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スターライトパレード3巻~Éternité~  作者: 木風


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第9話「ケーキとプレゼント」

一足先に、八神さんが手配してくれたホテルへタクシーで向かい、チェックインを済ませる。


フロアまるごとが貸し切りにされていて、案内してくれたスタッフの方に部屋へ通されると、そこはまるで夢のあとみたいに静かだった。

さっきまでの光の渦が嘘みたいで、頭の中には、たくさんのメロディーが浮かんでくる。


……ピアノ、弾きたいな。


その代わりにと、iPadを取り出してピアノアプリを起動する。背面には「Starlight Parade」の刻印……。

思いつくまま、気の向くまま、指を滑らせていたら、ふと時計に目をやる。


11時50分。


……嘘、もうそんな時間!?

2時間以上もiPadに没頭してたなんて……!


「日付が変わる頃、みんなで奏の誕生日パーティー、しよ?」


……って、言ってたけど。

打ち合わせが長引いちゃったのかな。


ぐ~~~っ


……しまった。

ライブ後から何も食べてない。

ライブのあとはいつも胸がいっぱいで、つい食べるのを忘れてしまう。

ルームサービス、頼んでいいのかな……それともコンビニ行こうかな……


コンコンコン……。


「ルームサービスです」


……ん?

どこかで聞いたような声。

そっとドアを開けると……


「「「「「「「ハッピーバースデー!!!」」」」」」」


そこには、ホテルに到着したばかりのメンバー全員が揃っていた。

まさか、本当に来てくれるなんて思ってなかったから、言葉が出なかった。

慌てて「シーッ!」ってする姿が面白くて、気づけば私はまた泣き笑いしていた。


「入るよー」

「え、ちょ、蓮くん待って!」

「ほら、あれ食うぞ」


セナ君が親指で指す先、椿さんが大きなバースデーケーキを抱えていた。


「ボク、チョコプレートのとこ〜!」

「それ、奏ちゃんの」

「あー、お腹すいた〜!」

「それな〜。オフショ撮影やらで、なんも食えんかったわ」


「おまえら、ほら、歌うぞ」


少し喉が枯れた声だけど、みんなで歌ってくれた「ハッピーバースデー」。

まるでライブのアンコールみたいで、胸がいっぱいになる。


「ろうそくはね、火災報知器が反応しちゃうと困るからナシで我慢して」

「お皿と包丁、忘れたな」

「そのままフォーク刺しゃいいんだよ」


そう言って、セナくんがフォークにイチゴを刺して、私に差し出す。


「ほら、口開けろ」


……前にも、こんなことがあった。

マカロンを食べさせてもらった、あの時みたい。


みんなの視線に照れながら、あわてて口を開ける。


「……あまっ……~~~い!」


この時期のイチゴって、少しすっぱいイメージだったのに。

今まで食べた中で一番甘く感じたのは、きっと空腹のせい。


「それと、これ」

「え?」

「誕生日プレゼント」

「ボクのも見て見て〜!絶対いっちばん奏が喜ぶ自信あるよ〜!」


次々に渡されて、ベッドの上には色とりどりのプレゼントが並ぶ。


怜央さんからは、キラキラのスマホリング。

遊里君からは、ラメ入りのリップグロス。

椿さんからは、透明感のある香りのヘアミルク。

信さんからは、飾りのついた可愛いミラー。

蓮君からは、リップとハンドクリームのセット。

真央君からは、ふわふわのシュシュとリボンバレッタ。


どれもかわいくて、本当に嬉しかった。


「嬉しい……どれも、使うの楽しみ……!」


使うのがもったいないって思うほど、どれも素敵で。

それ以上に、こんな忙しい時期に“自分のために選んでくれた”って気持ちが、何より嬉しかった。


「あー、明日もあるし、部屋戻るか」

「だな、そろそろ解散だな」


セナ君の言葉で椿さんがみんなを促す。


「今日は本当にありがとう。また明日も、頑張ってね」


最後に部屋を出ようとしたセナ君が、ふと振り返る。


「手、出して」


……あ、そういえば。

さっきのプレゼントの中に、セナ君のだけ、なかった。


差し出した手の上に、パステルグリーンの小さな箱がそっと置かれる。


「誕生日おめでと。おやすみ」


そう言って、静かに扉の向こうへ。


「え〜〜〜!Tiffanyじゃ〜〜〜ん!!」

「セナ君、ガチすぎでしょ……!」


扉の向こうから聞こえた声に、私の胸がまたぎゅっとなった……


ベッドに座りながら、もらった緑色の箱をそっと開ける。

中に入っていたのは、かわいいハートモチーフのキーリング。


……かわいい。


手に取ると、キーリングにはもうひとつキーホルダーが付いていて……

よく見ると、それには「KANADE OTOHA」と刻印されたドッグタグのようなチャームが揺れている。



「……ピアスとか、ど?」

「私、ピアスの穴……開けてなくて!」

「ん、ホントだ。……じゃ、ホールも、オレが開けてやんよ」



1年前の今日、セナ君と交わしたそんな会話が、耳の奥に蘇る。

ふいに触れられた耳が熱くなって、そっとその場所を指でなぞった。


このキーリングも、本当にうれしい。

でも……昨年の約束を忘れられていた気がして、ほんの少しだけ胸が痛んだ。


それでも、みんなからもらったプレゼントに囲まれてベッドに体を預けると、気づけばそのまま眠りに落ちていた。




まだお客さんが誰もいない東京ドーム。

でも照明も音響も、本番とまったく同じ。


“ゲネプロ”と呼ばれるこの時間は、本番そのもののような緊張感に包まれていた。


「本番のように。じゃなくて、本番以上に」


円陣の中でそう言った椿さんの声が、今も耳に残っている。

私は客席にひとり座り、その光景を見つめていた。


音と振動が、足元から伝わってくる。

そのひとつひとつが、心に響いて止まない。


怜央さんは、立ち位置を確認しながら目線の送り方まで調整していた。

椿さんは演出のテンポをスタッフさんに伝え、真央君は軽やかなステップを何度も何度も繰り返す。

遊里君は大きく手を振って、ファンの視線を想像するように笑顔をキープ。

信さんの歌声は、まだ全力じゃないのに、不思議と心に沁み込むようだった。


そして、セナ君。


カメラを見つけた瞬間、表情を変えるその速さ。

誰よりも早く“アイドルの顔”になる彼を、やっぱりすごいと思った。


そのセナ君が、ステージの上から私を見つけると、手招きをする。


「……あのさ、今日ってライブ後、何か予定ある?」

「予定?まっすぐ帰るつもりだったけど……」

「……ライブ後、ちょっとだけ打ち上げ顔出したら、すぐ帰るから。家、来いよ」


……家?え、家って、セナ君の……?


「去年の約束、覚えてねーの?」


セナ君こそ……忘れてたんじゃなかったの……?


「あのキーリングについてんの、家の鍵だから。あとで住所送るわ」

「え……っと……何時くらいに行けばいいのかな……?」


目の前のセナ君を直視できなくて、思わず視線を泳がせる。


「あー、わりぃけど適当に先に家で待ってて」

「えっ……でも……」

「どんくらい待たせるかわかんねーし、外暑いしさ。あと、こういう日は週刊誌も張ってるし」


……ああ、芸能人って本当に大変なんだなって思う。

この前のセナ君の誕生日のときも、そんなことを思ったっけ。


「ちゃんとタクシーで来いよ」


そう言って何事もなかったかのようにステージに戻るセナ君を、私は黙ったまま見送った。




あの日と同じ、東京ドームの天井を見上げる。

静かに息を整えて、私は“この瞬間”を心に刻んでいた。


会場が暗転し、無数のペンライトが星空のように瞬く。

胸が高鳴る。だけどそれは、不安じゃない。


期待と、誇り。


……オープニングが鳴り響く。

メンバーが登場すると、ドーム全体が一気に沸騰した。

昨日とは明らかに空気が違う。観客も、スタッフも、彼ら自身も。


椿さんはまっすぐに前を見据え、怜央さんも信さんも、みんなが同じ方向を見ていた。


「昨日までの自分を、越えっぞ!!!!」


その言葉にドームが一段と熱を帯びる。

気迫と音圧が波のように押し寄せてくる。


椿さんの煽りに客席が応え、怜央さんのキメで銀テープが打ち上がり、信さんの歌う静かなバラードに、隣の女性がそっと涙をぬぐう。


……昨日だって全力だったのに。

それなのに、今日の彼らはさらにその上をいっていた。


迷いのない動き。揃ったダンス。

コーラスの正確さと、“魅せる”ことへの意志。


最後の曲が終わり照明が落ちる。

けれど観客の手拍子は止まらない。アンコールの波がドームを包む。


再び登場した彼らがマイクを手に静かに語る。


「東京ドーム、2日間。ありがとうございました」


歓声の中で、椿さんが少し笑って続けた。


「去年、俺たちは初めてこの東京ドームに立ちました。

その景色をまたこうして今年も見られるなんて、夢みたいです。

でも、ここに立ち続けられるのは、支えてくれたすべての人たちのおかげです」


マイクを置き、みんなで手を繋ぐ。


「「「「「「「ありがとうございましたぁぁぁぁあ!!!」」」」」」」


その声が、どこまでも響いていた。


昨日よりもきっと、もっと疲れているはずなのに。

その言葉は、昨日以上に大きく、東京ドーム全体に響いた。


大きく一礼したその姿には余計な演出なんてひとつもなくて。

ただただ、真っ直ぐな“感謝”だけが滲んでいた。


誰もがこの瞬間を忘れたくないと願い、客席からは惜しみない拍手と歓声が降り注いだ。


……ラストの曲が始まる。


照明が切り替わり、銀テープが舞う中。

セナ君は前を、もっと遠くを、ずっとその先を見つめていた。

あの瞳に映っていたのは、“次の景色”。……きっと未来だった。


熱気と余韻の残るステージを背に、私はそっと胸元のパスを握りしめ、会場を後にする。

最後まで読んでいただきありがとうございました!


もし少しでも気になってもらえたら、フォローやお気に入りしていただけると励みになります。


最終話「Éternité」は【明日夜】に更新予定です!


ぜひまた覗きに来てくださいね!

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