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第20話「跳躍vs.斬撃」

「げげっ、もう追いついてきやがったんですね」


「待てやハゲ!!」


 ふたりは用地をレースのように駆けまわる。

 あまりの速さにグラウンドにいる者たちですら、何事かと目を丸くした。


 純粋な速さで勝るラナフィーを相手に、リーネットは跳躍力でカバーする。

 時折上空からパンチを放ってくるので、防戦一方になるラナフィーは一計を案じた。


「風の向きは……よし! あはっ、これに耐えられる?」


 前方にそびえる細い木。

 ラナフィーはそれに飛びつき、ポールダンスか棒高跳びのような動作で登った。

 

「そぉれっと!」


(なんだ? 登ってまた降りた? なにをして……)


 次の瞬間、衝撃に揺られて、向かい風に乗って無数の木の葉が舞った。

 木の葉は軽さを残したまま、カミソリのような切れ味でやってくる。


「はい、ザクザクバラバラ~♪」


「ギョッ!?」


 防御姿勢を取りながら、とっさに後ろへ飛びのく。

 しかし鋭い音を立ててリーネットの肉体へと容赦なく降り注いだ。


 それを見て勝ち誇る。

 口角が吊り上がり、そのまま優雅に踵を返した。


「ふふん、バネ如きでラナフィーちゃんのオーディンに敵うわけが……」


「おう、待てや」


「……」


「《《痛くも痒くもねえ》》。続行だ。次はどうする? まだ追いかけっこするか?」


 ラナフィーは視線を背後に向ける。

 確かにリーネットの制服は切り裂かれていた。 


 しかし傷があるわけも、血が流れているわけでもない。

 剣で貫かれても無傷で生還するマジックのように、リーネットは事もなげに立っていた。


「なぁんだ。ランニング程度で終わらせられると思ったのに」


「テメェのクソ手品なんざ引っかかってやるかよ」


「へぇ、じゃあ先輩はどんな手品を使ったんでしょう、ねぇ!!」


 柔らかなスナップを駆使したクイックモーション。

 神速のカミソリトランプが数枚、リーネットへと飛んだ。


 しかし彼女は慌てることなく、両手で首を抑えつつ────。


 ビョンッ!


 《《胴体の隅々をバネにして隙間を与えた》》。

 避けずともトランプがすり抜けるには十分な間隔がある。


 これを見て、先ほどの謎が解けた。

 初見も同然あるにも関わらず、一瞬のうちに対応したリーネットにから恐ろしさを感じる。


 バネとカミソリ、性質は違えど奇しくも同じ金属系の怪能。

 だからこそ余計に気に入らなかった。


 ラナフィーの中で殺意が増幅する。


「あーあ、トランプなくなっちゃった……」

 

「買いに行くか? 一緒に行こう。店ごと埋めてやるよ」

 

「お店の人にご迷惑なのでさっさと死んでくださーい」


「テメェこそ医療従事者の仕事増やしてんじゃねえよアホンダラ」


「ハァ? ラナフィーに的にかけられるボンクラどもが悪いんですけどお? ラナフィー悪くないもーん」


「あぁん? 自分を客観視できねえのか? カス頭がよ」


「……調子に乗ってんじゃねえよ女ァ!」


「テメェも女だろうが女ァ!」


「女ァァァァァァアアアアッ!!」


「女ァァァァァァアアアアッ!!」


 リーネットの煽りにラナフィーが苛立ち始め、ついに感情を激昂させた。

 そして同じタイミングで互いに飛びかかる。

 

「クソアマァッ!」


 リーネットの拳がラナフィーの腹部にぶつかる。


「チンピラァッ!」


 右腕の尺骨しゃっこつがカミソリのように鋭くなり、外部へと飛び出る。

 その勢いのまま、剣のようにリーネットの胸に突き刺した。


「こンの、ボケぇ!」


「ぐぇええ!?」


 尺骨を自分から押し込むように肉薄し、強烈な頭突きでラナフィーを仰け反らせた。

 殴る。殴る。まだ殴る。


 しばらくサンドバッグになっていたラナフィーだが、拳を受け止めると鬼のような形相でリーネットを投げ飛ばす。

 尺骨が抜けて自由になると、ラナフィーはまた飛びかかった。


「来いやぁ!」


「だりゃああ!」


 勢いのまま転がり、飛び回りながら、学院の外へと戦火は広がる。

 オーディンの斬撃と、ビヨンドの伸びる拳打が地面や壁を抉っていった。


 道路を走り、車を飛び越え、ビルや標識を跳躍する。

 傍から見れば、とんでもない速度でなにかが暴れているようにしか見えない。


 ラナフィーは周りを巻き込む勢いでオーディンの力を振るう。

 切り裂いたビルの壁も、蹴り飛ばした車の破片も、すべてが重量のある斬撃だ。


(く、このリーネットとかいう女。どんなにやってもヒョイヒョイ躱していく!?)


「なにボサッとしてんだアホンダラァーッ!」


「しまっ!」


 錐もみ状に回転しながらの踵落としが、ラナフィーの肩に炸裂。

 彼女は鬼のような形相でダメージに耐えた。


 地面が隆起し、衝撃波と砂ぼこりが周囲を巻き込んだ。

 着地と同時に伸びる腕でワン、ツー。ラナフィーの腹部と顔面を打つ。

 

(一撃が重い、そして速いッ!?)


「そこだぁ!」


「無駄ぁ!」


「なに!?」


 突如ラナフィーは、《《自分の身体を真っ二つに切り裂いた》》。

 下半身から吹き出る血で目潰し、リーネットを怯ませる。


 その隙に上半身のみで飛びかかり、器用に背後にしがみついてめった刺し。


「キャハハハハハハハ!!」


「あぐっ! あ˝! ぉぐう!?」

 

「ホラホラホラ、血ゲボぶちまけろぉぉぉおおおッ!」


「舐めてんじゃ、ねぇぞクソガキ!!」


 背負い投げの要領でラナフィーを叩きつけ、何度も拳で打ち付ける。

 しかし背後からの下半身キックで前のめりに吹っ飛び、体勢を崩しながら瓦礫に突っ込んだ。


「いっでぇ……くそ、バネ女がぁ。よくも、よくもこの私の顔面にぃ!! 臓腑の一片まで引き裂いて野良犬に喰わせてやるぅぅぅううううッ!」


「ハッ、いいねえ。ぶりっ子かましてるより本性出してるほうが生き生きしてるじゃん」


「もう許さない……ブッ殺してやるぅ!!」


 身体をくっつけたラナフィーが吼える。

 しかしリーネットはしたり顔で、


「ん~、ブッ殺す? 今、ブッ殺すって言ったか? 確かお前の基準で言うとよ、それ、『逃げ』だよな? この状況が苦しいからさっさと終わらせたいっていう、逃げの姿勢だよな? つまり、テメェ今このアタシに追い込まれてるっていうことだッ!」


 と、わざとらしくバネ状になっておどけてみせた。

 鶏冠にきたラナフィーは、真っ向勝負を受けて立つ。


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