どうせ一票じゃ変わらない
「どうせ、俺の一票じゃ、何も変わらない」
陽平は駅前の演説に目もくれず、ポケットに手を突っ込んだ。
大人になってすぐ、期待して投票したが何も変わらなかった。
ニュースを開けば政治家の汚職やスキャンダル。
金持ちのための政治で自分みたいな貧乏人には見向きもしない。
それでもこういう。
「今の世の中になったのは有権者が今の政党に票を投じたからだ!」
「責任は国民にある!」
政治家どもが自分の責任を国民に擦り付ける。
うんざりする。
当事者意識を持てというが、そんな政治をさせるために一票を投じたのではない。
長く続く政治不信でもう選挙に行くことすら億劫になっていた。
いつだって、ニュースの中の政治は、誰かのためで、自分たちの声なんか届いてない気がした。
コンビニで缶コーヒーを買った際に、ふと手が止まる。レジ横の災害支援の募金箱。
昔、祖母と一緒に、ロウソクの火を囲んで避難所で過ごしたことを思い出した。
その夜、祖母に電話した。
「おばあちゃん、俺さ、もう選挙行かなくていいかなって……意味あると思う?」
「あるさ。あんた、昔わたしと一緒にろうそく灯したの覚えとるかい?」
「うん、地震のときの夜。真っ暗な体育館だった」
「そう。ひとつ灯すだけで、周りの顔が見えたろ? 安心できたろ?」
祖母の声がやさしく笑った。
「禅語に『一燈照隅』ってある。ひとつの灯りが、隅っこを照らすって意味さ。あんたの一票も、日本の未来のすみっこを照らすことがあるんだよ」
電話を切った後、陽平は机の上の小さなライトをつけてみた。部屋の隅がぽっと明るくなる。
「たしかに、ひとつでも、闇は全部じゃなくなるんだな」
翌朝、駅前でビラを配るボランティアの人の前で立ち止まった。
「ねぇ、それって投票所の案内?」
「えっ、はい! あの、興味ありますか?」
「うん。灯りを、つけに行こうと思って」
陽平が受け取った紙を見つめると、その人は少しだけ、うれしそうに笑った。
「……選挙、行くか」
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