キリギリスの流儀
「こいつ、また歌ってやがる……」
秋の風が吹く中、アリはせっせと食料を運びながら、木陰でギターを爪弾くキリギリスを睨んだ。
「お前、冬が来たら死ぬんだぞ」
「そうかもね。でも今日、空が綺麗なんだ。こんな日は、歌うしかないだろ?」
アリは鼻で笑った。
「脳天気な奴だ。後悔しても知らんぞ」
キリギリスは肩をすくめ、またメロディを奏で始めた。風に乗って、音が遠くまで広がっていく。
そして冬が来た。
アリは暖かな巣で、備蓄した食糧を食べながらぬくぬくと過ごしていた。
ふと、耳をすませると、かすかに音がする。寒空の下、キリギリスがまだ歌っていた。指は震え、声もかすれている。けれど、その姿は不思議と輝いて見えた。
アリは戸を開けた。
「お前、なぜそこまでして……?」
キリギリスは微笑んだ。
「未来のために今を捨てるのも立派だ。でも俺は、“今”を生きたい。“即今只今”って知ってるか? まさに今、この瞬間だけが本物なんだ」
アリは何も言えなかった。
黙って一歩、外に出た。冷たい風が頬を打つ。空は冴え渡り、静けさの中にキリギリスの歌だけが響いていた。「バカな奴だ」とアリは呟いた。
踵を返し家の中に帰りぽつりとこぼす。
「……でもまあ、そんな生き方も、悪くないかもな」
二人分の暖かい食事を用意しながらそんなことを考えていた。
お読みいただきありがとうございました(*'ω'*)
昨日、長年温めていた短編を投稿しました。
『エンジェルキャッツ ~ "夢"の異世界転移 ~』
https://ncode.syosetu.com/n1857lk/
"夢"の異世界転移というお話。
何それ?と思った人は、よろしければ覗いてみてください。
約1万文字の短いお話ですのでサクッと楽しめると思います。
よろしければどうぞー(*´ω`*)




