。
そしたら、いきなり肩をつつかれて、驚きながら振り向くとそこには、訪ねて来た男性と同じ髪の色をした美しい少年が立っていました。
……ええ、一目惚れでしたわ。ですからわたくしは、彼に言ったのですわ。
『嫁にして下さい!(ポルトガル語)』
そしたら彼は
『何言ってるか全然わかんないケド、とりあえず頷いた方が良いかな? (日本語)』
と言って、頷いたのですわ。
それから9年、わたくしは彼の隣にずっといました。嫁として、妻として。
なのに……なのにっ!
◆◆◆
「うわー……桐久保、アンタ………」
梶原がゴミを見るような目つきでオレを見ている。
「ちょっと待ておかしいだろ!」
「はて? 何がですか?」
「はて? じゃない! お前、9年前って8歳じゃねぇか! 今日初めて知ったよ! あの時お前が言ったセリフが!」
「でも頷きましたわ。それに、聞いて来なかったんですもの」
「いや確かにオレも悪いけど……ていうか! なんだ嫁にしろって! ホントに8歳のセリフか!?」
「ああ、あれ嘘です」
「嘘かよ!?」
「正確には、『真剣に私に恋……』」
「ストップ、ストーップ!」
「むう………」
危ない危ない、危うく言わせる所だったぜ。いわせねぇよ!
「そもそも、なんで8歳がそれを知って……ていうか、いつの間に海を越えてたんだ?」
「どうかしました? カルマ様」
「いや……それよりもルル、オレは認めた覚え無いからな」
「そんな………ヒドいですわ!」
ルルが瞳を潤ませる。
「泣き落としは効かないからな」
「一緒にお風呂に入ったのに!」
「ガキの頃な!」
「一緒のベッドでも寝たのに!」
「キースもいたからな! そしてそれもガキの頃!」
「性の初体験も……」
「それもガキの…………ってしてねぇわ! あっぶねぇ! サラッと事実捏造してんじゃねぇよ!」
油断も隙も無いぜ、まったく。気が抜けない。
すると、梶原がポツリと呟く。
「桐久保って、意外とワルなんだ」
「オレかっ!? オレが悪いのかっ!?」
「やっぱりカルくんは無実なんだね! 信じてたよ!」
そう言って腕に組み付くヒナタ。
……あの、ヒナタさん? そう言ってくれるのは嬉しいんですが、その、極まってます。腕に技、極まってます。すっげー痛いっす。
「くぅ~! カルマ様から離れなさい! この乳女! 例の如く乳にしか栄養が回ってませんのね!」
ルルもオレの腕にしがみつく。いや、だから極まってますって。なに貴女達、オレの腕殺す気ですか?
「アナタこそ離れなさい! でも、いくら食べても胸に全く栄養が行かない人も、可哀想よね? 可哀想だから触れないであげるわ、まな板さん。あ、ごめんなさい間違えたわ、洗濯板さん?」
「~~~っ! 言うに事欠いて! いい加減離れてはどうです? 重苦しい脂肪の塊をつけたお牛さんは!」
「そうなのよ、これ、結構重くって。肩がこっちゃう。アナタは良いわね、肩凝らなくて」
お? 今回はヒナタが優勢か?
などと感心していると、両側から思いっきり引っ張る。
「カルマ様から離れなさい!」
「カルくんから離れて!」
「あだだだだだ! ち、千切れる! オレの腕が千切れる、折れるぅぅうう!」
マルカ、助け………
「さぁ、張ったはった! 朝霧ヒナタVSセルルト・ハザール・インデリアのこの勝負、軍配はいったいどちらに上がるのか!?」
「さぁさぁ、ヒナタ派はこちらに! セルルト派は向こうね」
なんで賭博師みたいな事してんだよマルカと梶原は!
「お前、どっちだと思う?」
「朝霧さんかなぁ?」
「いいや、インデリア嬢だね!」
「いやいやいや、桐久保の真っ二つでしょう」
「「それだ!!」」
両側の腕から、メキッという音が聞こえた気がした。
「それだじゃねぇぇぇえええ!!!」
オレの絶叫が、朝の校舎内に響き渡ったのだった。
カルくんにはきっと、女難の相が浮かんでいる事でしょうね




