赤ずきんちゃんって名前あるの?【ギャルとオタクくん】
「あーし、疑問に思ってることあるんだけど。」
金髪にピンクメッシュのギャルが、教室の後ろの窓際で頬杖をつきながらぽつりと呟いた。
昼下がりの光がカーテン越しに差し込み、彼女の髪の毛が透けてきらめく。
教室は昼休み。みんなそれぞれスマホをいじったり、パンを食べたり、友達と喋ったりしている。
どこかのんびりとした空気が流れていた。
「なーにー?」
スマホをいじりながらギャル友が答える。
「赤ずきんちゃんって名前あるん?」
不思議そうに尋ねる。
「童話の?確かに赤い頭巾被ってるから赤ずきんでしょ。」
「そうっしょ。頭巾外したら名前ないん?今日の気分は青い頭巾とかできなくない?」
「確かにー。」
二人の笑い声が響く。そのとき教室の隅にオタクくんが立ち上がる。
「原作の赤ずきんには名前がないでござるよ。」
「オタクくん来たー。」
ギャル友が笑う。
「原作には名前のない赤ずきんでござるが後世で作品にされる上で、『レッド』『ルビー』『ロージー』などの名前がついているでござる。」
「レッドとかまんま過ぎて面白いっしょ。」
「レッドって名前だから赤いものがお気に入りみたいな?」
オタクくんは難しい顔をして指を振り振り答える。
「禅語では『不立文字』という言葉があるでござる。言葉や名で真理を定義することはできないという意味でござる。どんな名でもその人を定義することはできないでござるよ。名とは仮の姿でござる。」
「オタクくんもオタクくんだもんね。」
ギャル友が茶化す。
「オタクくん名前何っしょ?」
「鬼龍院景虎でござる。」
「かっこ良すぎっしょ!」
二人がほぼ同時に叫び、笑いながら机を叩く。
「オタクくんでいいでござるよ。」
オタクくんは少し照れながら、でもどこか満足げに言った。
「その名にも、もはや愛着があるでござる。」
うんうん、と物知り顔で頷くギャル。
「オタクくんはやっぱオタクくんっしょ!」
笑いが再び教室に広がった。
窓の外では風がカーテンを揺らし、チャイムの音が鳴る。昼休みの終わりを告げる音。
みんなが教科書を開きはじめる中で、三人だけがまだ笑いの余韻を残していた。
このときはまだあんなことが起こるなんて誰一人考えてもいなかった。
次の日、ホームルームで先生がいった。
「明石美穂が車に轢かれた。」
騒然となる教室の中で、オタクくんは目の前が暗くなる感じがした。
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