第4話 冒険者ギルド
2016/2/1 修正
まだ見ぬ受付のお姉さんを夢見て冒険者ギルドという看板のかかった建物へ踏み込んだ俺。
そこで待っていたのは……男くさい絶望だった。
足が勝手にUターンしそうになったのは自然の摂理である。
まあ、冒険者達が男ばかりってのはいい。そういうもんだろ。
でもな。受付らしきところに座ってるのまで男1人ってどういうことだよ!
なんか明らかに妨害されてね?そこまでして俺の童貞守らせたいかあいつめちくしょう…!
しかし登録しないとマズいのも事実。
あの証明書以外に身分証明書手に入れないと門番にアレを毎回見せることになる。
呪ってやる……
入り口付近で踵を返してまた戻るという不審な動きをした俺。
周囲からの冷たい視線を感じつつ、正面のカウンターで受付らしき男性と対面するよう腰掛けた。
情報収集して強くなって森にあの子迎えにいくんだもん。ぐすん。
「あの、いかがなさいました……?」
若干怪しみつつ丁寧に声をかけてくれる男性。優しい声だ。
ちゃんと見たら凄いイケメンだった。女性冒険者ならドキドキだったろう。
あいにく俺は男で、美形男性を見たらリア充爆発しろと叫ぶたちである。
「あ、いえ、冒険者ギルドに来るの初めてだったもので」
内心をごまかそうと初心者ぶりをアピール。仲良くして損はないだろうしな。
「ああなるほど。それでしたら冒険者登録もまだですよね。」
「はい。何も知らないのでよろしくお願い致します。」
「それでは登録からですね。ギルド受付のレストと申します、よろしくお願いします。まずはこちらの水晶に掌で触れてください。左右どちらでも構いません」
ゆっくりと説明しつつカウンター下から大きな水晶を取り出す。
実に自然な動きだ。このイケメン、できるな。
いらん嫉妬を燃やしつつ水晶に手を乗せた。
「抽出した魔力パターンと個人データをギルドカードに刻みます。…? ええと。人間17歳、お名前はアツシ・チェスターさんでよろしかったですね?」
おおう、触れただけで名前とか判るのか。何か鑑定系の魔法かかってるのかもしれないな。
スキルとかバレるならちょっと問題なんだが。今のところは大丈夫……か?
今ちょっと間があったのが気になるが。おかしいところに心当たりが多すぎる。
「はい、あってます。触れただけで名前が判るなんて凄いですね」
素直に感想を述べておく。男性受付でよかったかもしれない。
女性だったら緊張して喋れなかった自信がある。
「名前に性別、種族、年齢、あとレベルに能力まで判ります。人物評価の魔法がかかってますね。偽ることはできませんのでご注意ください」
鑑定とはまた違うのか。能力って筋力とかだよな。スキルバレずに一安心。
あ、レベルが0ってところに疑問もたれたのかもしれん。後で要確認だな。
「そんなことはしませんけど。自分でいつでも見たりはできないのですか?」
「ギルドカードに書き込まれますのでその情報でしたらいつでもご覧になれます。変化してもリアルタイムで見るのは難しいですね。情報の更新は無料ですので、ギルドにお越しいただければ大丈夫です」
なるほど、他人は自分のステを見れないらしい。他にも俺は色々おかしいっぽいな。
「なるほど、便利ですね。それで僕のレベルはいくつだったのでしょう」
うん、大分自然に聞けた…つもりだがさて。
「ええとですね。がっかりなさらないで下さい。アツシさんのレベルは……0でした」
ガーン。なんてな。とっくに知ってたよ。それより一般的なレベルや他の冒険者が気になる。
「あ、そうなんですか……実感ありませんけど。それって凄くヘンなのでしょうか」
「あ、いえ。ギルドで初めて登録される方は大体5から10くらいですので、低いといえば低いのですけれど。レベル4以下の方って滅多に見ませんし0の方は初めてなので驚いてしまいました。申し訳ありません」
丁寧に教えてくれるレシルさん。惜しいな、女性だったらフラグたったかもしれないのに。無念。
一般人が5~10ってのは重要な情報だ。
「いえいえ、丁寧に教えてくださってるので助かります。他の冒険者の方はどれくらいのレベルなんでしょうか?」
我ながらヘンな受け答えだと思ったが、なんて言えばいいのか判らなかったんだよ。
日本ならいえいえ、の一言で通じるんだけどな。
「そう言って頂けると助かります。そうですね……個人の情報は教えられませんが、一般にという話でしたら。冒険者ランクによっても変わりますが、一人前と見られるDランクの方は20以上の方が多いですね。優遇を受けられるBランクにもなると30を越える方が殆どです。」
駆け出しと一人前の差が10レベル、一人前と優等生の差が10レベルってことだな。
俺の現状を考えるとレベル10を第一の目標とするのがよさそうだ。
「なるほど、とても参考になります。レベル10までなんとか頑張らないといけませんね」
「そうなりますね。大変でしょうけど頑張ってください。でも能力は寧ろ優秀な部類ですよ。それもかなりの」
お?能力っていわれてもどれか判らんがいい方らしい。10種あるが頑丈や幸運のことか?
「ええと。能力、どれくらいだったのでしょう?」
「ああすみません。データを全て刻めたので手を水晶から離してくださって大丈夫ですよ。カードがこちらになります」
レシルさんは再びカウンター下から何かを取り出し俺に差し出した。
魔神にもらった証明書と同じサイズのカードだ。カウンター下に発行機械なんかがあるのだろう。
「ありがとうございます。えーっと。能力、ってこの7つですよね」
渡されたカードには能力が載っていたが、5種類しかなかった。
記載されるのはレベル・名前・性別・種族・HP・MP・筋力・敏捷・器用・魔力・精神、のようだ。
「はい。冒険をはじめる方は平均で10前後、魔力は0の方も多いのですが。アツシさんは平均15で敏捷20と素晴らしい力をお持ちです。魔法を覚えられればきっと大きな力になってくれると思いますよ」
やや興奮気味に語ってくれるレストさん。
LV10前後の一般人で能力平均10~12ってことか。
俺が想像したより大分おとなしいな。魔力使える人間もそんなに多くなさそうだ。
「それはよかったです。魔法には憧れていましたしね」
実はもう2属性+治癒使えるなんて言えないな、こりゃ。
「魔法は魔道書を読んで独学で覚えるか、魔術師ギルドで習うことができます。魔術師ギルドは斜め向かいにありますので、この後よろしければ足を運ばれてはいかがでしょうか」
なるほど魔法はギルドで覚えるようで。俺はポイントでとった方がいいな。バレないし。
複数の属性を使えることが知られると面倒になりそうだ。
「ありがとうございます、後でよってみますね。治癒魔法とかもそこで覚えられるのでしょうか?」
……なんだかヘンな顔をされた。あれ、そんなにおかしなことを言ったか?
「ええとですね。傷を癒す魔法は神聖魔法でして、神に仕える神官の方々がお使いになられます。他に傷を癒す魔法があるとは聞いたことがありませんが……」
やべ、地雷を踏んだらしい。スキル獲得しちゃったからてっきりあると思ってた。
そうなると謎だな。宿で考えてみるか。とりあえず今は誤魔化すしかない。
「ああ、すみません、神聖魔法の間違いでした。見たことがなかったのでよく判らなかったのです……」
落ち込んだポーズでアピール。……うまくいけばいいのだけど。
まだなんだかヘンな目で見られてるな。
「そうでしたか。神聖魔法は神殿でお祈りして啓示を受けた方にしか使えません。素質があれば可能性はあるかもしれませんね。機会があればお祈りにいかれるといいでしょう」
「わかりました。もし使えたら大分楽になりそうですしね」
微妙に冷たくなった視線を感じつつ話を続ける。これ以上は下手なこと聞かない方がよさそうだな。
「そうでしょうね。それでは引き続き依頼や冒険ランク、各種注意などについて説明させていただきます」
向こうもそれを感じたのか事務的な説明に戻ってくれた。疑いが晴れたわけではなさそうだが…
今気にしても仕方ない。ちゃちゃっと済ませて宿に戻るとしよう。
◆ ◆ ◆
「ふぁぁっ……」
説明を聞き終えた俺は依頼を1つだけ受けてギルドを後にした。
大きく手足を伸ばす。レストさんは流れるように説明してくれたが、それでも時間かかるっちゃかかるのである。
そこで初めて時間を告げる音を聞いた。ポッポーポッポーポッポー。午後6時。
感想は……汽車の汽笛、と言えばイメージがつくだろうか。何とも気の抜ける音だった。
「それにしてもなんだ、運が悪すぎる」
レストさんに他の受付のことを聞いたところ、全員女性らしい。
それも可愛い娘ぞろいだとか。この話だけで丼一杯いけるぞ。
それが、だ。今日に限って病気だとか親族の不幸だとかで。
忙しい午前中を2人でまわし、午後にはレストさん1人になったという。
今日は男の冒険者から非難ごうごうで大変でした、と苦笑いを浮かべていた。
ここまでくるとマジで男くさいルートの呪いがかかってんじゃねぇの。
その話だけで頭がいっぱいになったが、説明はちゃんと聞いてきた。
ファンタジー小説でよくあるパターンだったので話半分でも大丈夫である。
まとめると
・ランクはF~A ・B以上になったら優遇措置あるぜ
・失敗するとキツいペナルティ
・1つ上のランクの依頼も受けられるが失敗するとヤベェ
・強制依頼発生した時は逃げるなよ
・採取系依頼には採取制限あり =採取無双は不可
・依頼の期限はあるがEランクまではほぼ気にしないでいい
・ランクアップには数こなすか昇格試験
・採取や雑用だけで昇格は無理
・モンスターからとれる材料やアイテムはガンガン持ち込んでね
こんなところか。抜け落ちた部分があるかもだが後で聞けばいいだろう。
討伐系の依頼は証明部位が必要というのも小説の中では常識だ。
まあラノベとMMORPGからパクったんだからその辺りは変わらないのも当然。
護衛依頼なんかもあるんだがソロで動くしかない俺は無理だろう。
街の人からの雑用はたまに受けて気分転換するのもいい?くらいか。
あまり目立ちたくないからモンスター狩り中心になるのは間違いない。
鑑定あればな。まあ悔やんでも仕方ない。
ちなみに通貨のことも少し判った。銅貨1枚で1ユウロン、らしい。単位はY。
エンとユーロ混ぜただけなのは明らかだ。まあいいけど。
銅貨10枚で銀貨1枚のようなので宿代は50ユウロン。稼ぎの基準になる。
で、俺が受けたのはFランクのアナクイ討伐依頼。
名前と特徴聞いた限り地球のアリクイのパクリだな。
アリの代わりにウサギを食べるらしい。どんなんだ。
5匹で50Y、あとは1匹ごとに5Yもらえるようだ。
5匹狩れれば赤字回避だな。当分はキツいだろうが何とかやるしかない。
病気無効だから風邪ひかないのは安心だ。
収入のメドがたって安心したのかお腹が急に減ってきた。
宿の料理が楽しみだ。黒狼と鶏、というくらいだから鶏料理だろうか。
大通り道端の露店からいい匂いも漂ってくるが収入が安定するまで我慢。
くっ、あの焼き串め凶悪な香り攻撃しやがって……いつか乱獲するから待ってやがれ。
宿へ戻り料金を払ってすぐに夕食となった。チキンソテーとサラダとパン。推測だが。
ここでも空腹という最高のスパイスが効いた。あっという間に食いつくしパンも3回おかわりした。
おかわり自由で助かる。勧めてくれた門番さんサンキュ!
部屋に戻り色々考える予定だったが、眠気さんの急襲によりあえなく撃沈。
風呂入りたいなぁ、なんて思いつつ意識を手放し。
こうして、俺の濃厚な三日目は幕を閉じるのであった。
###### モンスター情報 ##########
アナクイ:ランクF
アナビット(地球で言えばウサギ)を主食にする雑食動物。形状は地球のアリクイに近い。
左腕、手首から肘にかけて、人間の服なら左袖の部分に大きな袋をもつ。
アナビットの巣を見つけて側で待ち構えると右腕から火の魔法を撃ちだし、左腕にある袋へ追い込む。
動きはかなり鈍く、最大速度でも大人が走る程度。敏捷が高い、あるいはビット狩りの時に襲えば楽に仕留められるだろう。
道に座り込んで馬車の邪魔になる他、駆け出し冒険者への支援も兼ねて討伐依頼が常にある。