ニートも飽きた
「ニートも飽きた…」
俺はもう、三年もニートとして生きている。
最初は自由だと思った。朝も昼も夜も関係ない。働かなくていい、責任もない。まるで人生の夏休みだ。
だがそれは長く続かなかった。次にやってきたのは、将来への焦り。このままじゃまずいと思い、就職活動もした。だが一度レールを外れた人間に、世間は冷たい。
「空白期間?それって何されてたんですか?」
面接で笑顔で聞かれ、心が折れた。
無理かもしれない。社会復帰なんて。
そんなある日、図書館でふと目にとまった本があった。『今を救う禅語集』。「俺を救ってくれ」と願うように、ページをめくった。
そこにあったのが――「一華開五葉」
“一つの花が五枚の花びらを開く”という意味らしい。小さな一歩が、やがて新たな可能性を開いていく、と。
……縋ってみるか、この言葉に。
とりあえず、図書館で禅の本を読みあさった。読んで、読んで、また読んで。そうするうちに、ふと思った。
「……そうだ、仙人になろう。」
言い出した瞬間、自分でも笑った。だが不思議と、胸の内は澄んでいた。
思い立ったが吉日。住んでいい山を探し、地主に頭を下げて回った。「仙人!?ふざけるな」と一蹴され続け、諦めかけた頃、ひとりの老人が言った。
「ほほほ、面白いことを考えるの。いいじゃろ、わしの山に籠ってみ。」
のじゃ口調の老人にリアルで出会うとは思わなかった。
こうして俺の仙人生活が始まった。
それっぽい服を着て、ヒゲも伸ばし、瞑想めいたことをしてみた。
朝は湧き水で顔を洗い、薄く開けた小屋の窓から霧が差し込む。鳥の声と風の音だけが、俺の一日を告げる合図だった。
飯盒で炊いたご飯を一口ずつ味わい、午後はただ、座る。目を閉じれば、いつの間にか風の流れや木々のきしみまで聞こえてくる。
するとある日、テレビの取材が来た。「若いのに山に籠って修行中?これはニュースだ」と。
それっぽく語った。
「現代人は情報に疲れすぎている。空を見上げる時間が必要なんです。」
……なぜかウケた。今では“若仙人”として、地元じゃちょっとした有名人になった。
「一華開五葉」
まさかこんな花の咲き方があるとはね。でも、ありだよな。
お読みいただきありがとうございます(*'ω'*)




