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妹2人

 小春日和の暖かい気温の中、ここ相沢市では桜が満開を迎えている。

 お年寄りから子供まで、みなが桜を楽しみにしていると言っても過言では無い。それは認めよう。


 しかし俺は大嫌いだ。何故なら桜は散ってしまう。


 別に詩人みたいに散る事が儚い、もしくは寂しいみたいな事を言いたいのでは無い。むしろ短い生涯を精一杯生きる姿は俺も好きだ。


 だが、散った後を掃除する身にもなって欲しい。更に言うと、寺を抱える者の身にもなって欲しい。


 俺の家は代々寺を抱えてきた。昔は全国でも有名なぐらい大きくて、村全体から色々な寄付がされていたらしいが、今では賽銭に放り込んでくれる小銭と、大きさは20畳ぐらいの座禅や食事をする場所と、3メートルぐらいのホトケさんが一体置いてある場所と、小学校のグラウンドぐらいの広さのおよそ100坪の土地という、小規模になってしまった。

 場所はわりと都会のすぐ側にあり、山にそうようにして階段が100段近くある上に建っている。たまに来る人には丁度良い運動かもしれないが、毎日昇り降りしてる身としては少々辛いものがある。


 そんな場所を朝の6時に一人で、俺は掃除をしていた。

「今日も桜積もってるなぁ……。クッソだるい……。火つけたら全部一掃出来ないかな」


 桜の積もった階段を一番上から眺めていたら、自然とため息が溢れ出た。

 そんな俺をあざ笑うかのように、桜はちりちり降ってくる。もはや永遠と形容しても良いほどに。


 俺はここの寺の神主の子供として産まれ、両親と妹2人の計5人で管理をしていた。

 親父は神主としては中々の評判であったが、かなりの放浪癖を持っていて、週に一度しか家に帰ってくる事は無く、次第に月1、3ヶ月に1……となっていき、今では完全に放置状態である。

 そんなオヤジに見かねた母は俺が中一の時に実家に帰ってしまった。まあ、無理もない。むしろ物心がつくまで良く育ててくれたと言える。


 現在俺は高校二年生。身長は180ぐらいで目付きが少々悪い。髪は短めで金色に染めている。金色は神主にしては見栄えは悪いかもしれんが、将来的に本格的に寺を引き継いだ時に短く黒くするので許して欲しい(坊主は死んでもやらんが)。体は細めだが華奢では無い。

 これらを総論すると、袴こそ着ているものの、寺とは全くもって似合っていない風貌だ。賽銭箱を掃除してると、それごと盗もうとしている若者に間違えられたぐらいだ。

 ただ俺は親父とは違って働き者なので、近所の評判はそこそこ良い。まあ、まだ住職としては仮の身なので甘く見てもらってるのもあるが。


 そして一人での掃除は相当辛いわけで……。もちろん、しっかりと学校にも通っている。


「これ全部やってたら終わるのが7時半ばぐらいか……。今日は飯食う時間も無いか」

 俺が断食も覚悟したその時、寺の方から大きな声が聞こえてきた。

「お兄ちゃーーーーーーーーん!!」

 後ろから猛ダッシュで妹のマイがやってきた。そのまま抱いてくれと言わんばかりの腕の広げ方に、顔は朝とは思えないほど物凄い笑顔である。


 俺も渾身の作り笑顔で返した。


「マイ、おいで」

 優しく腕を広げた。

 それを見たマイは更に腕を広げ、口を突き出したまま──俺に飛びかかって来た。

「お兄ちゃーーん!」

 ゆっくりと空に舞いながらこちらに来るマイを見ながら


 ──俺は華麗に横に避けてみた。


「え?」

 俺という寄り場を無くし、マイはそのまま

「キャアアアア!!!……」という断末魔を残し、下に落ちてしまった。

 ドドドドドと子気味こぎみ良い音が鳴り響く。


「さて、掃除の続きをするか」

 俺は箒を握り締め、再び掃除に集中した。

 と、思ったものの、一応階段を見下ろしてみる。

 するとそこには半分ぐらいを降りた所に、逆立ちをしながら転げ落ちるのを阻止したマイの姿があった。

「……凄いなこれは。体操でも10点満点ってレベルじゃねーぞ。中国よ、これが日本の体操だ!」


 そして俺は掃除を再開した。


「お兄いちゃんーーーー」


 俺は掃除を再開した。


「お兄ちゃんーー」


 俺は真面目に掃除をしている。


「お兄ちゃんー」


 掃除を頑張る。


「お兄ちゃん!」


 気づけばすぐ目の前にマイの顔があった。

 若干泣きそうな顔で俺を見ている。

 相手にして欲しい気持ちも分からなくはないが、俺も掃除に忙しいわけで……


「うるせえなさっきから! 邪魔以外の何ものでも無いぞ」

「お兄ちゃんこそ! 妹が100段もある階段を転げ落ちていくのを見て、何か言うことはないの!」

 顎に指を置きながら少し考えてみた。

「うーん、10点満点おめでとう、かな」

「ザッツライト!」

 マイは満面の笑を浮かべながら親指を立てた。

「ビシッ!」

「いやビシッとかいらないから。親指を立てた時の効果音を自分の口で言わなくて良いから」


 とにかく騒がしい妹のマイなのである。

 中学二年生で身長は150センチぐらいで髪は茶髪で短めで頭の左上を軽く縛ってある。茶色と言っても地毛である。目が大きくて、いつでもウザイぐらいに元気いっぱいだ。デビュー当時のBZビーズの松本ぐらいハキハキと喋る。

 そしてもはや説明不要ではあるが、運動神経がかなり発達している。というか常人離れしている。プロ野球からバッターとピッチャー両方で育てたいと言われている程だ。

 顔は主観だが、かなり可愛い部類に入ると思う。正月に巫女の格好をさせたら、写真を取ってくれと行列が出来た程だ。その時は普段見られない、少し恥ずかしそうに照れたマイが見れた。


 そんな我が妹であるが、実は血が繋がっていない。俺が物心付く前の頃に、神社に置き手紙と一緒に置かれていたらしい。

 とはいえ特段意識するわけでもなく、俺は普通の妹として接してきた。マイはどう思ってるかは知らないが、まあ普通の兄として俺を見ていると思う。


「というわけでお兄ちゃん。何か手伝おうか?」

「おお、それはありがてえな」

 妹はここを継ぐ訳では無いので、掃除をする必要は全くないのだが、こうして自主的に何度も手伝ってくれている。これは本当に助かる。

「そうだな、それじゃあ座禅部屋前の廊下の拭き掃除をやってくれないか」

「えー! 私もお兄ちゃんと一緒にここの掃除をしたいよー。私なら逆立ちしながらでも30分あれば掃除出来るよ」

「普通に立ってやれ」

「なら40分ってところかな」

「つっこまんぞ……、俺はつっこまんぞ……」

 本当にやりかねないのがマイの凄いところだ。俺はちょっと真剣な顔をして

「階段は人が見る場所だからな。しっかりやらないとダメなんだ。だから俺がやるわけ。分かった?」

「うん……」

 重要な場所をやるなと言われて、マイは珍しく落ち込んだ表情を見せた。

「あとマイは廊下の掃除が上手いからな。何回もピカピカに磨いてくれて廊下も喜んでるだろう。そこを俺は買ってる」

「うん!」

 褒めてやると今度は凄く嬉しそうな顔をした。

 この物事を引きずらない性格はマイの素晴らしいところだ。正直うらやましい。


「お兄ちゃーん!」


 マイは再び手を広げながら俺に飛びかかってきた。 


 俺は前回と同様に横へと回避した。


 しかしそこは我が妹、二度も同じ手に引っかからない。器用に俺の前で足を付き、急ブレーキで止まってみせた。そして俺の方を向いて

「了解なのです!」と、言いながら美しい敬礼をした。

「ビシッ!」

「だからビシは言わなくて良い。次からは口で出さずともビシッと鳴るように頑張って練習しろよ」

「うん。分かった!」

 ……ちょっと練習すれば本当にやりかねないのがマイの少し怖いところではあるのだが。


 マイは座禅部屋に向かって駆け出した。いつも物事を決めるのは遅いが、決めてしまえば音速の如く走り出してしまう。誰も止められない程に。

「雑巾でやる必要はないからなー、軽く掃いてからモップがけで良いぞー」

「分かったお兄ちゃん!」

「それと足を冷やさないようになー」

「了解だよお兄ちゃん!」

「しんどくなったら無理してやらなくていいぞー」

「お兄ちゃん大好きー!」


 今気づいたのだが、どうやら妹の兄好きは一方的に妹が悪いという訳では無さそうだ。


 何といえば良いのか分からないが、マイと一緒にいると母性みたいな物が働いてしまう。俺も面倒見が良いというわけでも無いが、マイが何か行動する度に気になってしまう。

 確認の意味も込めて、ちょっと自分の胸を揉んでみた。

 よかった、何も出なくて。


「ずるい……」

 不意に後ろから声が聞こえて来た。ビックリして振り向くと、俺のすぐ後ろにもう一人の妹がいた。驚くことに、全くと言っていいほど気配が無かった。


 名前は木佐貫といい、中学二年生で身長は少し低めの155センチでマイと少し比べて大きい。そして背だけで無く胸も大きい。青髪で長いポニーテールをしていて、遠くを歩いていてもすぐに分かる。


 そんな木佐貫が、どこか寂しげな表情でこちらを見ている。まるで見捨てられた子犬のような雰囲気を漂わせている。


「普通にビックリしたぞ。突然話しかけるのはやめろって言ってるだろ」

「ずるい……それはずるい……」

 まるで念仏を唱えるように同じトーンでぶつぶつと呟いている。

「何がずるいんだ?」

「私が後ろにいるにも関わらず、マイとイチャイチャして……、私は兄さんに頼まれる前から掃除をしているというのに……」

「ああ、ごめんな木佐貫」


 俺は木佐貫の頭を優しく撫でてやった。

 木佐貫は一瞬嬉しそうな顔を浮かべたが、すぐに素の表情に戻り

「兄さんは反省していませんね。、とりあえず頭を撫でてれば私の機嫌が治ると思っているのでしょう。バレバレです」

 そう言って、ジト目で俺を睨んできた。

「ジト目キャラ特有の鋭い考察やめろ」


 すぐに頭から手を離すと、今度はそれを見て木佐貫は少し寂しそうな顔をした。

 

「全く、兄さんは女心が分かっていませんね」

「俺も今の一瞬で痛感したわ」

 

 木佐貫は普段感情を表に出すことはほとんど無い。文学少女、クールビューティ、クーデレ姉さん、と言ったように色々なコードネームを持っている。

 しかし彼女の性格はと言うと、真逆と言っては語弊が少々あるが、そう言っても過言でないほど見た目とかけ離れている。

 とにかく行動力が凄い。爆発力のあるマイと比較すると、こちらは継続力がある。去年の夏休み前の学校での授業で担任が「夏休みの宿題は明日まででーす」という冗談を言ってしまい、木佐貫はそれを目に大きいクマを作りながらやり遂げてしまった。

 そして驚いた担任に一言

「あっ、あれってジョークだったんですね。あまりに下らないから分かりませんでしたよー」と、何故か勝ち誇った顔をしていたらしい。我が妹ながら敵に回したくないタイプだ。


 あと木佐貫という名前のことなんだが……、これはその前に一つ説明しなければならない事がある。

 木佐貫も俺の実妹ではない。しかもこちらは小学校高学年の時に入ってきたので、マイとは違い、物心がついた後に家族になった。親父が旅先で一人で佇んでいる彼女を見て拾ってきたらしい。

 木佐貫は今でこそボソボソとではあるが喋るのだが、家に来た当初はほとんど喋らなかった。そんな彼女を見かねた俺とマイが名前を尋ねたところ、何故か手に持っていたプロ野球選手の選手名鑑を開だし、『木佐貫』という選手を指さした所からそう呼ぶようになった。

 しかしそれから月日が立ったある日、俺たちが確認の意味を込めてもう一度名前を聞くと、今度は『山本昌』を指さした。今更変える訳にもいかず……俺たちはそれを見なかった事にした。マイは「もしかしてラジコンちゃんじゃないの? もしくはスクリューちゃん」と未だに深読みをしている。


「で、兄さん。私は何をしたら良いんですか?」

「そうだな、マイと同じところを頼む」

「分かりました兄さん。それでは、これはいりませんね」


 そう言うと木佐貫は背中から、俺の体と同じぐらいの大きさはあろうかという特大チェーンソを下に置いた。


 甲高い大きな音が──ガンッと鳴り響いた

 この神社とも桜とも合わない特大チェーンソが美しい光沢を放っている。

 俺は驚きの余り、一瞬言葉を失った。


「あのなぁ、こんなデカイ物を使う場所があるのか。冷静に考えてくれよな」

「私、いつも冷静」

「……確かにそうだな」

 木佐貫は不敵なえみを浮かべた。

「ニヤリ」

「いやニヤリじゃねえよ。何なの? 最近は効果音を口に出すのが流行ってるのか?」

「はてな?」

「地味に馬鹿にされてる気がする……」

 

 座禅部屋がある方を見ると、既にマイが掃除を始めていた。それを木佐貫は見て

「私も行ってくる」と言い、音も立てずに走って行った。

 

「てか、このチェーンソはどうすれば良いんだ……」


 人手と共に、このチェーンソを人目につかない場所まで運ぶという手間が増えてしまったが、まあ掃除が終わる時間は格段に早くなったのでそれで良しとしよう。

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