表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/22

第7話 待望の

一部残酷な描写が含まれますのでご注意ください。


こんにちは、皆様。アツシです。



俺は今、とってもツッコミたいです。


そりゃもう全てに。




特にこの。



目の前で酒を飲んでる女。



アマゾネスもびっくりの筋肉バカ。


が持ってる巨大ハンマー。




……まさかあの魔神なみにツッコミたくなるキャラがいるとは思わなかった。








 ◆ ◆ ◆






あの時何が起きたか。振り返るのもバカらしいが一応説明しておこう。


俺が意思を固めてカッコよく決めたその瞬間。

叫び声が聞こえてきた。だけなら俺も無視しただろう。

が、『避けて』なる物騒な単語が含まれたとあっちゃ振り向かざるを得ない。


―――振り向いたら、目の前に巨大な凶器が迫っていた。

俺の2倍はあろうかというビッグなハンマー。



うん、自分で言うのも何だが本当によく避けれたと思うぞ。

直撃してたら死んでただろうな。俺は避けたが後ろにいた狼が直撃喰らってたのを見たし。

なんか手足がちぎれてた気がする。土煙でよく見えなかったが、何かが飛んでいったのは判ったから。

人間、死にそうになったら全てがゆっくり見えるもんだな。


で、それで終われば文句はなかったんだが。

その凶器、回転していたらしく直撃した狼を吹き飛ばしたんだよな。

恐らく手足ちぎれてるだろうソレを。

そして血が噴出す物体が飛ばされた先には別の狼がいたんだ。

ビリヤードみたいに狼同士が衝突していた。俺の目、よくついていけたな。

一瞬でホラー現場の出来上がりだぜ。



この時点で冗談みたいな話。

でもまだ終わりじゃない。狼2匹をスプラッタに追い込んだハンマーは回転を止めていなかった。

後で聞いた話によるとハンマーに糸が結んであったらしい。

オイ、物理法則どこいった。どうやったら絡まずにあんな動きできるんだ。

てかそんな糸あったら軌道上エレベーター余裕で完成できるわ!



おっとついツッコミいれてしまった。先に言っておくがつっこんだら負けだ。この話。



話を戻そう。物理法則はともかくだ、そのハンマーは回転しながらどうしたか。


……いきなりジャンプしやがった。

まあ飛んできた以上は飛んでも不思議はないな、うんうん。

でも放物線どころかほぼ直角に飛び上がるのはどうかと思う。

地球で実演したらテレビで検証番組作られるな、絶対。


その摩訶不思議なハンマー君は、だ。

ジャンプしたと思ったら俺の方へ再び落下してきやがった。

殺意なんてチャチなもんじゃねぇ。俺を滅ぼす怨念がこもってたな。


それを横っ飛び、というか転がりこんで避けた俺。奇跡は2度あるもんだ。

俺のいた場所の草というか地面をえぐりとったハンマー君、今度は水平方向に飛んでいった。

こちらへ来てたらお陀仏だったがそこは公平な彼。

土煙がもうもうと立ち込める中、キャインという悲鳴が聞こえた。

呆気にとられて見ていた哀れな狼2匹、そのうちどちらかにヒットしたらしい。

まあよくて全身骨折。ほぼ即死だろうな、あんなの喰らったら。


その後、短い沈黙。




俺の本能が何かをささやいた。

……ガイアじゃないぞ、言っておくが。



必死になって這って距離をとる。

その判断は大正解だったな。俺がいた場所へ3回目の突撃。

もうアレだな、ジェノサイドハンマーと名付けよう。

ル○ールさんが使ってくるアレみたいな無敵技だ。

連打してたら勝てるに違いない。


土煙で全く何も見えない中、俺は気配を殺していた。

予想が正しければ次は――



キャイン、と哀れな悲鳴があがる。



どうやら狼は全滅したようだ。

パターン的に敵味方を交互に攻撃、って感じだったものな。


俺は跳ね起きた。俺まで全滅させられたらたまらん。

そう思って全力で走り出したその時。



むにゅっ。



柔らかいものを感じたと思ったら、今度は何かに思いっきり激突した。

視界で火花が散り、意識がフェードアウトしていく中人影を土煙の中に見て……







で、起きたら女の膝枕だった、ってわけだ。


最後だけ聞けばいい思いしたじゃないって?



とんでもない。



女の顔や服が血まみれで、かつあのジェノサイドハンマーを担いでたんだぞ。


俺には死神にしか見えなかったっての!





その後、パニクる俺を片手で簡単におさえて女が説明を始めた。

なんでも草原で敵を探してたら振り回してたハンマーがすぽっと飛んでいったらしい。

頑張っておいかけたら俺にぶつかりかけてたので叫んで避けるところまで確認。

その後糸をたぐっても帰ってこないので駆けつけたけど土煙で視界が悪い。

立ち止まったところに俺がぶつかってきたけど気絶したので放置。

視界がよくなってから見るとブルーウルフが虐殺されてたので牙だけ回収し俺の回復を待ってた、そうだ。

時々ハンマーが暴れるので困った、と笑顔で言われた。


つっこみどころが多すぎるが俺のてぃーぴー(ツッコミポイント)はゼロだった。

すまん、これにつっこむにはツッコミLV5では足りねぇ……



かといってこのままでも困るので会話を試み、成功した。後学のために再現しておこう。



「えへへぇ、私の名前はリージアって言うんですぅ。よろしくお願いしますねぇ」


「お、おう。とりあえず……そのハンマー降ろしてくれる?」


「あー、すみませぇん。この子、私がもってないと暴れて困るんですよ~、えへへ」


「そ、それは大変だな。あーっと。もう俺大丈夫だから立ち上がっていい?」


「いいですよぅ。あ、でも周りはみないでくれると嬉しいですぅ~」


首を動かす俺。地面はボッコボコ。爆撃跡かという穴があいてる。時々狼のスプラッタ。

無言で戻す。膝枕から見える胸はかなりのボリュームだったが堪能する余裕は無い。

とりあえずハンマーから逃げないと死ぬ。逝っちまう。



「は、派手だな。元気でいいんじゃないか、ハハハ」


本当の乾いた笑いってこんな声が出るのか。どうでもいい知識だ。


「やだぁ、そんな褒められると照れちゃいますよぅ、うふふ~」


結論。早急に距離をとってそのまま別れよう。これはヤバい人だ。

ごろりと寝返りをうって膝から転げ落ちる。2,3回転してから立ち上がった。


「……まあいい。俺は用事があったので急いで戻らないと。助けてくれてありがとな、サンキュ」


幸い大した荷物もない。どこかに落ちてる背負い袋さえ拾えばあとはダッシュで離脱だ。

待望の女キャラだがこれじゃない。大事なことなのでもう一度。これじゃねぇ。


「そんなぁ、ご迷惑おかけしたのこちらですよぉ。狼さんの牙お返ししないと~」


袋は……あった。何とか巻き込まれずに済んだようだ。牙の配分は全力でお断りしたい。


「いやいや、あのままじゃ俺もヤバかったし。牙の状態も悪いだろうし、時間もあんま無いんだよ」


「う~ん。そういうことなら仕方ありませんかねぇ」


少しだけ修正。本人は悪いヤツじゃない、多分。

容姿は上の中くらいはある。ハンマーなしで黙ってればかなりの美人だろう。

スタイルもいい。金髪碧眼でポニーテール。お嬢様ぽい雰囲気。

ただお近づきにはなりたくない。うん、決して。

俺の方をじーっと見てるのは多分知人が少ないんだろうな。何故かは凡そ見当がつくが。

だが同情は禁物だ。俺のモテモテ計画のためにもリスクを背負うわけにはいかんのだよ。


「そうそう。お互い利益になる取引ってやつだ。それじゃ、な」


ここでまた会えたらとか言ったらフラグ間違いない。

とっととオサラバするに限る。俺は勢いよく背負い袋を拾うとリージアに背を向けて――



ずぅん。 


重い音が響いた。ぱらぱらという音も。

冷や汗が背中をダラダラ流れる。


「ああ~、忘れてましたぁ。私も帰りたいのですがぁ、門どちらでした~?」



俺はゆっくり振り返る。彼女は両手でお願いポーズをとっている。


ということは、あのハンマーは―――




俺を笑うかのように、ガタガタと震えていた。





  ◆ ◆ ◆




その後、ハンマーを拾うよう宥めつつ一緒に帰ることに同意したら何故か食堂で食事まで一緒するハメに。

俺の念願の一つである女性と2人きりで食事はこうして叶えられたのだった。

だって断ろうとしたらハンマー震えるんだよ。俺はまだ死亡フラグたてたくねぇ!


そして食後リージアが上機嫌になってお酒を注文し今に至る。

あの虐殺ハンマーはすっかり大人しい。絶対呪いか悪霊ついてるぜ、アレ。

時間は午後2時をまわったばかり。ポッポーも慣れると気にならなくなる……かは自信がない。


外から見ればお嬢様風美人と食事して幸せに見えるんだろうな。

誰か代わってくれねぇかな……切に。



昼下がり、俺の願いは食堂の喧騒に溶けてゆくのであった。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ