第23話「魔導探偵、帰還」
ラナフィーとの激闘から2日後。
早朝、ひとりの少年が街へと戻ってきた。
魔導探偵と呼ばれ、数々の難事件を解決してきた鬼才。
名を、アダムスカと言う。
「……いや、まさか2日も帰れないとは思わなかった」
2日前に起きた電車関連の事故で、帰還が遅れたのだ。
げんなりした顔で学院に戻り、寮にて荷物を整理する。
しかし、彼に休んでいる暇はない。
学院で起こったことは、クラスメイトたちのメールを通して大体把握している。
────不可思議な現象とともに幾人もの死傷者が出た。
魔導探偵として、この事件に向き合わなければならない。
しかしまずは、クラスメイトたちに顔見せだ。
「おかえりアダムスカ」
「お、帰って来やがったな。待ってたぜ!」
「やぁ皆」
いつもの仲間たち。
勢いよく群がる彼らの中心で、困り顔のアダムスカ。
銀色の髪に中性的な顔立ち。
華奢なラインの身体つきからは、想像もできないほどの能力を秘めている。
それでいて魔導探偵として活動しているのだから人気がないわけがない。
低い出席頻度に加え、もはやレアキャラ扱いである。
「おうアダムスカ! また事件を解決したみたいだな!」
「アダムスカ君、引っ張りだこだね!」
「しかもその帰りの夜行列車で起きた事件を解決したって、本当にすごいね!」
「大したことないよ」
「入学当初からすごかったよなお前……はぁ、俺もお前みたいに活躍してえ」
「事件ばっかり追いかけるのも大概だけどね。それより皆、聞きたいことがある」
アダムスカは早速本題に入る。
学院を中心に起こっている怪事件。
クレーターに沈む死体。
人を切り裂く贈り物。
そして立入禁止の実験棟での大事故。
アダムスカの頭脳が徐々に回転を速めていく。
「お前がいない間に、街も学院もとんでもなくホットになりやがった。頼むぜアダムスカ。お前の力が頼りだ!」
「……ありがとう。さて、授業が始まるころには戻ってくるよ。少し外すね」
「うん、気を付けてね」
「遅刻すんなよ」
「事件に巻き込まれるなよ!」
(ないとも言い難いんだよなぁそれ)
短い時間内での調査。
手っ取り早い方法として、2つ先のクラスの教室へと入った。
「やぁ、《《スパイク》》」
「やぁアダムスカ、お帰り。事件解決お疲れ様だね」
「君の送ってくれたデータのお陰だよ」
「それをうまく扱える君の才能さ。……ところで、なんのようだい? そろそろホームルームが始まっちゃうよ?」
「それまでに終わらせる。時間は取らせないさ」
旧来の親友と握手をかわしてから、彼との情報共有をはかる。
「なるほどね。今話題の事件に取り掛かろうとしているわけだ。さすが魔導探偵」
「聞けばこの学院の生徒が何人も犠牲になってるらしいじゃないか」
「そのようだね。僕も調べて見たけど、うぅん、君のクラスメイトと同じような内容だね。あまり力にはなれそうにない」
「そうか。ん~、でもなにかないかい? どんなに小さなことでもいいんだ。そこから情報をつなげていければそれでいい」
「ふふ、君らしいね。そうだなぁ。……あ!」
「なんだ?」
「リーネットさん……そう、うちのクラスのリーネット・カルミアさんが、なんか嗅ぎまわってる感じだったかな」
「リーネット?」
「あぁ、君は普段学院にいないから知らなかったね。と言っても、彼女も相当なサボり魔だから、あんまり顔は見せないんだけど」
「失敬な。ボクは事件解決で飛び回ってるだけだし、学院からの課題はちゃんとやってるよ。……それで? リーネットがどうしたんだ?」
「僕に尋ねてきたことがあったんだ。怪しい奴を見なかったか、人を切り裂く事件での意見とか。そのときにカミソリレターって言うの教えたのは僕なんだけど、なにに納得したのかよくわからなかったね」
「リーネットが……」
「それとね、僕はその件で彼女に助けられたことがある」
「なんだって?」
「昇降口でね、僕のところに例の手紙が入っていたんだ。そしたら急に彼女が現れて、それを持って行ってしまったんだよ」
「……どういうことだ?」
「わからない」
アダムスカの中で、リーネットの存在感が大きくなっていく。
事件の裏で彼女が関わっているとしか思えなくなった。
「いやに真剣だったし、深くは突っ込まなかった。ちょっと異様だったしね」
「それでいい。身の安全が最優先だ。君が無事でなによりだよ」
「力になれたかな?」
「あぁ、十分だ」
アダムスカは踵を返した。
脳内を無作為に駆け巡る情報をひとつひとつ整理していく。
怪事件は実験棟の大事故以降に起き始めた。
クレーターに沈む死体も、切り裂く贈り物も、すべてはきっとひとつながりだ。
では、街中で起きた大規模な謎の戦闘はなんだろうか?
偶然とは思えない。それ以降も授業に集中できなかった。
────ふと、アダムスカの『魔眼』がうずく。
1000年以上の歴史ある学び舎に蠢く未知の悪意が、こちらを覗いてせせら笑っている感じがして……。
(魔導探偵あるところに事件あり、か。ならば是非もない。この事件、ボクが必ず解決する)
密かに拳を握りしめ、黒板に映る文字を睨みつけた。
正確には、その向こう側。
この事件の、黒幕と言えるまだ見ぬ存在へ。
中庭にそよ風。
生徒たちは授業に集中し気がつかない。
その中で、ひっそりと『黒い花』が咲いていた。




