今世のテーマは和敬清寂
目を開けると真っ白な空間にいた。
目の前に現れた光り輝く女性が言った。
「貴女は愛されませんでした」
「あなたに言葉を贈ります。和敬清寂。互いを敬い、心を清らかに保ち、静けさの中で調和して生きる姿勢。今世は和敬清寂を感じてください。」
「では次の人生を!」
女性が指をパチンとならすと意識が遠のいた。
「ようやく出会えた」
意識を取り戻すとイケメンが私を抱きしめていた。
そして私の体に「はぁー」と息を吹きかけると入念に布で磨く。
私はバイクに生まれ変わっていた。
(えっ!?バイク??)
始めは驚いたが、結構快適だった。
彼は毎日私に跨った。
私も気合を入れて彼を風の向こう側へ運ぶ。
彼は私にデレデレだった。いつも私を見る度褒めてくれる。
間違いなく私は今までの人生で一番愛されている。
そんなある日事件が起きた。
夕方から豪雨になり打ちしける雨の中彼を運ばなければならなくなった。
嫌な予感がした。
予感は当たってしまった。カーブでマンホールの上を通るときにスリップしてしまったのだ。
彼と私が地面に投げ出される。
彼は大丈夫だった。すぐに私に駆け寄ると私の心配をしてくれた。
けど私の中では失敗してしまったという事実が重くのしかかる。
もう愛してくれないかも。
心配で涙が零れてきた。実際にはオイル漏れだけど。
私は修理されてるときも心ここにあらずだった。
修理が終わり彼が私を迎えに来る日、彼は変わらず笑顔で私を迎い入れてくれた。
愛されている。変わらずそう確信できて心が温まる思いがした。
長年彼に愛され続け彼がよぼよぼのおじいさんになってもガレージに収納されている私のところに来ては彼はニコニコと私を磨き続けた。
彼がいなくなり私の意識も遠のいた。
――和敬清寂。互いを敬い、調和の中で生きる。
私は確かにその意味を知った。幸せなバイク生だった。
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