なんだかんだ生きている
「人生色々あるもんだ。なのに死ぬなんて、お前は死ぬなよな。」
と言った友人が後日死んだ。
僕が生まれたときにはこんな世界だった。
元凶は安楽死制度の導入だった。
安楽死制度は、人類史上多くの人を死なせた制度と呼ばれた。
全国各地に安楽死センターはある。
特に有名なのが都市部に近い神奈川県の淵野辺にある大往生ホールだ。
規模が世界でもトップクラスである。
元々淵野辺はベットタウンとして栄え、閑静な住宅街だったが、今や死の淵にある町、淵野辺と呼ばれるようになった。
男女の喧嘩のとき、
「あんたなんか淵野辺っちゃえ!」
が定番だ。
ニュースを開けば有名人の誰それが淵野辺ったという話が頻繁に流れる。
芸能人や成功者の中で、死を迎えることで自分の生を完成させるという思想が流行っている。
安楽死はホールに行きカプセルに入って目を瞑るだけで静かに苦痛なく逝ける。
その気軽さに安楽死希望者が募った。
僕は新卒で入社した会社で3年目、もう新人とは呼ばれない。
同期の中には会社に絶望して、いや社会人に絶望したのか?とにかく、数人淵野辺った。
死が近い世界になっている。
元々、人類の人口増加が世界規模で問題になっており、人類の数を減らすためにも必要とされた制度だった。
加えて、思想として命は自分のものだからいつ終わりにしてもいい。
苦痛のある生なら安らぎのある死を迎えることは悪いことではないという風潮が広まった。
世界は以前よりも更に死と隣り合わせの世界になった。
しかし、僕は死なないだろう。
「なんだかんだまだ生きてるからな。」
「なんだかんだまだ生きるんだろうな。」
そう思っていた。
いつも通り会社に出社し、一人暮らしの部屋へ帰る途中それは起こった。
足音が近づいたかと思ったら、視界が奪われ突然真っ暗になって担がれた。
荒く車?の中に叩き込まれ、手足を縛られた。
抵抗は虚しく為す術なく僕は攫われた。
車内には声から判断するに三人の男がいた。
在庫が切れそうだ。クライアントが待ち焦がれている。これで美味いものが食える。そんな話が聞こえる。
ずっと昔から噂になっていたことがあった。この世界には安楽死をビジネスにしている安楽死ビジネスが存在すると。無理やり安楽死させ、その臓器を売買するという闇の仕事が存在するのだという。
僕はこの安楽ビジネスに巻き込まれたのではないか?かぶされた袋で真っ暗な視界の中、気分も真っ暗に落ち込んでいた。僕は死ぬのだろうか?
車は何時間か走った後、急に止まると僕はまた担ぎ上げられ、頭の袋を取られるとそこは檻の中だった。手足は縛られたままだ。
「大人くしていろよ。」
そういうと男は檻から出て行った。
見渡すと若い人ばかり性別問わず檻の中に8人が捕まっていた。泣きじゃくるもの。頭を抱えているもの。天井を見つめているもの。ここにいる人たちは僕と同じなのだろう。
「補充はこれくらいでいいだろう。準備しろ。」
偉そうにしていた禿げ頭の男がそう命令すると子分がカプセルを運んできた。
「お前らには順番にこのカプセルに入って貰うからな。」
泣き声と悲鳴が響いた。
僕は突然の現実に頭がついていけなかった。
まずはお前からだ。そんな声と共に僕はまた担がれた。
カプセルに寝かされる。
こんな終わりなのか僕の人生は。まだ恋人だって出来ていない。好きな漫画の続きも気になる。仕事だって最近は順調で楽しさがようやくわかるようになってきたのに。
カプセルが無情にも閉じられるとき。
ドォーン。
大きな音がした。売人たちが声を荒げる。
「何もんだ貴様ら!」
三味線の音が軽やかに響く。
「その悪行、世間は見逃してもお天道様にはお見通し!」
ベベン!
「髪はないが神はいる!」
ベン、ベベン!
「我ら正義の僧侶戦隊、BO♰ZU!」
無理やり体を起こすとそこには奇妙な5人が立っていた。
ベージュ、アイボリー、ブラウン、カーキ、オリーブの色の全身タイツを着た地味な装いの男女。
ナチュラルカラーで統一された一団は金色に輝く錫杖を持ち独特なポーズを決めていた。
「ふざけた奴らだ。やっちまえ!」
売人が叫ぶと、目の前でナチュラルカラー戦隊・BO♰ZU と売人軍団が向かい合う。
静寂のあと――空気が一気に爆ぜた。
「いくぞ、BO♰ZU!浄化開始ッ!」
五人の僧侶戦士が一斉に踏み込み、錫杖の輪が金属音を鳴らしながら揺れる。
最初に動いたのは ベージュ。
地味な色とは裏腹に、砂煙のような速さで突進し、錫杖を水平に払う。
売人の一人が「ぐっ…!」と弾き飛ばされ、地面に転がった。
続いて ブラウンが低い姿勢で駆け、相手の足元へ鋭く錫杖を突き込む。
輪の鳴る「チリン」という控えめな音に反して、相手の体勢は一瞬で崩れ、仲間同士がドミノのように倒れていく。
「地味なのに…強すぎねぇか!?」
売人の叫びが響く。
そこへ アイボリーがふわりと舞い上がる。
柔らかな色のはずなのに、その跳躍はまるで光を包むよう。
空中で錫杖を一回転させ、落下の勢いを乗せて敵集団の中央へ叩きつけた。
着地と同時に輪が「シャララッ」と鳴り、周囲の男が衝撃で吹き飛ぶ。
戦況を見ていたカーキが静かに腕を組む。
「乱れた心には、僧兵式制圧法が効くのだ。」
そう言ってから、一歩、二歩と滑らかに前へ出る。
彼の錫杖捌きはまるで型の演舞のように無駄がなく、近づいた敵が触れた瞬間に、逆に弾き返されていく。
打撃音よりも、輪の細やかな響きが戦場に重なった。
最後に、隊のまとめ役であるオリーブが静かに息を吐く。
彼は何も言わず、ただ片手で錫杖を立てる。
地味な色だが、妙に威厳が漂う。
売人軍団が15人、最後の一斉突撃に出る。
オリーブは一歩も引かず、
「南無」と短く唱えた。
その瞬間、五人の足元に淡い金色の輪が広がり、
五本の錫杖が同時に地面を「カンッ」と叩く。
まるで衝撃波のような広がりが一気に敵を呑み込み、
売人たちは全員、吹き飛ばされて地面に転がった。
戦場に響く音はただひとつ、
静かに揺れる錫杖の金色の輪の「しゃらん…」という音だけだった。
僕は助かったのか?茫然としていると視界にアイボリー色の全身タイツを着た女性が駆け寄ってくるのが見える。僕の手足に縛られた縄を解いてくれた。
「もう大丈夫よ。」
そう微笑んだ笑顔が凛としながらも可愛らしかった。
ナチュラルカラー戦隊・BO♰ZUは、檻に捕まっていた人も開放していく。
助けられた人は頻りにお礼を言った。
僕もお礼を言った。
そしたら、オリーブが言った。
「僕たちに感謝する必要はない。君たちにはこの言葉を贈ろう。」
「平常心是道。何気ない日常こそ尊いという意味だ。」
「日々に感謝なさい。」
警察が駆け付けたときには、BO♰ZUはいなくなっていた。売人たちは警察に捕まり見事事件は解決した。ニュースで騒がれたがなぜかBO♰ZUの話はニュースに出て来なかった。報道規制?
翌日には、僕の日常が返ってきた。
「なんだかんだまだ生きてるからな。」
「なんだかんだまだ生きるんだろうな。」
その口癖に重みが増した気がする。日々に感謝しよう。そして、ナチュラルカラー戦隊BO♰ZUありがとう。アイボリーさん可愛かった。
お読みいただきありがとうございます(*'ω'*)




