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第2話 初めての夜 [改]

今回は暗い話になります。ご注意ください。


2016/2/1 更新 魔神視点追加および修正


どうしてこうなった。



俺の目の前に佇む青い動物。姿からして狼。

青というには白っぽく青銀と言えば通じるだろうか。

つぶらな瞳は黒く丸く、腕で抱きかかえられる程の大きさ。子供だ。

額に菱型のような白い形。競馬で言えば星って言うんだっけ。


要するに全くもって可愛い。そりゃもうとんでもなく。


そんな子狼がすがるような目で俺を見上げている。


これを捨て置くなんていう選択肢は存在し得ない。

いや心ある人間なら誰だって無理に違いない。

だってこんなに可愛いのだよ。ああもうもふもふしてぇ!!




ことの始まりはこうだ。



小屋で一眠りして起きたらまだ日は沈んでいなかった。

ただ大分日が傾いているのが判り慌てて初期振り。

気配探知、治癒魔法、水魔法、火魔法、格闘をLV1で取得。余りを頑丈に3敏捷に1つっこんだ。

外に出て取得した火や水魔法を試し無事に皮袋で水ゲットできたのはいいとして。

喉を潤した後に襲ってきた空腹には耐えられそうになかったのだ。

時間的に移動は無理だろうしともかく近場で食糧探しを開始。

さっそく取得した気配探知LV2で警戒しつつ適当な木の実を2種類ほど拾えた。


……のだが、鑑定がない為食べられるかどうかが判らない。

毒死なんて御免なので動物に食べさせて毒見してもらうことにした。

で、気配を探すものの何故か一向に動く何かの気配が無い。

ようやく何かを感じて向かったら怪我した子狼が一匹いました、というわけだ。



初めこそ警戒したが弱々しく後ろ足をひきずる子狼からは敵意を感じられず。

どこか怯えながらも立ち去らない様子はいたく俺の心を打った。


「群れからはぐれた…というより怪我して置いてかれた、か」


子狼の視線は俺を捉えて離さない。一心に訴えてるように見えなくもない。


そのまま見詰め合って今、というわけだ。


ふう。見てるだけで俺の疲れた心が癒されていくよ。

腹は膨れないけどな。


狼って肉食?雑食?まあどちらでもいいか。食べなきゃそれまでだ。

予め割っておいた木の実を取り出しころころと転がしてみる。

まずは普通の色、やや茶色がかった黄土色の実から。

ちゃんと割るのにかなり苦労したのはヒミツだ。

ナイフ滑らせて指怪我しちゃったよ。おかげで覚えた治癒魔法ヒールを試せたけど。

もちろん皮も剥いてある。中身は栗みたいな感じか。白っぽくてやや柔らかい。

生だと腹壊しそうだが毒じゃなきゃ病気無効で何とかなるだろう。…半分希望だが。



なんて考えてるうちに子狼が木の実へ鼻を近づけていた。

くんくん。この姿だけで俺の保護欲がMAXである。

毒だったらどうしようと心配する自分がいる。生きる為には仕方ないと言い聞かせて。

駆け寄りたくなる衝動を抑えじっと待つ。

耐えろ俺。高2の時合宿であのもふもふ地獄に耐えた精神力を見せる時だ。

子犬と子猫に囲まれて2時間微動だにしなかったら合宿代タダ。

あれはもう、生き地獄だった。途中から記憶が無い。

友人いわく1時間経ってから白目剥いてたらしい。むしろ気絶してた気もするがまあいい。



―――おっといかん。またしても魂がどこかへ飛んでいた。

見れば子狼が木の実をぺろぺろと舐めているところだった。

食べないまでにしても毒ではなさそうだ。塩気があるのかもしれんな。

それにしても可愛いなまったくちくしょう。


震える身体を押さえつつ、もう一つの実も転がしてみる。

こちらも土色だが赤っぽくて固い。臭いが特徴的だ。血なまぐさい。

皮がかなり固くて石を叩きつけて割った。慣れればどうってことなさそうだが。



こちらの実には鮮やかな反応を見せた。

取り出してすぐに顔を向け。転がるそれをじっと目で追って。

近くまで転がれば足をひきずりつつ飛びついた。そんな感じだ。

ああ、余程腹が減ってたんだな。血の臭いがたまらなかったんだろう。

そんな状態の子狼は他の動物にとって格好の餌になりそうだが……

他の気配が無いのも関係しているかもしれん。早く小屋に戻るに限るな。



子狼は実に噛り付いている。噛み砕いていないところを見るに弾力もかなりありそうだ。

火を通したら柔らかくなるか?まあ毒はなさそうで一安心だな。


しばらく見守る。そのうちに実を胃袋におさめ、再び俺を見た。

あれじゃ足りんよな。残り半分を俺が持っているのに気づいてるかもしれない。

俺は躊躇うことなく残りを取り出し同じように転がした。

あの目に弱いんだよ。あれを見て施さざるは人に非ずって孟子さんも言ってたよな。嘘だけど。



残りも綺麗に平らげた子狼はもう一度俺を見る。

ゴメンな、もう品切れなんだ。実は覚えたから拾えばいい。いや拾おう、うん。

でも実を渡す前より大分心を許してくれた気がする。

どことなく目が優しいもん。俺の勘違いじゃないね、絶対。


試しに手で招いてみるもきょとんとしている。慣れてないから意味が判らないか。

ゆっくり足を踏み出してみる。怯える様子は無い。相変わらず俺の顔を見つめている。

俺は歩き出した。ぴくりと子狼が身を震わせたが、それきりだ。

手の届く距離。沈黙。腰を屈め静かに手を伸ばす。子狼の頭に触れた。温かい。

くぅん、と子狼が鳴く。たまらなくなって引き寄せ抱き上げた。

びくりとしたものの俺に身を任せてくれる。重み、震え、そして鼓動が伝わってくる。


「そっか、寂しかったんだなお前」


しばらく撫でた後、腕を話して今に至る。

そして葛藤が始まったのだ。





  ◆ ◆ ◆



アツシが子狼と向き合う中、その遥か上空でじっと動向を探る影が2つ。

1つは言うまでも無く創造神、自称魔神見習いのチェルティである。


「ムム、これは予想外の展開デスネ」


空中で静止するも落ち着き無く身体を揺らしている。

アツシが見れば違う何かに釘付けだったかもしれない。

黒を基調とした薄い布地を巻きつけただけの格好は実に蠱惑的であった。


「早く街へ行ってもらわないと面白みがありませんし……アスちゃん、例のブツはできてますよネ?」


「はっ」


その創造神の後ろで応じるはアスと呼ばれた人影。

白髪黒瞳、色白で中性的な顔立ちにゆったりとした白い服。空中ながら跪いている。

アラブの王子風ファッション、と言えば大体の日本人が納得するだろうか。

こちらも抜群の美形であり、特に強気を感じさせる瞳が印象的だ。

中立を司り、商業の女神でもあるアスフェルト。

女神なのにこの格好なのはひとえに創造神の趣味である。



「サッスガー!これでアツシさんいつでも街いけますネ。でも、何だか面倒ごとになりそうデス」


「……ボクが処理いたしましょうか?」


「ンー、アスちゃんがアツシさんに会うのはもっと溜めてからにしましょウ。

 何せ商売の神様ですからネ。そうそう甘い汁は吸わせないのデス」


「畏まりました」


「まぁチュートリアル担当は私デスシ、もう少し様子を見るとしマス。仕方ありませんネ!」


そう言って振り返る創造神の顔はにこやかであり。

敬愛する主のこのような表情を見たのはいつ以来だったか。

見上げる神は眩しそうに目を細めた。



「でもまだ時間かかりそうですシ、お茶でも飲んでおきまショウネー」


「はっ」


直ちに熟練の手つきで用意を始める中立神。

満足げにうなずくと、創造神は意識を再び森の中へと戻すのであった。



  ◆ ◆ ◆


「……冷えてきたな」


腕組みをすること十分ほどだろうか。

首筋にうっすら寒気を覚えた。いよいよ夜が迫っているようだ。

この子を見るにかなりギリギリだったのかもしれない。

俺が来なければきっと骸を横たえていたことだろう。

毒見に使った自分を恥ずかしく感じる。

このまま小屋へ連れて帰りたい衝動を強く覚えた。


「一緒にいたいけど、でもなぁ……」


だが、と考える。

こちらも異世界に来てまだ夜を越えていない身だ。

世界の常識はおろか、近くに街があるかどうかすら判らない。

感情のまま助けてしまったが、果たしてよかったのかと。

この子が助かる道はあるのだろうかと。



先のことを考えると難しいだろう。

この世界のことを何も知らない俺がこの子狼と一緒に森で生きれるとは思えない。

初めての戦闘で死ぬ可能性も十分にある。

やはり人に会って情報を得るのが先決だ。

レベルをある程度あげさえすれば何とかなるはず。

即効性のあるチートを選ばなかった分、成長の可能性は非常に高いのだから。



狼を連れて行くことはどうか。俺に地位と収入があれば十分可能だろう。

しかし俺は家どころか宿もない。狼連れで泊まれる可能性はかなり低い。

そもそも街に入れるかどうか。行動するには情報が圧倒的に不足している。

敵とみなされば即座に殺されるだろう。言い分なんて通るわけが無いのだ。

では野宿、といきたいところだが治安レベルが判らない以上危険すぎる。

そもそも地球だって日本やごく一部くらいだろう、野宿できるところは。

この世界が極めて豊かで盗賊もいないようなら大丈夫なのだが…

あの魔神が創った世界である。街道を悪魔が闊歩しててもおかしくない。

まあ歩きながら踊ってるとか、ヘンな方向にズレてるとは思うがな。



子狼を見る。この子が群れに頼らず一人で生き抜くことはできるだろうか。

このサイズで狩れるとなると兎などの小動物になる。

地球ならともかく、この世界でどれだけいるのやら。

足の速さにもよるが相当な運頼りになりそうだ。

先ほどの木の実を食べれば大丈夫かもしれない。


だが俺のあやふやな地球知識では植物から得られる栄養と動物栄養は違うはずだ。

ここの狼の食生活は知らないが牙もある以上動物を食べることが多いに違いない。

子供時代に十分な栄養を得られなければ生きぬく力を獲得できないだろう。

ひょっとしたらこの世界では問題なくてうまくいくのかもしれない。

でもそれを期待するほど俺は楽観的ではない。


要は、この子を置いていくか連れて行くかだ。

連れて行けば2人で森で死ぬ確率が相当あり、置いていけばこの子が死ぬ可能性がかなり高い。

リスクを頭で考えれば結論は決まっている。ただ俺の心が拒絶している。


甘かった。モテたい一心で成長の可能性にチートを注いだが、力がなければ目の前の小さな命も見捨てるしかないのだ。

初期で最強武器なり超ステータスなり取っておけば迷うことなく救えたろうに。

結局俺のしたことは絶望を与えるだけだ。



「ごめんな」



俺はかすれた声を絞り出すのが精一杯だった。何度も頭を撫でる。

子狼は時折小さく鳴いていた。






  ◆ ◆ ◆





それからしばらく子狼を抱きしめていたが時間が迫っていた。

もふもふで意識が飛んでたわけではない。……恐らく。

樹の上に白い光がちらりと見えたが幻覚か。

ともかくだ。暗闇の中森を歩いて小屋に辿り着く自信は無い。

食料となる実も拾わなくてはならない。

俺は子犬を降ろすと皮袋を逆さにして実の皮などを捨てる。

水魔法で袋に水を満たすと子犬に近づけてやった。

やはり喉が渇いてたのか勢いよく首を突っ込んでいる。

落ち着いたところで脚を見た。左の後ろ足。

足首の出血、あとは捻挫か骨折か。ヒールを発動して様子を見る。

ちなみに魔法の発動は案外簡単で、イメージしながら名を唱えるだけだ。

イメージによって強弱もつけられるらしい。制御もすんなりできた。


ヒール一度で血が止まり、2度目で傷が治ったように見える。

内部でどうなってるか判らないので、もう一度だけかけておいた。

骨折がこれで直るかは判らない。レントゲンをとったわけでもない。

脚をさすって離れると、子狼は俺の周りをぴょこぴょこ歩き出した。

尻尾を元気よく振っている。見る限り治った気がする。まあこれ以上できることもないからな。



「それじゃ、お別れの時間だ」



胸がきゅっとする。何度言い聞かせても収まりそうにない。

これはあれだな、後で夢に見るパターンだ。

しかしどうしようもない。共倒れになっても誰も喜ばない。

二兎を追うものは一兎も得ないのだ。


そんな俺を子狼はじっと見ている。心の中を見透かされているようだ。

心を鬼にしなければならない。震える手で皮袋をベルトに結ぶ。


立ち上がり、子狼に背を向け歩き出す。

予想通り後を追う気配。


唇を噛む。足元に転がってた石を拾う。


数歩。振り返ると同時に、叫んだ。



「ついてくるな!!」



歯を剥きだしての威嚇。豹変した俺に子狼は身を竦ませる。

わかってくれ。俺についてきた場合、最悪村か街の入り口でお前を殺すハメになる。

中で知らない間に殺されてる可能性もある。

人里よりはここの方が生きられる可能性が高いはず。


肩を怒らせ頭を垂れて踏み出すこと10歩程。

それでも後からついてくる気配。



俺は振り返り、黙って石を投げつけた。

ケガをさせないよう手前で跳ねるように。

子狼はぴくりと身をたじろがせる。

なんとも言えない顔をしていた。



ああそうだ。きっとこの子は、群れにこうやって捨てられたのだ。



罪悪感がいっそう心を詰まらせる。

しかし子狼の方が余程辛いだろう。

甘えたい盛りのはずだ。



俺は再び歩き出す。時折石を拾っては投げつけて。

次第に子狼の近づく速度が遅くなっていった。


何度目か石を投げた時。

もう気配も姿も見えなくなっていた。


もっとも、あの子がいても俺の視界が歪んで見えなかったに違いない。

顔はみっともないくらい涙に濡れていた。



「……強くなってやる」



生産チートの予定だけど、少しくらい計画修正しても構わないだろう。

せめて目の前にある命を守れるくらいには。

子供にあんな寂しさを味合わせなくて済む程度には。

強くなったって、バチは当たるまい。


感情をぶつけるようにして走り木の実を適当に拾って小屋に帰る。

いつしか日は沈み、あたりは闇に包まれていた。

思ったより明るいのは月のせいだろうか。

中で火をつけるわけにもいかないのですぐ側で適当に枝を拾って魔法の火を灯す。

構造上、中にも火をくべる場所があるはずだが調べていなかった。


もっとも、今は夜空を眺めていたい気分だったので丁度よかっただろう。

赤い木の実を砕いて口に放り込むと苦味と塩気が強かった。




こうして俺の異世界二日目は終わりを告げる。

初めて心を許してくれた生き物を自ら捨てた日として。



目を閉じれば何故だか白い光がふわふわと揺れていた。

あの子の魂でないことを祈ろう。

どうか魔神もとい創造神様、あの子狼を助けてあげてください、と……。



闇の中疲れて眠るまで俺は泣くのを止められなかった。





名前:アツシ・チェスター

性別:男  種族:人間  年齢:17歳

レベル:0 NEXT:0/500

職業:当たり屋LV1


HP:115/115

MP:52/52


装備: 武器/ナイフ  防具/布の服  装飾:皮のベルト


筋力:15

敏捷:20

器用:15

魔力:15

精神:15

頑丈:30

知力:15

集中:15

魅力:16

幸運:25


所持金:200Y

ポイント:0


所持スキル:気配察知LV2 方向感覚LV1 格闘LV1 治癒魔法LV1 火魔法LV1 水魔法LV1 かばうLV1 ツッコミLV5

所持魔法:ヒール ファイア ウォータ


特殊能力:LVUP必要経験値固定(3ケタ) 獲得スキルポイント上昇(大) 上限撤廃 病気無効 自動翻訳





  ◆ ◆ ◆

  

  

「ふふ、頼まれちゃいまシタ」


「どうなさいますか?」」


小屋の中で寝息が聞こえ始めた頃、歩いてほどない大木の枝に揺れる二つの影があった。

茶を済ませた後は気づかれない程度に近づいて様子を見ていた創造神と中立神。

雄雄しい樹の枝にて銀光を背に受ける姿は流石に神、とアツシならば言うだろうか。

その根元には先ほどの子狼がうずくまっている。

別れた後、それでも彼の匂いを辿り近くまで歩いてきてしまったのだ。

途中何度も転んだのか青銀の美しい毛並みはところどころ土を被っていた。



「本当はスルーなんですけどネ、お願いされちゃいましたからネ」


「はっ」


「ショーがないからアツシさんが落ち着くマデ面倒みてあげまショ」


「畏まりました」



口ぶりとは裏腹に創造神の口元は緩んでいる。

彼女が手をかざすとたちまち光が溢れ、子狼を優しく包み込んだ。

虹色の輝きはこの世界の頂点に立つ者からの庇護の証。

直属の従者であり中立を司る神は取り急ぎ主な神々へ伝えるのであった。

救われた生命がどのような結果を世界にもたらすか、ほんのりと期待を寄せながら。



修正により鬱成分をかなり減らしています

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