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あの日交わした約束を  作者: フリムン
第一章 追憶
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Recllection:11 同盟

バトルその②です

バトル自体は短いです。

あれぇ?


『よう、〈同胞喰らい〉』

『お前は確か、〈覇拳〉だったか?』

『おうよ』


 ヒナタと梶原が〈奏でし獣〉と、〈熾神騎〉こと佐伯が〈天翔空羅〉と戦いを繰り広げる中、一人の魔人がオレに声をかけてきた。


『暇そうじゃねぇか。俺と()ろうぜ』

『暇潰しに殺し合う程、オレは戦闘狂じゃ無くてね』

『堅いこと言うなって』


 〈覇拳〉はあくまでフランクに話しかけるが、けれどその四肢に力は漲り、瀑布(ばくふ)の水圧のような純粋な戦意がオレの全身と意識を圧迫する。


『断る条件は?』

『俺をぶっ飛ばせ』

『断らなかったら?』

『俺がぶっ飛ばす』

『結局末路は一緒じゃねぇかよ! 戦ってんじゃんか!』

『気のせいだ』

『いいや違うね』

『ききき、気のせいだ』

『気のせいだった!』


 とまぁ、どこかで見たことあるような無いようなコントを棒読みで行う。


『しかしよう、なんかやる気出ないんだよな』

『んなもん、()ってる内にいくらでも湧いて来るさ』

『そうかなぁ』

『そうだ……ぜっ!』


 不意打ちだった。本当に不意打ちだった。

 〈覇拳〉は突然殴りかかってきた。


『ちょっ、まっ……ぶふはぁ!』


 すんでのところで防御は出来たが、踏ん張りが利かず、吹っ飛ばされてしまう。


『いってーなバカ! 怪我する所だったじゃねーか!』

『……怪我無いのか。やっぱりお前、イイな』


 彼の最後のセリフに、少々寒気を覚えたのはきっと気のせいなんだろうな。

 だが、彼の拳のお陰で、気合いは入った。


『痛いな、全く。まぁお陰さまで、気合いは入ったよ』

『そいつは何よりだ。痛かったんなら、後でやり返せばいいんだよ』

『倍返し?』

『さぁな』


 オレ達は、互いに向き合い、名を名乗りあう。


『吾が名は〈同胞喰らい〉カルマ。魔を狩り、己が(つみ)を纏う者なり』

『吾が名は〈覇拳〉フィスト。拳を意味し、故に全てを打ち砕く者なり』


『はははっ! 待ってたぜ、今この時を! 行くぜぇ、カルマぁ!俺と勝負だ!』


 接近し、繰り出された勢いと速度のあるその右拳を、両の掌で流すようにいなしながら、左へのターンステップを踏む。

 それによりオレから見てがら空きになったわき腹へ膝を入れる。しかしそれは、フィストの有り得ない程の反射神経と瞬発力によって避けられる。


『なんて反応速度だよ!』

『お前こそ、いいセンスしてるよ』


 顔面目掛けて振られる上段蹴りを、バク転を使って、後退しながら躱す。

 すぐさま姿勢を立て直し、姿勢を低くする。


『お互いに徒手空拳の使い手。俺は、こんな戦い初めてだぜ! 愉しいねぇ』

『そりゃお前だけだフィスト。この戦闘狂め』

『誉め言葉だな』


 足に力を込め、強く蹴り出してフィストの目掛けてダッシュする。左を大きく踏み込み、腰を捻り、体幹から出される力の伝達を、損失なく右拳に乗せる。

 フィストは避ける動作も無く、オレの拳打に合わせて、自らも拳を突き出す。


『うらぁぁあ!』

『せぇぇぇい!』


 オレの気合いとフィストの唸り声が重なり、拳と拳がぶつかり、競り合う。

 だが、それも一瞬。

 とっさに体を屈め、足を回してフィストの軸足を刈り取るように蹴りつける。


『うおう!』


 バランスが崩れたフィストの顔目掛けて、両手を着いて上へ跳ね上がるように蹴りを打ちつける。


『ぐはぁ!』

『うっし!』

『痛ぇな、オイ』

『やり返しただけさ』


 距離をとり、オレ達は言葉を交わし合う。

 そしてオレは彼の発した言葉に、絶句した。


『なぁカルマ』

『なんだよ』

『俺、帰っていい?』

『…………………』


 ああ、人はきっと、こんな時に絶句するんだろうな。


『……………』

『……………』

『……………は?』

『いや、だから、俺もう帰っていい?』

『はぁぁぁぁぁあああ!?』

『うわ、ビックリした』

『ビックリしたのはこっちだよ! 何だよ帰るって!』

『帰るんだよ、俺んちに』

『お前んちって、お前家あんのかよ!? ああいやそうじゃなくて!』

『落ち着け』

『落ち着けるかぁ! お前も何か言ってやれ、マルカ!』

『いや、落ち着けって、カルマ』


 オレが慌てていると、マルカが話しかけてくる。


『〈覇拳〉の言うとおりだ、落ち着け、カルマ。フィストとか言ったな、何故帰るのだ?』

『? どした、カルマ?』

『……そう言えば、私の声は今、カルマにしか聞こえないのだったな』


 それを失念するとは、マルカも少なからず動揺しているのだろうな。


『なぁフィスト、なんで帰るんだよ?』

『今のお前と戦った所で、俺の欲求は満たされないからな』

『どういう意味だ?』


 フィストの真意が掴めず、首を傾げたオレに、彼は答える。


『お前今、全力じゃないだろ』

『―――っ!?』

『オレは強い奴と全力で戦いたい。お前は強い。なのに、お前が全力じゃないと何の意味も無いじゃないか』


 確かに、オレは全力じゃない。いや、全力で戦えない(・・・・・・・)。そんなことをすれば、オレは反動でたちまちこの肉体を滅ぼすだろう。

 だからきっと、オレが全力になるのは、最後の最期なんだろうな。


『悪いな、今はまだ、その時じゃなくてね』

『そうかい。なら、その時にまた()ろうや』

『そうだな』


 それで納得した彼は、オレに背を向けて歩いていく。


『これで良かったのか? カルマよ』

『良かったさ。それに、これ以上戦えば、オレの体が持たないさ』

『だが、魔人は後二人いるぞ?』

『わかってる』


 オレは、息を大きく吸い込むと、戦っている5人に向かって大声で叫んだ。




『ストーーーップ!』




 その声に、全員が動きを止める。


『よし』

『よし、ではないバカ者。耳が痛いでは無いか』


 みんなが止まった中で、最初に動いたのは、予想の通り、〈熾神騎〉の佐伯だった


「何でしょうか、〈同胞喰らい〉さん?」

『一つ提案があってね。一口乗らないか?』

「提案、ですか?」

『ああ、そうだ』


 オレは、考えていたある計画を口にする。



『神騎達、オレと同盟を組まないか?』



 再び沈黙が場を覆う。

 当然だろう。魔人が、神騎と手を組みたいと言ってきたんだからな。


「同盟? そのメリットは?」

『簡単な事さ。お前ら神騎は魔人を討つ。オレは自分の為に魔人を狩る。利害は一致した』

「君の目的とは………話す気は無いのですね」

『話が判る奴は好きだぜ』

「しかし、それでは手を組む事が出来ません」

『そこまでガチガチに手を組もうって訳じゃない。ただ、オレを討たない事、戦いに介入する許可をする事。オレの正体を追求しない事。この三つで十分だ』

「そして君は、僕たちに手を貸して、助けると」

『そゆこと』

「ふむ…」

 佐伯は考え込むように、マスク越しに顎を触る。

 と、そこで〈天翔空羅〉が激昂したように叫んだ。


『〈同胞喰らい〉! 貴様、そこまで堕ちたか!』

『墜ちるも何も、オレは人魔だからな』

『貴様ァ……それでは、貴様に喰われた〈火喰い〉が浮かばれんでは無いか!』


 怒りの余り、鼻息の荒い彼に、オレはため息混じりに答えた。


『勘違いするなよ。アンタら魔人に誇りがあるのは理解している。だが、それとコレは別問題だ』


 オレはここにいる全員を見渡し(ヒナタを少し長めに見つめてしまったが)、自分の思いを口にする。


『オレはただ、自分の願いを諦めないだけ、自分の想いを間違えないだけだ』


 オレの願いは、魔神を倒し、魔人を根絶する事。オレの想いはヒナタを愛している事。

 その言葉に、〈天翔空羅〉は言葉を止め、佐伯は満足気に(顔は見えないが)頷く。


「いいでしょう。僕は乗ります。梶原さんも朝霧さんも、いいですか?」

「私は、大丈夫です」

「アタシも同じく」

「というわけです」

『同盟成立か?』

「ええ」


 オレ達の同盟が成ると同時に、魔人達が撤退を始める。


『今は分が悪い。退くぞ、〈奏でし獣〉』

『はーい。じゃあね、お姉ちゃんたち。次は喰い殺してあげるから、楽しみにしてて』


 〈天翔空羅〉が翼を広げて〈奏でし獣〉を抱えて飛び上がる。


『〈同胞喰らい〉、我々は必ず貴様を殺す。我は貴様の目的を知らぬが、貴様がこの町に来た目的が何であれ、貴様が人魔である限り、我々は貴様を追い続ける』

『男のファンは遠慮したいね』

『フン』


 そして彼らは飛び去っていった。


『それじゃあ、オレも退散しようかね。オレの正体は探ってくれるな』

「わかっていますよ。約束ですからね」


 オレも、その場から立ち去り、一目に映らない場所を目指した。





「はぁ…はぁ……はぁ……」


 屋上へ繋がる階段の踊場で、オレは胸を押さえうずくまっていた。


「大丈夫か、カルマ?」

「だい……じょ……ぶだ」

「大丈夫には見えんが」

「大丈…夫、少し落ち着いて来た」


 壁にもたれ、座り込む。

 魔人化は、いつも負担が大きく、魂術を使った後はさらに反動が大きくなる。


「魂術はなるべく使わないようにしろ。最近の反動はデカすぎる」

「バカ言うな。あれが無けりゃ、オレはただ腕っ節が強いだけの、何の能力も持たない魔人になっちまう」

「だが、このままではお前の魔人化が進んでしまう」

「なら、その前に決着(ケリ)をつけるだけだ」

「簡単にいってくれるな」

 確かに、簡単には行かないだろうな。でも、やるしか無いんだ。例えこの身が滅びようとも。例え、独りになろうとも。




「願いを諦めない為に。想いを間違えない為に」


 自分の決意を込めた言葉を呟き、オレは立ち上がった。





次回は1/4と行きたいのですが、年末年始、もしかしたら忙しくて投稿出来ないかもです。

頑張りますので、見捨てないで下さい。


それでは皆さん、良いお年を



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