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禅語何それ美味しいの?  作者: 夕暮れの家


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16/66

私には撃てない

瓦礫と黒煙の街に、喉を引き裂くような咆哮が響く。

少女は壁際に身を寄せ、震える指先を見つめていた。手には一丁の古びた拳銃。それは彼女がまだ撃ったことのない、未知の重さだった。


目の前を這うように進む異形のもの。骨のような腕、ただれた皮膚、黒く濁った瞳――けれど、それでも彼女にはわかっていた。

この化け物も、もとは「人間」だったのだと。


「……撃てない……」


彼女は唇を噛む。脳裏に、かつての教師の声が浮かぶ。


「人間を殺してはいけません。命は尊いのです」


その教えは正しかった。疑いようもない。

けれど、正しさが命を守るとは限らない世界になった。


そのとき、背後から声がした。


「死にたいなら撃たなくていい」


男だった。軍服に身を纏い、煤けたマスクの奥から目だけが笑っていた。


「正しい教えにすがって動けなくなるくらいなら、そんなもん捨てちまえ。『滅仏滅祖(めつぶつめっそ)』って言葉、知ってるか?」


「……なに、それ」


「仏も祖も滅せよ。つまり、教えも信仰も捨てて、自分の頭で考えろってことだ」


少女は顔を上げた。異形のうめき声が、すぐ近くまで迫っている。

選ばなければ、食われる。


「私には撃てない……」


教室の匂いが脳裏をかすめる。

笑いあった、あの昼休み。

目の前の異形の顔に、一瞬だけその子の面影が重なる。

……それでも――私は、生きたい。


「私は……生きる」


銃口をゆっくりと持ち上げる。

教えではない。恐怖でもない。

彼女は、彼女自身の意志で引き金を引いた。


乾いた音が一発、静寂を裂いた。


「…アハ、アハハハハハハ、気持ちイイーーーー!」

お読みいただきありがとうございます(*'ω'*)

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