禅系Vtuber空の物語
「もう来んなよ、空気なんだから」
ガタン。机が倒れ、教科書が散らばった。誰も何も言わない。笑い声だけが教室に響く。私は、いないものとして扱われている。
帰り道、夕焼け空がやけに遠く感じた。怒りも悲しみも、どこかに置いてきた。ただ今日も、私はマイクの前に座る。
私は禅系Vtuber『空』。現役中学生。
顔も名前も偽っている。でも、それがいい。本当の私は、きっと届かないから。
「……こんばんは。今日の禅語は“幻化空身”」
声が、少しかすれる。
「この身は幻。だからこそ自由になれる――その言葉に救われて、Vtuberを始めました。幻だから誰かの心に触れられるって……でも、今日はダメみたい」
マイクを握る手が震えた。
「また机を倒されて、教科書を踏まれた。“空気以下”“いらないもの”って」
その瞬間、コメント欄が動いた。
「空ちゃん、生きててくれてありがとう」
「幻の言葉に救われてる」
「幻だからこそ、優しさが届く」
涙が、キーボードに落ちた。
私は幻かもしれない。でも、幻のまま終わらない。
「今日の禅語、もうひとつ。“本来無一物”。人はもともと何も持っていない。だからこそ、自由に何者にでもなれる。――私は“空”になって、生き直してるんです」
声に、ほんの少しだけ力が戻った。
「今日もありがとう。幻の中で、本物の想いを届けたいです」
その数ヶ月後、私のチャンネル登録者は10万人を超えていた。
ある日、教室で先生が言った。
「空ってVtuber、人気あるらしいな」
「あのV、禅語語ってるやつだろ?」
クラスメイトの視線が私に集まる。
「……お前、空って名前だったよな?」
「まさか、あのV……お前?」
私は顔を上げて言った。
「空だけど、“空気”じゃないよ」
「“空気なんだから来んな”って言ってくれてありがとう。あれがなかったら、“空”にはなれなかった」
彼は黙っていた。
「ざまあみろ。私は“いらないもの”なんかじゃなかったよ」
その夜の配信タイトルは――
「幻のままじゃ終われない。空は、空気じゃない」
コメント欄は、光であふれていた。
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