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あの日交わした約束を  作者: フリムン
第一章 追憶
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Recollection:14 孤独と祈り

寝ぼけながら書いたので、誤字脱字が多いと思います。指摘があったら教えて下さい。



最初はヒナタ視点

 彼が目を覚まさない。

 何度も呼びかけ、何度も体を揺すっても、彼は目覚めない。どころか、顔は青ざめ、呼吸音が小さくなり、手足は少しずつ冷たくなって行く。

 まるで、死人から体温が奪われるかの如く。


「か、カルくん! カルくん! 目を覚まして!」

「カルマ! ―――まさか……そんな、早すぎる!」


 マルカちゃんは、携帯電話を取り出し、どこかへ掛ける。私はそれどころではない。一度は無理やりせき止めたハズの涙が、また流れてくる。


「アスカ! 私だ!」

『ま、マルカ君かい? どうしたの? 今日は診察日じゃ無いよ?』


 マルカちゃんが掛けたのはどうやら、この間の医者のようだ。

口調は荒いが、妙にしっくり来ている。おそらくそれが地なのだろう。


「カルマが目を覚まさないんだ!」

『なっ! 早すぎる! もう(はく)が尽きて―――』

「朝霧さん、また兄さんを背負って貰えますか?」

「え、ええ……」

『っ! すまない、彼女がいたのか。取りあえず、今どこだい? 車を回す』

「枝垂れ桜の広場だ」

『わかった。駅の入口近くで待っていてくれ。直ぐに向かう』


 彼の病気は、まだ進行しているのだ。

 カルくんを背負った時、それを強く意識してしまった。衰弱した体は、この間背負った時よりも、少しだけ軽く感じた。






「松岡先生、こっちです」


 マルカちゃんが、相変わらずくたびれた白衣を着た医者を連れて来る。

 一人だ。


「あれ? 先生は一人ですか? 助手の方とかは?」

「彼は特殊な患者だからね。彼は僕と数人で担当しているんだ。残りは救急車の中で準備してるよ」


 困ったように頭を掻きながら、彼はカルくんを私の背から自分の背へ移す。


「えっと、君の名前は……そう言えば聞いてないな」

「朝霧ヒナタです」

「じゃあ、朝霧くん。カルマ君の付き添いを頼んでいいかな?」

「え? あ、はい」

「悪いね。マルカ君は僕とお話があるからね」


 彼が乗ってきたであろう救急車は少し小さいが、中には三人ほどの看護士及び救命士が乗っており、治療の準備を済ませて待っていた。

 カルくんをベッドに乗せ、私も乗り込み、ベッドの隣に座ると、車が発進した。


「カルくん………」


 彼の手を握りしめ、祈るように彼の名を何度も口にする。カルくんの顔は穏やかで、普通に寝ているように見える。口と鼻を覆うように着けられたら呼吸器のマスクが、少しだけ白く曇る。


「呼吸が浅い。脈も遅く、瞳孔が開いている」

「やはり、発作か」

「だが、周期が早すぎるぞ」


 先生の助手である三人は、テキパキ行動しながらも、こんな会話を交わす。

 私はやっと、マルカちゃんも松岡先生も言っていた「早すぎる」の意味を知った。薬で抑えていたハズの発作が始まったと言うことなのだろう。


 ―――アナタは、ずっと戦って来たんだね。ずっと独りで……。


 そこまで考えて、その考えが間違いだと気づく。今、彼に治療を施す三人の眼は、真剣にカルくんを救いたいという眼差しだった。


 ―――カルくんは、独りじゃ無かったんだ。だって、三人……私やマルカちゃんを加えてもたったの五人だけど、こんなに思ってくれる人達がいるんだもの。


 そう考えると、暖かい気持ちと、胸の奥に何ともどす黒い炎と蛇のような、そんな感情が小さく芽生える。

 その感情を無理やり押しのけ、私は彼の手を握る自分の手に、更に力を込めた。



◆◆◆マルカ視点


「良かったのですか?」

「何の話だ」


 私が助手席に乗り込むと、松岡アスカが問いかけてくる。


「朝霧くんの事ですよ。彼女、神騎でしょう?」


 彼の疑問はもっともだ。彼や後ろの三人が人間に無害な『人魔』と言えども、所詮は魔である以上、神騎は天敵にして宿敵なのだ。


 だが――――。


「カルマは今まで、それこそ、私が分離し(うまれ)てから今日までずっと気を張って来たんだ。愛した女すらも拒絶して遠ざけ、たった一人でここまで来たんだ」

「ですがポルトガルには彼女がいたでしょう」

「ルルの事か。確かに彼女は良き理解者だった。だが、例え人魔でも、彼女はただの理解者であるだけだった。だからこそ、カルマにベタ惚れだったルルや、兄貴分として慕って来ていたキースにも黙って日本(ここ)まで来たんだ。


 だからもう、いいだろう? アイツがこれ以上孤独な思いをするのは」


 カルマがああなってしまったのには、私にも少なからず……否、私に非がある。

 私が生まれてしまったから、私が分離してしまって、彼の力を喰ってしまうから。


「孤独、ですか………。彼は、これまで孤独だとは思っていなかったかも知れませんよ?」

「なに?」


 運転中で、彼はこちらを見ることは出来ないが、横からその顔に優しい笑みが見て取れる。


「本当に孤独な人は、たとえどんなに隠していようと、あそこまで純粋な笑顔や表情を見せる事ができませんよ」


 その言葉は、私に衝撃を与えた。


「だが、私は―――」

「―――彼の一部だ、ですか?」


 言葉を取られ、私は沈黙する。


「だからこそ、なのかもしれません。貴女は確かに彼の持つ魔人の力が実体化した者なのかもしれません。ですが、彼に取ってはこれ以上無いくらいに近しく、信頼できる相手だったのかもしれません」


 ここでアスカは、一つ間を置いてまた話を続ける。


「彼は『魔』の中でも、特異中の特異、人魔にも魔人にも属さぬ『屍魔人(しかばね)』なのですから、きっと、貴女のような相談相手が救いになっていたのでしょう」

「だが、私は魔人だ。屍魔人(しかばね)の事など全く知らない。だから、私は特にアドバイスなどできていないぞ」


 私が言うと、アスカは少しだけ笑う。


「それはまぁ、カルマ君の事です。あの好奇心旺盛な彼が、自身から生まれた貴女を放っておくと思いますか?


 それに貴女は、自分はカルマ君の分身体だと言いますけど、彼とは感覚も人格も、全くの別人でしょう?

 なら、貴女は貴女で、彼は彼です」


 彼の口調は穏やかで、暖かかった。その暖かさが、私の心を暖め、心の(しこ)りを取り除いて行く。


「ふふっ、確かにな………そうか、アイツは孤独では無かったんだな………そうか」


 そして珍しく、素直な気持ちでこういうのだった。



「ありがとう、アスカ」



次回は、とても短い(イチページ未満)ので、1/11の12時の予定です

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