Recllection:11 同盟
バトルその②です
バトル自体は短いです。
あれぇ?
『よう、〈同胞喰らい〉』
『お前は確か、〈覇拳〉だったか?』
『おうよ』
ヒナタと梶原が〈奏でし獣〉と、〈熾神騎〉こと佐伯が〈天翔空羅〉と戦いを繰り広げる中、一人の魔人がオレに声をかけてきた。
『暇そうじゃねぇか。俺と戦ろうぜ』
『暇潰しに殺し合う程、オレは戦闘狂じゃ無くてね』
『堅いこと言うなって』
〈覇拳〉はあくまでフランクに話しかけるが、けれどその四肢に力は漲り、瀑布の水圧のような純粋な戦意がオレの全身と意識を圧迫する。
『断る条件は?』
『俺をぶっ飛ばせ』
『断らなかったら?』
『俺がぶっ飛ばす』
『結局末路は一緒じゃねぇかよ! 戦ってんじゃんか!』
『気のせいだ』
『いいや違うね』
『ききき、気のせいだ』
『気のせいだった!』
とまぁ、どこかで見たことあるような無いようなコントを棒読みで行う。
『しかしよう、なんかやる気出ないんだよな』
『んなもん、戦ってる内にいくらでも湧いて来るさ』
『そうかなぁ』
『そうだ……ぜっ!』
不意打ちだった。本当に不意打ちだった。
〈覇拳〉は突然殴りかかってきた。
『ちょっ、まっ……ぶふはぁ!』
すんでのところで防御は出来たが、踏ん張りが利かず、吹っ飛ばされてしまう。
『いってーなバカ! 怪我する所だったじゃねーか!』
『……怪我無いのか。やっぱりお前、イイな』
彼の最後のセリフに、少々寒気を覚えたのはきっと気のせいなんだろうな。
だが、彼の拳のお陰で、気合いは入った。
『痛いな、全く。まぁお陰さまで、気合いは入ったよ』
『そいつは何よりだ。痛かったんなら、後でやり返せばいいんだよ』
『倍返し?』
『さぁな』
オレ達は、互いに向き合い、名を名乗りあう。
『吾が名は〈同胞喰らい〉カルマ。魔を狩り、己が業を纏う者なり』
『吾が名は〈覇拳〉フィスト。拳を意味し、故に全てを打ち砕く者なり』
『はははっ! 待ってたぜ、今この時を! 行くぜぇ、カルマぁ!俺と勝負だ!』
接近し、繰り出された勢いと速度のあるその右拳を、両の掌で流すようにいなしながら、左へのターンステップを踏む。
それによりオレから見てがら空きになったわき腹へ膝を入れる。しかしそれは、フィストの有り得ない程の反射神経と瞬発力によって避けられる。
『なんて反応速度だよ!』
『お前こそ、いいセンスしてるよ』
顔面目掛けて振られる上段蹴りを、バク転を使って、後退しながら躱す。
すぐさま姿勢を立て直し、姿勢を低くする。
『お互いに徒手空拳の使い手。俺は、こんな戦い初めてだぜ! 愉しいねぇ』
『そりゃお前だけだフィスト。この戦闘狂め』
『誉め言葉だな』
足に力を込め、強く蹴り出してフィストの目掛けてダッシュする。左を大きく踏み込み、腰を捻り、体幹から出される力の伝達を、損失なく右拳に乗せる。
フィストは避ける動作も無く、オレの拳打に合わせて、自らも拳を突き出す。
『うらぁぁあ!』
『せぇぇぇい!』
オレの気合いとフィストの唸り声が重なり、拳と拳がぶつかり、競り合う。
だが、それも一瞬。
とっさに体を屈め、足を回してフィストの軸足を刈り取るように蹴りつける。
『うおう!』
バランスが崩れたフィストの顔目掛けて、両手を着いて上へ跳ね上がるように蹴りを打ちつける。
『ぐはぁ!』
『うっし!』
『痛ぇな、オイ』
『やり返しただけさ』
距離をとり、オレ達は言葉を交わし合う。
そしてオレは彼の発した言葉に、絶句した。
『なぁカルマ』
『なんだよ』
『俺、帰っていい?』
『…………………』
ああ、人はきっと、こんな時に絶句するんだろうな。
『……………』
『……………』
『……………は?』
『いや、だから、俺もう帰っていい?』
『はぁぁぁぁぁあああ!?』
『うわ、ビックリした』
『ビックリしたのはこっちだよ! 何だよ帰るって!』
『帰るんだよ、俺んちに』
『お前んちって、お前家あんのかよ!? ああいやそうじゃなくて!』
『落ち着け』
『落ち着けるかぁ! お前も何か言ってやれ、マルカ!』
『いや、落ち着けって、カルマ』
オレが慌てていると、マルカが話しかけてくる。
『〈覇拳〉の言うとおりだ、落ち着け、カルマ。フィストとか言ったな、何故帰るのだ?』
『? どした、カルマ?』
『……そう言えば、私の声は今、カルマにしか聞こえないのだったな』
それを失念するとは、マルカも少なからず動揺しているのだろうな。
『なぁフィスト、なんで帰るんだよ?』
『今のお前と戦った所で、俺の欲求は満たされないからな』
『どういう意味だ?』
フィストの真意が掴めず、首を傾げたオレに、彼は答える。
『お前今、全力じゃないだろ』
『―――っ!?』
『オレは強い奴と全力で戦いたい。お前は強い。なのに、お前が全力じゃないと何の意味も無いじゃないか』
確かに、オレは全力じゃない。いや、全力で戦えない。そんなことをすれば、オレは反動でたちまちこの肉体を滅ぼすだろう。
だからきっと、オレが全力になるのは、最後の最期なんだろうな。
『悪いな、今はまだ、その時じゃなくてね』
『そうかい。なら、その時にまた戦ろうや』
『そうだな』
それで納得した彼は、オレに背を向けて歩いていく。
『これで良かったのか? カルマよ』
『良かったさ。それに、これ以上戦えば、オレの体が持たないさ』
『だが、魔人は後二人いるぞ?』
『わかってる』
オレは、息を大きく吸い込むと、戦っている5人に向かって大声で叫んだ。
『ストーーーップ!』
その声に、全員が動きを止める。
『よし』
『よし、ではないバカ者。耳が痛いでは無いか』
みんなが止まった中で、最初に動いたのは、予想の通り、〈熾神騎〉の佐伯だった
「何でしょうか、〈同胞喰らい〉さん?」
『一つ提案があってね。一口乗らないか?』
「提案、ですか?」
『ああ、そうだ』
オレは、考えていたある計画を口にする。
『神騎達、オレと同盟を組まないか?』
再び沈黙が場を覆う。
当然だろう。魔人が、神騎と手を組みたいと言ってきたんだからな。
「同盟? そのメリットは?」
『簡単な事さ。お前ら神騎は魔人を討つ。オレは自分の為に魔人を狩る。利害は一致した』
「君の目的とは………話す気は無いのですね」
『話が判る奴は好きだぜ』
「しかし、それでは手を組む事が出来ません」
『そこまでガチガチに手を組もうって訳じゃない。ただ、オレを討たない事、戦いに介入する許可をする事。オレの正体を追求しない事。この三つで十分だ』
「そして君は、僕たちに手を貸して、助けると」
『そゆこと』
「ふむ…」
佐伯は考え込むように、マスク越しに顎を触る。
と、そこで〈天翔空羅〉が激昂したように叫んだ。
『〈同胞喰らい〉! 貴様、そこまで堕ちたか!』
『墜ちるも何も、オレは人魔だからな』
『貴様ァ……それでは、貴様に喰われた〈火喰い〉が浮かばれんでは無いか!』
怒りの余り、鼻息の荒い彼に、オレはため息混じりに答えた。
『勘違いするなよ。アンタら魔人に誇りがあるのは理解している。だが、それとコレは別問題だ』
オレはここにいる全員を見渡し(ヒナタを少し長めに見つめてしまったが)、自分の思いを口にする。
『オレはただ、自分の願いを諦めないだけ、自分の想いを間違えないだけだ』
オレの願いは、魔神を倒し、魔人を根絶する事。オレの想いはヒナタを愛している事。
その言葉に、〈天翔空羅〉は言葉を止め、佐伯は満足気に(顔は見えないが)頷く。
「いいでしょう。僕は乗ります。梶原さんも朝霧さんも、いいですか?」
「私は、大丈夫です」
「アタシも同じく」
「というわけです」
『同盟成立か?』
「ええ」
オレ達の同盟が成ると同時に、魔人達が撤退を始める。
『今は分が悪い。退くぞ、〈奏でし獣〉』
『はーい。じゃあね、お姉ちゃんたち。次は喰い殺してあげるから、楽しみにしてて』
〈天翔空羅〉が翼を広げて〈奏でし獣〉を抱えて飛び上がる。
『〈同胞喰らい〉、我々は必ず貴様を殺す。我は貴様の目的を知らぬが、貴様がこの町に来た目的が何であれ、貴様が人魔である限り、我々は貴様を追い続ける』
『男のファンは遠慮したいね』
『フン』
そして彼らは飛び去っていった。
『それじゃあ、オレも退散しようかね。オレの正体は探ってくれるな』
「わかっていますよ。約束ですからね」
オレも、その場から立ち去り、一目に映らない場所を目指した。
「はぁ…はぁ……はぁ……」
屋上へ繋がる階段の踊場で、オレは胸を押さえうずくまっていた。
「大丈夫か、カルマ?」
「だい……じょ……ぶだ」
「大丈夫には見えんが」
「大丈…夫、少し落ち着いて来た」
壁にもたれ、座り込む。
魔人化は、いつも負担が大きく、魂術を使った後はさらに反動が大きくなる。
「魂術はなるべく使わないようにしろ。最近の反動はデカすぎる」
「バカ言うな。あれが無けりゃ、オレはただ腕っ節が強いだけの、何の能力も持たない魔人になっちまう」
「だが、このままではお前の魔人化が進んでしまう」
「なら、その前に決着をつけるだけだ」
「簡単にいってくれるな」
確かに、簡単には行かないだろうな。でも、やるしか無いんだ。例えこの身が滅びようとも。例え、独りになろうとも。
「願いを諦めない為に。想いを間違えない為に」
自分の決意を込めた言葉を呟き、オレは立ち上がった。
次回は1/4と行きたいのですが、年末年始、もしかしたら忙しくて投稿出来ないかもです。
頑張りますので、見捨てないで下さい。
それでは皆さん、良いお年を




