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禅語何それ美味しいの?  作者: 夕暮れの家


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さらば糞ったれな競争社会!

「まただ。」

「あー、まただ。」

「ここもか。」

「この人もか。」


気づけば同じ言葉ばかりが頭を巡っていた。世の中はどうしようもなく窮屈で、どう足掻いても競争から逃れられない。

この世は糞だ。糞の吐き溜まりだ。

今日もどこかで誰かが勝ったとか負けたとか、そんなくだらない競争が行われている。


もううんざりなんだ。勝ち負けの世界は。


こんな気分のとき、俺は決まって行きつけの喫茶店に足を向ける。

マスターに少し話を聞いてもらえば、何となく胸のつかえがとれる気がするからだ。




駅前の大通りを外れ、一本奥の細い路地に入る。

昼なのに薄暗く、アスファルトの隙間には草がのび、古い民家の壁にはところどころひびが走っている。

その路地の先に、寂れた白壁の喫茶店がぽつんと佇んでいる。


喫茶「喫茶去(きっさこ)」。


白塗りの壁は時の流れに負けて薄汚れ、看板の文字はところどころ欠け落ちていた。

けれど、なぜだろう。このくたびれた外観が最近の俺には妙に落ち着く。


ドアを開けると、カラン、と小さな鐘の音が響いた。

途端に、深煎りコーヒーの香りがふわりと体を包む。

木の床は少しきしみ、古いスピーカーからは小さな音量でジャズが流れている。


マスターがカウンターの奥から顔を上げる。


「マスター、ブレンド一つ。」


「あいよ。」


店内に客は俺しかいない。

いつもそうだ。だからこそ、通わずにはいられない。せめて経営の助けになれば、と密かに思っている。


マスターは豆を挽き始める。ガリガリと心地よい音が店内に響く。

抽出が始まるまで少し時間がかかる。

その間が、いつものトークタイムだ。




「マスター。この世は糞だね。競争社会なんて糞だ。」


「どうした、どうした。今日はいつになく荒れてるじゃないか。」


「俺はね、世界の真理に気づいてしまったんだよ。」


マスターはフィルターから落ちるコーヒーを眺めながら、穏やかに笑う。


「聞こうか。」


「世界は競争だ。夢を叶える競争、成功を求める競争、より良い人になろうとする競争、幸せを求める競争……」


「人はみんな、何かしらの競争をしている。勝った負けたを繰り返しては、落ち込んだり喜んだり……そんなの、したくて生まれたのかって思うよ。」


言い切ったとき、自分の声が思った以上に強くなっていて少し気まずくなる。


マスターはコーヒーを見守りながら、淡々と答えた。


「まあ、そうも見える。子供の頃から競争させられるからな。」


「そう!そうなんだよ! 子供のときから一等賞を決めるレースをさせられる。もういい加減うんざりなんだ。」


マスターはカップにコーヒーを注ぎ、静かに微笑んだ。


「でも、そうとも限らないのが世界の面白いところだと思うな。」


思わず眉をひそめる。


「どういう意味?」




「仏教でな、『一切唯心造(いっさいゆいしんぞう)』という言葉がある。」


「いっさいゆいしんぞう?」


マスターはコーヒーを差し出す。湯気が立ち上り、苦味の香りが鼻腔を刺激する。だが今はそれどころじゃない。


「『この世界に起こるすべては、心がつくり出したもの』って意味だよ。簡単に言えば、そう感じているだけなんだな。」


「感じているだけ?」


「そう。感じているだけ。世界はいろんな面を持っているが、君はいま“競争の面”を強く感じているだけだ。心が世界を選んで見ているんだよ。」


「……そんなものかな。」


「世界は複雑で多面的である。なぜか?世界は心を反映して見えてくるからだ。人の心は複雑だ。だから世界も複雑になる。」




そこでマスターは突然、話を変えた。


「そうだな。猫は好きか?」


「好きだけど……急だね。」


「猫喫茶に行くといい。こんなおじさんと話すより、世界の真理がよく見えてくる。」


「猫喫茶で?」


「ああ。猫をよく観察するんだ。世界がほんとうに競争だけでできているのか、考えてみるといい。」


「猫は何も考えてなさそうだけど……まあ、それは猫だからじゃない? 人間は結局、競争社会に生きてるよ。」


「じゃあ、人間も観察してみればいい。例えば、このおじさんでもな。」


「マスターだって競争社会に生きてるでしょ。」


「生きてるけど、まともに付き合っていない。」


「付き合ってない?」


「付き合ってたら、こんな寂れた店にはなってないだろ。」


「確かに、説得力が違う。」


「失礼な客だな。」


二人で笑い合う。

笑い声は店の古い壁に心地よく響いた。


「競争社会に疲れたら、自然を見に行くといい。自然はな、黙って世界の別の一面を見せてくれる。」


コーヒーを一口。舌に広がる苦味が、なぜか心に優しく染み込んでくる。


「世界の別の面を知れば、現代社会の中でもスローライフは可能になる。」


「マスターはスローライフできてるの?」


「心だけはな。」


「心か……。」


カップを両手で包み込むと、その温かさが胸の奥までしみこんでいく。


「猫喫茶……行ってみようかな。」


「いいんじゃないか。」


その後は静けさの中でコーヒーを楽しみ、俺は店を出た。


路地に出た瞬間、昼の光が少しやわらかく見えた。

マスターの言った「心だけはスローライフ」という言葉が、不思議と胸に残っている。


さて、猫喫茶に行こう。

あの場所では、どんな世界が見えるのだろうか。

巧妙な猫喫茶のステマ、私じゃなきゃ見逃してたね。

お読みいただきありがとうございました(*'ω'*)

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