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スターライトパレード3巻~Éternité~  作者: 木風


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第10.5「ピアスと痛み」

「ふーーーーっ……」


打ち上げもそこそこに、酒の一滴も飲まず車に乗り込む。

時刻はちょうど20時。


奏、もう部屋にいるだろうか。

逸る気持ちを抑えつつ、慎重に車を発進させる。


……ここで事故ったらマジでシャレにならん。


マンションの前には不自然にうろつく人影。

あー……やっぱ記者いるな。


マジあいつら何なんだよ。マジで邪魔。

あいつらがいなけりゃもっと堂々と奏に会いに行けるのに。


地下駐車場に車を入れて部屋へ向かう。

扉の向こうに奏がいると思うだけで、ドアノブを握る手が震える。

……もし、いなかったら?

いや、考えたくねぇ。立ち直れねぇ。


……ガチャ。


玄関に、きれいに揃えられた小さな靴。


……はあああああ。

そういうとこなんだよ、お前……!

なんだよこの完璧に整った並べ方。

オレの中の何かが爆発する。


履いていた靴を脱いでいると、リビングからひょこっと顔を出して来る奏。

なんだよその登場の仕方……お前……


「おかえりなさい」


……は??え?いま何て言った???

おかえりなさいって言った?今??

いやいやいや無理無理無理、オレの嫁可愛すぎん???あ、嫁じゃなかった。

いや、マジで嫁になってくれよ。今すぐ婚姻届持って区役所直行だわ。

ハッピーサマーウエディング高らかに歌いながら提出するわ。


「……た、だいま」

「先にお邪魔しちゃってた。……ライブ、お疲れ様」


そのワンピ、何?その二の腕、何??

触ってなくても柔らかさわかるとか、バグだろ??

スカートのふわっとした広がり具合、レースの揺れ方、すべて完璧。


「あーー、ちょいリビングで待ってて。顔洗ってくるわ」


洗面所に駆け込み、膝から崩れ落ちる。


……やっっっっば!!!!!!!


誰か、今のオレに金メダルあげてくれ。

理性を保てたオレを誰か褒めてくれ。

洗面所に逃げた自分を全力で褒めたい。

あと1秒遅かったら寝室直行だったぞ。マジで。


……いや、落ち着け。

奏にはその気が1ミリも無い。

オレだけが火事。


冷静を保ちつつ、顔を洗って平気なふりを装いながら奏の前に出る。


「なんか飲む?」

「色々あるんだね。……これ、お酒?」


あー、奏が酒飲めたらなーーー。

酔った姿もくっそ可愛いんだろうなー。


「酒以外な。アイスティーでいいか?」

「うん。……20歳になったら、飲んでみたいな」

「ん、3年後な。どんなんがいいか考えとけよ」


……よっっしゃあああああ!!!

3年後の誕生日、予約入りましたァァァァ!!


酔ったらどうなんの。

頬ほんのり赤くなって、目が潤んだりすんの?

そんな顔されたら、そりゃもう帰せねぇよなああああ!!!


アイスティーを手渡し、そっと隣に座る。


2ヶ月も前から選んでた誕生日プレゼント。

ライブのあとに渡したTiffanyと同じ緑の箱。


……プラチナと0.34ctのダイヤのピアス。


「こっちが本当の誕プレ」

「……開けていいの?」

「ん」


奏だけを想って選んだピアス。

他の誰にも贈ったことなんかない。


「きれい……これ、シルバーっていうんだよね。なんだか冷たくて、すごく綺麗……」


プラチナとシルバーの見分けつかないのもかわいいな、ちくしょう……


「開けてすぐはつけられないけど、1カ月くらいしたらこれ着けろよ」

「ありがとう……一生大事にするね」


……一生、って。

オレの方こそ、お前を一生大事にしたいんだけど。


奏が意を決したように、ピアッサーを差し出してくる。


「……じゃあ、開ける?」

「……!!お願いします……!」


ぷるぷるに潤んだ目で頷いて、そっと目を閉じる。

ちょこんと座ったその姿勢。

吐息の距離。顔の角度。


いや待って、これ……

完全にキス前の体勢じゃん。


ぷるぷるの唇に、艶っぽい光沢まで乗って……

唐揚げ食ってもこうはならんぞ。


準備運動なしでこれとか反則だろ!?

オレの理性、今ミリ単位で綱渡ってんだけど!?


……それにしても、肌、白すぎ。

耳とか、ぷにってしてるし。


ピアッサーの位置を確認しようと、そっと指で触れた瞬間……


「んっ」


……いま、出たよな。

小さく、甘く、可愛すぎる声。


ちょ、誰か録音してた???

この音、YouTubeのASMRで即10億再生行くレベルだろ。

いや、だめだ。

こんな声、世界中に聞かせたくない。

オレだけのもんだろ、これは。


……あぁもう、あいつの吐息が熱い。甘い。

ちょっと動くだけで髪が揺れて、首筋が見えて……


マジで、視界のすべてが性癖。

……天才か?


「私は……痛くても、セナ君となら大丈夫だよ?」


………え、ちょっと待て。


それ、今このタイミングで言う!?

その無垢な顔で!?

爆弾落としたって自覚ある!?


お前、そっちは「ちょっと勇気出したよ」ってテンションかもだけど、こっちは完全に「違うプレイ開始」の合図だわ!!!


お前なあああああああああ!!!


大きく息を吸って、目を閉じて、勢いよく……


バキッ!!!


……開いた。耳、な。

うん、ピアス。穴。

それだけの行為。ほんとにそれだけ。


「……あー……ちょっと、休憩させて?」


限界すぎて、即ベッドへ逃げる。


えっ……オレ、今なんか……恋してない……?

いや、してるわ。


冷静になろうとしていると、逃げ込んだ寝室に心配した奏がノックをしてくる


「……やっぱり嫌だったよね?ごめん、明日クリニックでやってもらおうか……?」

「や、ちが……大丈夫だから。座れよ。もう片方も、開けてやっから」


……え!?!?えええええ!?!?!?


奏さんーーーー???何でベッドに正座で座ってるの??

リビング戻るつもりだったのに、まさかのその場キープ???


まっじか……!!???マジで、ベッドで……

ちょっと待って。


この体勢、マジで近くね??

片膝ついたら太もも当たっちゃう距離じゃん……理性殺しの配置やめて???


「じゃあ……お願いします」


また、そっと目を閉じてくる。


……いや無理、ほんと無理。

この角度、息づかい、照明の柔らかさ、すべてが“そういう夜”の空気感なんだが!?


誰だこの照明選んだやつ!

天才か!?

あ、オレか……!!


右耳のときは正面だったけど、今回は横顔。

めっちゃ近い。

耳も、髪も、匂いも、すぐそこ。


これ、キスしようと思えば0.5秒でできるやつ。

でも今はピアス。落ち着け、自分!!!


お前みたいな、“無自覚に攻めてくる”タイプが一番危ないんだよ……!


「……!」


だから、ちょっと触れただけでビクッと反応すんな!

反則すぎて、オレが変態みたいになるだろ!!!


「ふふっ……」

「どした?」

「くすぐったくて……」


やめてくれその笑い声。

全身に走るわ。色んな意味で。

もうね、目の前のピアッサーが拷問器具に見えてきた。

オレの理性を壊すために設置された罠だろ、これ。


深呼吸。100回目。


……これは医療行為。これは医療行為。これは医療行為……


バキッ!!!


「わ……凄い……!」


奏がそっと耳に触れる。


はい、左耳も無事貫通。

あ、ピアスね。ピアスが貫通。うん。


……てか、この距離やばくね?

キスまであと3センチ。ていうか、0.5秒。

え、なんで今してないの?オレ、バカなの???


「……跡、つけられちゃったみたいだね。少しだけ、大人になった気がする」


…………おいコラ。

それ、今この空気で言っていいセリフじゃねぇぞ。


「~~~~~おっまえな……!!」


耐えきれず、ベッドに突っ伏す。

絶対顔見せられん。たぶん今、顔から火ぃ噴いてる。


「え?セナ君??大丈夫??」


……だめだ。

その声、反則。また理性崩壊しかけた。


「や……大丈夫だから。少し……うん……」


よくやった、オレ。

なんとか、なんとか耐えた。ギリッギリで。

けど、このままじゃ本当に無理。

あと10分いたら絶対我慢できない。


今、22時を過ぎたくらい。

あと少しで、奏の誕生日が終わる。

終わる前には、ちゃんとタクシー呼んで送るから。

この子……マジでシンデレラか何かだろ。


……奏が大人になったら、こんな悩みも全部笑って話せるようになるんだろうか。


その時まで見守らせてよ。

誰にも見せないその姿をオレだけに見せろよ。


大人になったら……


マジで覚悟しとけよ……!

最後まで読んでいただきありがとうございました!


甘さ控えめな話ですが、セナの“好きがダダ漏れ”がじわじわ書けた気がします。

このくらいのテンションのセナも好きなんです。


もし少しでも心に残ってくれたら、感想やフォローいただけると励みになります。


【更新予定】

『スターライトパレード』第4巻

9月11日(木)よりスタート予定!


引き続き、奏とセナの関係の変化を見届けてください。

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