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大親友の一徳

 結局、一人で学校についた。普段は妹やら友達やらで数人で通ってる事が多いのだが、今日は本当に色々とあった。


 いや、今日もと言うべきか。


 学校は中高一貫で高校と中学で校舎が別になっている。特色としては、どちらも新しい校舎だ。ピカピカの廊下に清潔感のある食堂、最新器具を取り揃える部活や全部屋に装着された冷暖房可能なエアコンなど至れに尽くせりだ。

 なぜここまで豪華かというと、それは相沢町の方針が大きい。十年前から他の市や町が合併を繰り返しているのを見て危機感を覚え、とにかく人を増やす努力をした。

 市長が第一に切り出した政策、それは『学生に優しい町』である。学費も住み込み費もほぼ無料、贅沢物以外の買い物品はどれも学生割引などなど。

 結果的にこれが大当りした。学生が増えたのを機に様々な企業が参入し、田んぼが連なっていた場所はすぐに埋め立てられ大きなマンションが建った。人口は数倍に膨れ上がった。


 俺はその景観の変化を1から見てきた。正直、寂しい気持ちが大きい。

 特にこの学校に対しては言いたい事がある。無駄に豪華な作りをしていて、実に鬱陶しい。幼い頃に見たここは、荒れたグラウンドや小さい食堂やボロボロの部室という、必要最低限の物しか無かった。それが好きだった。


 無駄に豪華な廊下に無駄な置物の花瓶の横を通り無駄に大きいドアの教室に入ると、すでに真鳴が座っていた。

 真鳴の周りは女の子がたくさんいた。これは見慣れた光景だ。真鳴は女にモテる。男にもモテない訳でないが、とにかく女性に良く好かれる。

 そう、囲んでる奴らが噂を立てるのだろう……、俺と真鳴が付き合っているという。

 これ以上何かあらぬ噂を立てられるのも嫌なので、真鳴が俺を向いて手を振ってきたのを無視して椅子に座った。


 さあ、授業を受けよう! 俺の大好きな授業が始まるぞ!


「Zzzzz……」



 ………………





 朝の授業が終わった。いや、終わっていた……。


 言い訳させて貰うと、今日は朝から大変だった。別に勉強が嫌いなわけではない。

 ただ、勉強をしたいという気持ちより、ほんのちょっぴり眠りたいという欲望が勝っただけだ。


「おーい、竜二ーー!」

 ちょうど目が覚めた頃に、俺の大親友である田中一徳が来た。

「よう親友。今日もかわいいぞ」

「それ親友に言う言葉じゃないよね!」


 一徳は今年クラスが同じになり仲良くなった。顔は童顔で髪は長く、背も低いので年齢より低く見られがちだ。そして名前でも分かる通り、男なのだが……

「しかし、お前って本当にチ〇コついてるんだよな?」

「失礼な! ついてるよ! 食事前に言うのも何だけどな!」

 と、確認せずにはいられないほど女に見える。ちょっとすました生意気ガールという感じだ。

「はあ……、人間の体って無駄な所が無いって聞いたけど、それはウソだったらしいな」

「全然無駄じゃないから! これから酷使していくから! まだ予定だけどな!」


 焦る姿も可愛い。この際はっきり言おう、俺は女として見ている。

「全くもう! そんな事よりだな竜二、大ニュースがある!」

「なんだ? ついに女として生きていく決心がついたのか?」

「違う! それより竜二の下駄箱にさあ、手紙を入れてる人を発見したんだよ!」

「手紙かー。なんだろうな、進研ゼミかな」

「進研ゼミは学校まで押しかけないだろ! 手紙って言ったらラブレターに決まってるでしょ!」

 何故か俺よりも一徳の方が興奮していた。

 俺はとりあえず

「で、誰が入れたんだ?」と、聞いた。

「それは見えなかった。何か入れる所だけ見て、それで僕が下駄箱を開けて確認したわけよ。手紙が入ってた」

「なるほどなー」

 そう言って、俺は一徳の頭を撫でた。

「なあ一徳よ、こんな事をしなくても、直接渡してくれれば良いのに。そんなに俺に告白するのが恥ずかしいか」

「何で僕がお前に! 手をどけろ!」

 バーンと荒々しく弾かれた。結構痛い。

「ともかく! 今から確認しに行くぞ! 竜二は気にならなくても俺が気になるよ」

「めんどくせーなぁ……、まあ暇だし行ってみるか」


 長時間の睡眠により重くなった腰を上げ、下駄箱に向かった。




 下駄箱の前に着いた。とりあえず辺りを見回すも、特に怪しい人もいない。

 開けると、真っ白な封筒が一枚入っていた。

 雰囲気からしてラブレターでは無さそうに見えた。

 更に開いてみると、中に手紙が一枚、こちらも真っ白だ。一瞬白紙かと思ったが、薄い綺麗な字で書いてある。

『今日の放課後、屋上で待ってます』

 それだけ。本当にそれだけだった。名前も書いてない。


 ということは──


「やっぱり、お前だったのか一徳! ようやく素直になったか」

 頭を撫でようとしたが、今度は触る前に弾かれてしまった。

「本当に僕じゃないよ。これは断言出来る。人が入れるのを見ただけ」

「そうか」

 考察をしてみた。

 誰かが手紙を俺の所に入れた

 何の変哲もない手紙に文章

 俺を呼んでいる


「これ多分さ、不良が俺を呼んでるんだろう」


 そう結論づけた。

 そして残念なことに思い当たる節もある。今朝の不良達だ。俺はケンカに乗り気は全く無かったのだが、蹴ってしまったことも事実なわけで……


「僕はラブレターだと思うけどね。しかし念のため、俺と一緒に行ってみるか?」

 俺は竜二の額を軽く叩いた。

「痛っ! 何するんだよ」

「相手が女にしろ不良にしろ、お前はついてこなくて良い」

「……大丈夫か?」

「まあ向こうもそんな簡単に手は出して来ないだろう。万が一襲ってきても、相手が一桁なら何とかなるさ。それに……」

「それに?」

「女に怪我させちまう男なんて、最低だろ?」

「だから僕は男だって!」

 一徳にお前も一応気をつけろと言って、俺たちは別れた。




 今日の授業が滞り無く終わり、放課後になった。せっかく学校が終わったというのに、俺の気は重かった。

 今まで屋上には行ったことが無かった。行き方を事務のお姉さんに聞いて階段を上がっていった。

 一番上の階にドアがあった。誰かが通った後か、少しだけ開いている。しかし屋上を覗ける大きさでは無く、空気圧の違いによる風が吹いていて、余計に不気味だった。

「仕方ねえ、行くか」

 別にケンカをするわけでは無かった今朝でも体は動いたのだ。そう、前向きな気持ちでドアを開けた。


 ──ギギギギギ……


 少し錆びているのか、ひらけるたびに不快な音が響いた。

 完全に開くと──そこには


「ようこそ、お待ちしておりました」

 美しい女性が一人立っていた。


 顔は日の関係で見えづらいが、髪は長く銀色に輝く美しい艶やかさで、シルエットでも美しいと分かる。たたづまいも綺麗だ。

「少し、お話がしたいのですが……」

 声も、漫画やアニメに出てきそうなお嬢様みたいだ。ゆっくりと喋り、その一つ一つがしっかりと響く。

 俺はそんな彼女にゆっくりと近づいていき……


 ──胸ぐらを掴んだ


「ほーう、姉ちゃん、一人で喧嘩売るなんて上等やないか!」

「なんでやねん」

 はい、美しいイントネーションのなんでやねん頂きましたー。

 なんで↑や↓ね→ん→のイントネーションは実にお嬢様っぽい。

 というか、良い匂いがする。たぶんええ香水使っとるんやろうなぁ。

「いやその……、一人で俺に喧嘩を売って、、ケツの穴に手ぇ突っ込んで奥歯ガタガタゆわしに来たのかなぁと」

「なんでやねん。それに、何故なにゆえわたくしが、あなたのケツの穴から手ぇ突っ込んで奥歯ガタガタゆわさ無ければいけないのですが」

 はい、恐らく日本語の中で一番汚い喧嘩言葉頂きましたー。


「何だろう、このお嬢様に汚い言葉を言わせる快感は……。まるでまっさらな紙に色を塗っていくような感じだ。世界よ! これが日本の芸術だ!」

「あのー、本当にもうよろしいですか?」

「はい、よろしゅうおまんます……」


 俺は彼女と向かい会って顔を良く見た。

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