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第3話「アルバムとホワイトデー」

『遊里君、お誕生日おめでとう!』


3月7日。今日は、遊里君の誕生日。

すぐに、遊里君からかわいいスタンプ付きで返事が届く。


豊田遊里:ありがとう〜〜〜〜!!!


そこから、グループLINEが一気に盛り上がる。


柊真央:でた、すぐ甘える

諏訪セナ:マジあざとくてうざい

井上信:朝からずっとうるさいんだよ

御影怜央:でも静かになるとそれはそれで気になるやつ

天野蓮:わかる〜〜〜〜

豊田遊里:ちょ、みんなひどくない!?ボク今日主役だよ!?!?

柊真央:あーはいはい、主役主役〜(棒)


椿翔平:よし!じゃあ俺からのプレゼント、アルバムのサンプル欲しい人〜集合〜!

井上信:はーい!欲しい!

御影怜央:いる

天野蓮:ほしい〜!ぜったい聴く〜!

柊真央:よっしゃ!僕も欲しい欲しい〜!

豊田遊里:ボクも〜っ!ねぇ、3曲目ってバラードのやつだよね?

柊真央:でも〜、どうせ高いんでしょ〜?大人のやつなんでしょ〜?

椿翔平:いやいや、今回はちゃんと“業務用”だって

柊真央:業務用……高いやつやん!!

諏訪セナ:黙れ

柊真央:ヒェッ!?


……そして、私もそっとメッセージを打つ。


『私も欲しいです』


アルバムの告知と、ファンのみんなに向けたInstagramの生配信。

その準備のために、メンバー全員が事務所に集まるらしい。

私はそのタイミングで、アルバムを受け取ることになった。


日付は……ホワイトデー。


動画に、アルバムに……

まだ来ていないホワイトデーを想像しただけで、自然と笑みがこぼれた。



指定された会議室に向かうと、スターライトパレードのみんなが揃っていた。


「こっちこっちー!」


会議室のテーブルへ呼ばれると、そこには積み上げられたCDと、ズラリと並ぶ可愛い箱の山。


「このプレゼント、小道具じゃないよ」

「撮影が終わったらね。奏ちゃんへの、ヴァレンタインのお返し」

「えっ!? そうなの!? アルバムがお返しかと思ってた!!」


みんなが話していた“お返し”、実は撮影小道具に見せかけて、本物のプレゼントらしい。


「小道具扱いしちゃってごめんね?」

「い、いえっ!全然……!」

「で、これが。今日来てくれた人へのアルバム」


椿さんがそっと手渡してくれたCDを、私は大事に受け取る。


「わーーーーー!!」


私が作った『Dear You』が、リード曲として収録されているアルバム。

『shooting stars』も収録されているし……

やっぱり、これ以上ない最高のホワイトデーの“お返し”だと思った。


「あ、忘れちゃう前に……遊里君。ちょっと遅れちゃったけど、お誕生日おめでとう」

「うっそーーー!うれしーーー!!」


ほっ。

喜んでくれたみたい。


ママにアドバイスしてもらった、可愛いパッケージのルームフレグランス。

ちゃんと気に入ってもらえるといいな。


「そろそろ配信始めますが、音羽さん。見学されるなら、こちらへどうぞ」


八神さんに案内され、カメラに映らない位置にそっと移動する。


Instagramの生配信って言ってたよね。

私も、スマホでそっと開いてみる。


本番が近づくと……

いつもかっこいいみんなの顔が、急に“かっこいいアイドルの顔”になる。


その瞬間を見るたびに、私は……

何度でも、みんなのファンになってしまう。


「「「「「「「こんにちは〜!スターライトパレードです!!」」」」」」」


椿翔平:「ということで本日は、3月14日!ホワイトデーの生配信〜!」

御影怜央:「今年もバレンタイン、たくさんのお手紙やメッセージ、本当にありがとうございました!」

井上信:「ちゃんと全部読んでるよ!俺なんか3回くらい読み返したからね?」

柊真央:「はい嘘〜!」

井上信:「いやマジでマジで!」

諏訪セナ:「ま、一番多かったのオレだったけどな」

一同:「おい出た!!」

天野蓮:「はいはいはい、今日はケンカしに来たわけじゃないんで〜!」


井上信:「そんな僕たちから、感謝の気持ちを込めて……」

御影怜央:「来月、NEWアルバム『Dear You』をリリースします!」

豊田遊里:「わ〜〜〜!!(拍手)」

柊真央:「ありがとうございまーす!」

天野蓮:「収録曲は全17曲!ユニット曲も収録されて、みんなの“好き”がきっと見つかるはずです!」


椿翔平:「で、今回はね、ホワイトデーってことで……」

井上信:「スタジオの後ろに、オレたちからの“お返しプレゼント”並んでまーす!!」

豊田遊里:「見えるかな〜?このちいかわの缶はボクのですっ♡」


柊真央:「てかさ〜、この白い紙袋のやつ、ヤバない??」

御影怜央:「それね、実はセナの!」

諏訪セナ:「おいおいおい!!なんで言うんだよ!!」


天野蓮:「ってことで、セナ君のプレゼントを抽選で一名様にー!」

諏訪セナ:「おい!やめろやめろ!!」

柊真央:「激レアすぎる〜〜!ガチじゃんガチ〜!!」

諏訪セナ:「……それ、マジでやめとけ」


御影怜央:「まあまあ、気持ちだけってことで!ね?」


井上信:「そんなわけで、NEWアルバム『Dear You』、たくさん聴いてくれると嬉しいです!」

椿翔平:「ホワイトデーのお返しは、音でも届けるからな!」


「「「「「「「スターライトパレードでした〜〜!!」」」」」」」


たった3分の配信だったけど、Instagramのコメント欄は大盛り上がり。


アルバムへの期待の声はもちろん……

みんなのやり取りに笑いながら、思わず“♡”を連打したくなる。


「わぁぁぁあみんな可愛すぎた……ホワイトデーありがとう」

「Dear Youまじで全曲好きすぎて泣いた」

「プレゼント映ってたのさりげなすぎて尊い……」

「遊里くんちいかわ缶まじで似合いすぎ♡」

「蓮くんの“みんなの“好き”がきっと見つかる”助かる、平和の象徴なの?」

「セナくんの“それマジでやめとけ”のトーン、彼女にしか見せないやつだろ!!」

「信くん、3回読むわけないって信頼されてなさすぎで草」

「真央、バレバレの演技かわいすぎだろ!!!」

「プレゼントの袋で考察始めるオタク大集合してて笑った」

「ちょ、あの白い紙袋ジルでしょ!?!?」

「セナのプレゼント欲しい人生だった……」

「てかセナ、いつからあんな“彼氏感”出すようになったの……?」

「スタライ、配信ですらエモの供給止まらんのどういうこと?」

「Dear Youってタイトルといい、今日の演出といい、完全に狙われてる」

「はぁ……しんどい……スタライ最高……」



帰宅後。

さっそく『Dear You』の再生ボタンを押す。


……この音、どうやって作ってるんだろう。


低音が、こんなにも包み込むように響くのは……

コード進行? エフェクト? それともミックスの“魔法”みたいな技術?


耳で聴いて、感情で受け取ってるはずなのに。

どうしても気になってしまう。


目に見えない“作り手の意図”が、細部からじんわりと滲んでいた。


このドラム、あのアレンジャーさんかな……?

ストリングスの重ね方が、あの曲と似てる気がする。


でも、特に気になったのは……“余白”。


音が鳴っていない部分にも、意味があるような気がして。


改めてブックレットを開く。


作曲:sou


私の名前の隣に記されていたのは……

編曲:南條 碧


……『shooting stars』も、この人。


「何を思って、アレンジしているんだろう。……話を聞いてみたいな」


初めて、誰かの頭の中で鳴っている音に、興味を持った気がした。


後日、別パターンのCDを受け取りに事務所へ立ち寄った帰り……

偶然、打ち合わせを終えた椿さんと鉢合わせる。


アレンジャーのこと、知ってるかもしれない。

そう思って、勇気を出して切り出した。


「椿さん……あの、少しだけ、お時間いいですか?」

「ん? どした?」

「『Dear You』のアレンジを担当された南條さんって方のこと、ブックレットで見て……

もし可能なら……少しだけお話を伺ってみたいなって思ってて……」

「南條さんに?」


椿さんはちょっと驚いたように眉を上げて……にやりと笑った。


「へぇ〜……奏ちゃんが“自分から話したい”って思うなんて、珍しいね」

「す、すみませんっ! 変なお願いだったら……」

「いやいや、大歓迎。むしろ南條さん、喜ぶと思うよ」


すぐにスマホを取り出して、連絡をとってくれる椿さん。

そのフットワークの軽さが、なんだか少し嬉しかった。


「今、事務所のスタジオにいるって。今日、このあと予定ある?」

「……ありません!」

「OK。じゃ、行ってみよっか!」


事務所のビル内にレッスン場があるのは知っていたけれど、こんなスタジオがあるなんて知らなかった。


スタジオのドアが開いた瞬間……

ほんのり古い機材の匂いと、かすかに漂うコーヒーの香り。


ノートPCの画面には、色とりどりの音の波形が踊っていて。

そこにいたのは、無造作に髪をまとめた、無精ひげの男性。


「南條さん! さっき連絡した子です」

「……初めまして。音羽奏です」

「……ああ、椿君。久しぶり。その子か。よろしく」

「耳、いいよね。『shooting stars』だけど『Dear You』の原曲も、すごく面白かったよ」


そのひと言をきっかけに、私の“音の扉”が……

またひとつ、静かに開いた気がした。


「……あの! アレンジ……本当に素敵でした!」


まずは、ちゃんとお礼を言おう。

心から、そう思った。


「私の曲を、あんな風に仕上げてくださって……ありがとうございます」

「んー、いいよ。仕事だからね。で? アレンジのこと、聞きたいの?」


……これって、“聞いていいよ”ってことだよね……?


「今日は、いろいろ教えていただけるって……ありがとうございます!」


そう言った瞬間、自分でも驚くほど、一気に口が動き出した。


「あの、すみません!最初にどうしても気になってたんですけど……!


「『Dear You』のAメロ、ピアノの右手が上モノっぽく聴こえてたのに、サビになると下に回って低音に厚み出てたのって、あれ定位変えてますか?

それともサンプルごと差し替えてる? あと、2Aの前で一瞬リバーブ消えるの、意図的なカットインですか?

ベースの音、たぶんSubとLayerしてますよね? 上の方だけフィルターかけてるように聴こえて……

あとあのドラム、実音じゃないと思うんですけど、コンプ何使ってます? リリース設定、もしかして手動で……

それと、最後の“伸びるコード”のとこ、上3度じゃなくて6度で重ねてますよね? あれ普通やらないと思うんですけど、すっごく切なくて……!」

最後まで読んでいただきありがとうございました!


もし少しでも気になってもらえたら、フォローやお気に入りしていただけると励みになります。


第4話「初恋と忠告」は【明日夜】に更新予定です!


ぜひまた覗きに来てくださいね!

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