第21話「場外戦」
ラナフィーは他人の不幸が好きだ。
特に、気に入らない奴や嫌いな奴が、目の前で不幸に見舞われるシチュエーションなんてベリーグッド。
しかし、それは内なる趣味の範囲。
怪能を経てからというもの、その欲望に制御が利かなくなった。
────自分の力で、不幸にすればいいじゃない。
『オーディン』。
そう名付けたとき、彼女の中で残虐性が開花した。
しかし、総じてうまくいかないものである。
ロベリアにはかわされ、こうして邪魔者に追い込まれている。
フラストレーションは溜まり、今こうして爆発していた。
「Bite me!」
「見切ったぁ!」
戦いはさらにヒートアップ!
もはや瞬間移動に近い速度で、互いに立ち回る。
「ピョンピョン飛び回りやがってぇぇぇえええ! うっぜぇんだよ!」
「ハハハハハ!」
「くそくらえ!!」
走り回りながらの攻防。
砕け、切り裂かれて、周囲が滅茶苦茶になっていく。
(クソ、コイツ触ったもんなんでもかんでもカミソリみたいにしやがる。実質無限じゃねえか!)
「ジリ貧ですかぁ? はい雑魚ォ! 生きる価値なしぃ!」
「テメェ如きジリ貧でようやく対等だ。ありがたく思え」
「殺すッッッ!!」
今度は高速で走る電車の上。
空気抵抗などおかまいなしに、仁王立ちのまま両者向かい合う。
「さっきからビルだの車だのぶった切ってよぉ。反撃しないもん切って楽しいか?」
「そう思うんなら下品に飛び回ってないで、さっさと斬られてくださいよぉ~」
「アタシが風上で、テメェが風下だ。おまけに飛び道具になるもんもない」
「それならそれらしい戦い方をすればいいだけ」
天井部を踏んづけ、隆起させた部位を引きちぎると、それを刃に架線を良い長さに切断する。
およそ3メートルのそれは、彼女の手に触れると、みるみるうちに鋭さを増していった。
即席ながらも機動力は達人が操る蛇腹剣。
だが、それ以上にしなやかで物理法則を超えた動きと、圧倒的切れ味を持つ刃!
これには余裕をかましていたリーネットも、かなりギョッとした。
ラナフィーは大繩を地面に叩きつけるような所作で架線を何度も振り回す。
まるで大蛇のようにうごめき、天井部を這い、リーネットを切り裂きにかかった。
「ぬぅお!」
「アッハッハッハッ! 逃げてばっかじゃ落っこちますよぉお!!」
「上等だコノヤロウ!!」
風の勢いを利用し、バネによる跳躍で一気に距離をつめる。
対して新体操でリボンを回すように架線をたぐり、高速回転斬りで自身を包んだ。
勢いの乗ったバネパンチと、オーディンの刃が大激突!
衝撃波が周囲に広がり、車両ごとひしゃげて横転する。
投げ出されるふたり。
その際に砕けた架線が勢いよくラナフィーの右腕を縦に引き裂いた。
ざまぁみやがれとほくそ笑み、バネ化で事なきをえたリーネットだが、
「ふん」
ラナフィーは横転した車両の一部を引っぺがし、それを裂け目に挟む。
次の瞬間には大剣のようなカミソリとなり、腕と一体化した。
「ちょ、ちょっと待ったぁ!」
「おりゃああああああああッ!!」
再び鬼ごっこの始まり。
今度はリーネットが追いかけられる。
凄まじい切れ味と圧倒的な質量。
それに怪異的な速度が合わさり、ひと振りするだけで空間が歪んで見える。
斬られた残骸が綿毛のように宙を舞い、あちこちに散らばり落ちた。
先ほど以上に被害が生まれる中、リーネットは学院へと足を進めた。
正直、それ以外にどうしたらいいかわからなかった。
とりあえず今は、カプノスたちと合流したほうがいいと考えた。
「これ怒られるかな? 怒られるかなぁ!? いや、これ絶対怒るぞアイツ!!」
「アハハハハハハ! 逃げんなって先輩よぉ!!」
「それ外せボケ! なんでそんなに速ぇんだよ!」
すでに追い付かれそうだった。
学院までは行けそうにない。
だが、救援は到着する。
「────落ちてください」
「ぬあああああああああああ!?」
「おお、ルヴィア!」
「なんて無様な……ちゃんと戦いなさい」
「アンタがそれ言うかよ。まぁいい。ちょっと手伝ってくれや」
「アナタの頼みなんか聞きません。私は先生の頼みできただけですから」
クレーターからラナフィーが出てくる。
車両の一部を取り外し、右腕を元の通りに再生させた。
苦虫を嚙み潰したような顔で、振り出しに戻ったこの状況に思案を巡らす。
だが、彼女の心を埋め尽くしているのは『不幸』というドス黒い感覚だった。
他人が不幸になるのはウェルカム。
だが自分が他人に不幸にされるのは耐えられない。
ほんのちょっぴりの不幸でも、いつまでも引きずってしまう。
そういうときにこそ、彼女は────、
にこっ。
あえて笑顔を作った。
両の小指で口角を上げて、顔に微笑みをまとわせる。
(いっぺんに状況を打破しようなんて、考えちゃダメよラナフィー。少しずつ、ほんの少しずつでもいいからアイツらにダメージを与えていくの。堅実に。そう、お裾分けをするみたいにね)
運命に一発逆転ホームランなんてない。
過去からの教訓であり、ラナフィーが学んだ人生の真理だ。
なぜなら、これまで自分が目の当たりにした不幸者たちは、そうして身を滅ぼしていったのだから。
「オーケイ先輩たち。せいぜい足掻いちゃってくださーい。オーディンに跪かせてあげる」
「もう一度、血と一緒に土を舐めさせてあげます」
「アタシは、えっと、えっとぉ」
「セリフ考えなくていいですから」
「ンだよ考えさせろよ!」
「んふふ~。なんだかラナフィーちゃんが、ラスボスになった気分♪ こういうのも新鮮でいいな。じゃあ、今度こそ散らしてあげましょう」
「あぁ、今度こそラストスパートだ。このラウンドで終わらせてやるよ!!」




