革命家とテロリストと 2
今回は、けっこう、短めです
「トーヤ、どこ行ってたのよ!」
青年が部屋に入ると同時に、少女は駆け寄り、仁王立ちで青年に立ち塞がるのだった。
「どこって。……外?」
「………………」
明らかにはぐらかされ、少女は拗ねたように頬を膨らませる。
「じゃあ、こんな夜遅くまで、なにをしていたの?」
青年は横目で、壁にかかっている時計を見やる。現在時刻は九時十二分。青年は遅いとは思わないが、少女にしてみれば遅いと思うのだろう。少女の生活サイクルがわかる。
「目を逸らさない。正直に話しなさい、私の目を見て」
キッ、と上目遣いで睨む、愛らしい少女に小さく微笑む。
「男には色々あんだよ。女には、わからない」
青年は、少女の横を通り抜け、居間に入る。アッ、と少女が息をのむ音がしたが、気にせず進む。居間のテーブルの上は、スナック菓子の袋が、盛大に、食べ散らかされていた。
青年は、思わず振り返る。
「だって、お腹すいたんだもん……」
しょうがないでしょ、と言わんがばかりの口ぶりで、そっぽを向いて、青年を見ようとしない。
「ルームサービスが来たろ? そいつはどうしたんだよ?」
「来たけど……。サンドイッチだけじゃ、足りないわよ」
ハァ、と青年は嘆息をつき、袋菓子のゴミを片付け始める。
「ところでトーヤ。今日の新聞は?」
(それより先に、片付けろよ。お前が散らかしたんだろう)
眉根に皺をよせ、少女の方を振り向くと、少女は両手を前に突き出し、ちょうだいのポーズをしていた。
青年がイラついていることに気付くと、少女は慌ててゴミ箱を持ってくる。
「……あの、トーヤ? 今日の新聞は?」
このねぐらに辿り着いてからというもの、毎日、少女は青年にアーカル国の新聞を買ってくるようにせがんでいる。青年にしてみれば面倒極まりなかったが、少女にとって故郷の新聞は大事な意味を持つらしく、一応お嬢様である少女の機嫌が良くなるのなら、と青年は毎朝、近くの売店で新聞を買いに行くのが日課になっていた。
「……買い忘れた。……そんな睨むなって。いろいろ忙しかったんだよ、俺も」
青年は、一通りの掃除を終え、倒れこむようにベッドに寝転がる。
「じゃあ、買ってきなさい。あなたの仕事でしょ」
チラッと少女を見やると、腕組みをして凄まじい目つきでこちらを睨んでいた。
(いつから俺の仕事になったんだよ)
そう言い返したかったが、少女の剣幕に押される。この少女のすごみは、これはこれでなかなかの迫力がある。とても十歳やそこらの少女のオーラではなかった。
「今日、読まなくたって、別にニュースは変わったりしないよ。もう夜遅いんだから、寝ろ」
「……トーヤ、お風呂は?」
「明日はいる」
そう言って、青年はベッドにうつ伏せになる。
「トーヤッ、昨日もそう言ってはいらなかったじゃない! 今日は外を出歩いてきたんだから、はいりなさい!」
少女は焦った様子で青年の肩をグワシグワシと揺さぶる。
「っるせーな。お前は俺の母ちゃんか!」
青年はうっとうしそうに、片手で少女を振り払う。
「最ッ低ッ、不潔ッ!」
そう、少女は叫び、シャワールームに駆け込んでいくのだった。




