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禅語何それ美味しいの?  作者: 夕暮れの家


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高次元存在の恋の悩み

スピリチュアルの世界では「高次元の存在に至る」という話が頻繁に語られる。

その響きは美しく、どこか神秘的で、自分が選ばれた存在になれるような気さえした。

僕はそれに強く憧れた。胸の奥が熱を帯び、何か大きな扉が開きそうな感覚を覚えた。


高次元存在になりたい――。


その思いでスピリチュアルの世界にどっぷりハマって動画や本を見まくった。

スピリチュアルの世界は非常に美しく、為になった。


だから親友に語った。


「スピリチュアルがいいよ!」


そうしたら親友は笑っていった。


「スピリチュアルでタバコは辞められない。スピリチュアルにハマるくらいならタバコ吸ってた方がマシ。」


人それぞれ感性は違うものだ。少し残念だったが親友の前ではスピリチュアルの話をすることを辞めた。



僕は「高次元の存在」に近づくため、まず自分の感情を客観視することにした。

何かを感じたとき、必ず思いの後ろに「〜と思っている」と付け足した。


悲しいときは「僕は悲しいと思っている」。

怒ったときは「僕は怒っていると思っている」。


それを繰り返すと、いつしか現実世界で生きる自分とは別に、遠くからその様子を見つめるもう一人の自分が生まれた。


会社で上司が苛立ち、同僚が落ち込む。

その感情の波を受けても、僕はただ風景のように眺めていられるようになっていた。

怒りも悲しみも確かに感じる。けれど、そこに浸からず、留まらない。


僕の心は揺らがなくなり、穏やかな湖面のように静かだった。


――僕は高次元の存在になれたのだ。



そして、高次元の波動は共鳴する。

世界が変わった。


彼女ができたのだ。


僕は喜びに打ち震えた。

彼女との日々は心が躍り、世界が輝いて見えた。

僕は幸せになった。


その日も彼女とデートして家に帰り、リラックスしてお風呂に入っていた。

そのとき、ふとこんな考えが頭をよぎった。よぎってしまった。


――最近、遠くから自分を見ていない。

――ただ「僕」として生きている。

――楽しみ、喜び、感情に身を委ねている。


それはつまり、せっかく高次元に至っていたはずなのに、僕はまた低い次元へ戻ってしまったということではないか?


その思いが湯の温かさをかき消した。



高次元存在だったのに、僕は今周りの人間となんら変わらないのではないか?

その考えが頭から離れない。


彼女と共にいるときも以前ほど幸福を感じられなくなった。

ご飯も美味しく感じない。


僕は今悩んでいる。それを俯瞰して見てみた。ただ悩んでいる姿を見つめてみる。

心が次第に落ち着いてきた。また高みへと登っていく感覚があった。


しかし、彼女の何気ない髪を耳にかける素振り、靴紐を結ぶ所作、全てに心動かされてしまう。

僕はどうしても高次元に居続けることが出来なかった。


スピリチュアルの動画をまた見返す日々が続いた。


愛の波動は周りを幸せにする。

高次元に至れば幸せになる。


今の僕の悩みを解決してくれるものはなかった。


彼女に「どうしたの?」と心配をかけてしまった。

「大丈夫だよ」と張り付けた笑顔で返したが心はここになかった。


高次元存在は恋ができないのだろうか?

次元が違うものだから無理?


そんな考えが頭から離れない。


自分一人で解決できないから、お金を払ってスピリチュアルのセミナーに出た。

知ってることを講義で聞き、そして終わり際に講師に聞いてみた。


「高次元の存在は恋はできるんですか?」


恋はできると返ってきた。波動が良い恋を運んでくれるでしょうと講師は言った。


「でも――」


僕が反論しようとした瞬間、講師は言葉を遮った。


「何かに囚われているのですね。それがあなたの存在を高次に至るのを邪魔している。手放しなさい。」


先生は何も僕のことも高次元存在の恋の悩みも分かっていない。

まさに囚われているのは、彼女の存在で彼女を手放せないから悩んでいるのに。

先生に失望した。


悩み続けていると、親友から飲みに行こうと誘いを受けた。


僕は飲みの席で思いっ切って、親友に相談することにした。

高次元存在の恋の悩みについて、親友は笑うかと思ったが、真剣に聞いてくれた。

そして、言った。


「俺はちゃらんぽらんに生きている。そんな俺の言葉では響かないと思うから禅の言葉を贈ろう。」


そして、ビールジョッキを置きながら静かに語った。


「『即今(そっこん)当処(とうしょ)自己(じこ)』、簡単に言うと、今いる場所で、あるがまま生きろってことだ。」


「そっこん、とうしょ、じこ…。」


「そう。あるがままでいいんだよ。今を楽しめ。」


豪快に笑いながら僕の背中を叩いた。

その瞬間、視界が少し開けたような気がした。

その言葉は静かに、でも確実に胸に染み込んだ。



今日も彼女とデートだ。

駅へ向かう足取りが軽く、空気まで澄んで感じる。

僕は僕のままでいい。

幸せを感じていい。

一緒に笑っていい。


スピリチュアルで学んだことも、今ここで生きる僕の中に息づいている。

俯瞰する自分もいる。

でも肉体を持つ今の僕も確かに存在している。


僕は、僕として生きている。


あるがままで、今を大切に。

お読みいただきありがとうございました(*'ω'*)

本年もありがとうございました。良い年越しをお過ごしください。

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