第22話「最高の向こう側」
「オイ! 向こう行け!」
「命令しないでください。こっちはこっちでやりますから」
(やはりチームワークがなっていない。ふたりに協調性がないことは最初の会話で織り込み済み……クス、ほんと間抜けな先輩たちなんだから。せいぜい足を引っ張りあってくださぁい♡)
1+1がマイナスになる。
なんて最悪な計算式だ。
どんなに強力な力もこれでは無駄になる。
「こっちですよおバカさんたち!」
「うるせえ!」
「落ちろ!!」
リーネットを地面に埋め込んでから、ルヴィアがラナフィーに向かってくる。
だが、すでにラナフィーは彼女の弱点を掴んでいた。
ラナフィーの最速の動きに、まだついてこられていない。
見えなければ、落とせない。
「はい、残念!」
「あぁ!!」
ルヴィアの両目を深めに抉る。
再生までは時間がかかるだろう。その間に────、
「させねえよ!」
「ハッ!?」
リーネットはアトラスの力で、また一瞬のうちに飛翔した。
ビルの壁に足をつき、そこからビヨンドの力で角度をつけて一気に急降下。
ラナフィーは、ミサイルじみた威力のパンチを顔面に食らう。
その速度とパワー、その際に生じた衝撃波により、魂と肉体が分離しそのままシェイクされた感覚に陥った。
気がついたときには、ラナフィーは街外れの採掘場まで叩きつけられていた。
キーンとした耳鳴りとともに、意識が戻ると、ぼやけた視界の向こう側に奴がいた。
「よぉ、岩のベッドは寝心地がいいかい?」
「強引なんですね……ケホッ」
「強引なのは好きだよぉ? 特にテメェの顔面を殴るときはな」
リーネットは真正面から戦うつもりだ。
逃げ回っていたときのような焦りはない。
「なるほど、ルヴィアさんがアナタを攻撃したのって、あの一撃をブチかますためだったんですね。そのためにわざわざラナフィーに向かってきて……まんまと引っかかったわけだぁ」
「意外にアドリブが効いたな。アタシも最初はなんだと思ったけど、へっ、変な気を回しやがる」
「それで? あの人を待ちますか?」
「待つかよ。つーか、これがお互いに最適解なんだよ。おそらく、多分」
「ふん、行き当たりばったりなくせに……」
「……ラナフィー、お前は頭良いし、かなり目ざとい。ルヴィアをあっという間に攻略しそうになってたからな」
「……」
「《《じゃあアタシはどうだ》》?」
「倒すための算段がついてるかってことですかぁ? ええ、ついてますよぉ。もう、ばっちり♪」
「ほぉ、それは楽しみだな」
しばらくの沈黙。
からっ風が吹き、やがてふたりから放たれる邪悪な大気にかき消されていった。
「────オーディンッ!」
ラナフィーの叫びと、ほぼラグなしの最速でリーネットに肉薄した。
リーネットのバネ跳びよりずっと速い。
凶器となるのは、両手の親指以外の計8本。
それぞれの中節骨・末節骨をカミソリにして一気に外部に伸ばす。
さながら飛び出しナイフのように、リーネットの首目掛けて突きにかかった。
(学院でアイツは木の葉のカミソリを回避するときに、首を守った!! つまり……そこはバネにできない。勝った!!)
ザクン!
金属のこすれる音が響く。
左右でクロスするように首に突き刺したのだ。
リーネットはその場に硬直し、刃をその首に通して小さく息を漏らしていた。
瞳は収縮し、驚きと緊張に満ちている。しかし……。
「いいや、これでいい。これを待ってたんだ。お前は目ざといからな」
ラナフィーの表情が段々とかたくなっていく。
「テメェは絶対、ここを狙うと思っていた」
「な、な……っ!?」
「ぶっつけ本番でもタイミングばっちりにやれるもんだな、けっこうヒヤッとしたよ。お前、クソ速いからな」
《《リーネットは首をバネにしていた》》。
それも巨大な機械で使うような、太く強い規格のものだ。
薄っすらと開いた隙間に見事刃が滑り込み、そして強く挟み込んでいた。
「タイミング、太さ、隙間の間隔……全部グッド。さすがアタシ」
「は、外れ、ないッ!? この、クソあま……」
「おおっと、こうさせてもらうぞ!」
「ひっ!?」
一瞬のうちに肩と肘、手首を砕かれた。
激痛とともにラナフィーの悲鳴が上がる。
「ギャアアアアアアアアアアアアアッ!!」
「さぁ、エクササイズだ。ボクシングやろうぜ。お前、サンドバッグな?」
ジャブにボディブロー。
右ストレートが見事に決まっていく。
ラナフィーの体勢が倒れそうになってもステップを駆使し調整。
ときにはリーネットの圧倒的な体幹の強さでカバーする。
「ホラ倒れて休もうとしてんじゃねえぞボケ! もういっちょ!」
(ま、まずい! 早く、引っこ抜かない、……と!)
しかし反撃も防御もできない。
鳩尾や顎に、お手本のような攻撃が繰り出されるため、肺から空気が抜け、脳が揺れる。
「あぐっ! ぶぅ、ぐぇええ!」
さらにはラビットパンチで後頭部を定期的に攻撃されることで、思考能力まで危うくなる始末だ。
常に白目を向き、笑っているのか泣いているのかもわからないくらいに顔が歪む。
トレードマークのツインテールの毛髪量が鉛のように重く感じられた。
最早、敗北感を覚える暇すらないほどに徹底的に痛めつけられる。
「ほれ、放してやるよ」
リーネットのひと声で、ラナフィーのカミソリ指が解放される。
ラナフィーが後ろへ仰け反るように倒れるのを見ずに、そのまま背中を向けて踵を返した。
「ぐ、がぁあああああああああああああ!!」
しかしラナフィーは執念だけで一気に体勢を立て直し、また襲い掛かった。
傷口から、いや、身体のいたるところから大小様々なカミソリを突出させる。
理知を知らぬ猛獣のように右腕を振りかぶり、横薙ぎに斬りかかろうとした。
「でりゃあッ!!」
待ってましたと言わんばかりにほくそ笑む。
それはあまりに美しい、振り向きざまの上段回し蹴り。
足をバネ化させることで、威力はさらに数倍。
────ボ、ゴォオオッ!!
「ぐばぁ!!」
それがラナフィーの横っ面にクリーンヒット!
ラナフィーは錐もみ状に吹っ飛び、岩壁にめり込むように激突。
そして崩れる瓦礫に埋もれていった。
「思い知ったか。これが『ビヨンド』の力ァ! 最ッ高なアタシの、さらに向こう側! ……お前の不幸は届かない」
「あが……ぁ……ぎっ……」
瓦礫の隙間から出るラナフィーの片腕はしばらく天に向けられていたが、ついに脱力した。
────ラナフィー・スノウドロップ、撃破。




