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第5話「金欠?じゃあ、サッと仕事するか」

 朝日が差し込む頃、ミロードは薄い財布を手にして、深いため息をつく。


 いつものように昨夜も娼館で大いに飲み、今朝の支払いを済ませたら、残った金はほんの少しだった。




「はあ……また金が底をついたか。やっぱり俺には貯金なんて向いてねぇな」




 呟きつつも、そこまで慌てる様子はない。いつも通りのことだ。財布が空になったらダンジョンに潜るなり、討伐依頼をこなすなりして稼げばいいだけ――ミロードの生き方は相変わらずだ。




 そんな折、宿を出てすぐのところで知り合いの冒険者ギルド職員、背の高いエルフの青年ライラとばったり出会う。ライラは手には大量の書類を抱えていて、忙しそうにしていた。




「おはよう、ミロード。ちょうどよかった。実はさ、最近近郊の街道沿いで正体不明の魔物が出て、被害が出てるんだ。ギルドも討伐隊を編成してるんだけど……引き受けてくれないかな?」


「正体不明の魔物ねえ。最近そんな話を小耳にはさんだ気もするが……」




 街道を行き交う商隊や旅人が襲われているらしく、かなりの被害になっているらしい。すでにベテランの冒険者たちが何度か挑んだが、全員手傷を負って撤退を余儀なくされたという。




「でも、ミロードは超一流の実力者だろ? ほら、報酬もそれなりに弾むって話だし……。今、他の依頼にも影響が出てて、人手不足なんだよ。手伝ってくれたら助かるんだけどなあ」


「報酬を弾む、か……」




 ミロードは考え込むフリをしながらも、実際は即決だった。ちょうど金が尽きかけているところだ。しかも“そこそこヤバい魔物”なら、そいつの魔硝石は大きく期待できそうだ。


 だが、あまり大っぴらに名を知られるのも面倒だ。最近、ダンジョン攻略の噂が広まってきているらしく、普通の冒険者ではないのかも知らないと囁かれる場面も増えてきた。




「しゃあねぇな。引き受けてやるか。ただし――俺は出来るだけ目立ちたくねえんだ。依頼を受けるにしても、正体は伏せさせてくれ。軽く変装して行くわ」




 ライラは目を瞬かせ、少し戸惑いながらもうなずいた。


「わかった。あんまり噂に巻き込まれたくないってことだよな。なら、こっちも“協力してくれた匿名の冒険者”くらいで報告しとくよ」




「助かる。……じゃ、早速行ってくるわ」




 討伐対象の魔物が出没しているのは、リント王国の外れにある峠付近の街道だ。ミロードはギルドの倉庫から適当に借り出した黒いローブと目深に被るフード、それに布マスクを身につけて、即席の変装を整えた。




「ふう……こんなんでバレねえなら楽だけどな」




 そう呟きながら街道を進むと、遠くから焦げ臭い匂いと獣のうなり声が風に乗って漂ってくる。どうやら目当ての魔物は、すぐ近くのようだ。


 周囲には数名の冒険者が残っているが、皆、重傷を負って地面に伏していたり、治療の手が回らずに退避しようとしている。




「あ、あんたは……!?まさか……」


 


 (まさか?変装しても無駄だったか?)




 見たことのない黒装束の男の登場に、動揺した声が飛ぶ。ミロードはわざと低く抑えた声で、そっけなく応じた。




「と、通りすがりの冒険者だ。手助けしようと思ってな。……それより、無理しないほうがいいぜ」




 苦しそうな表情でうずくまる冒険者を横目に、峠のほうへと急ぎ足で向かう。すると、視界の先に巨大な四足の獣が見えた。鋭い爪に黒い毛並み、そして口からは青白い炎を吐き出している。


 まるで熊と狼が混ざったような姿の魔物は、倒れた馬車を踏みつけ、唸り声を上げていた。




「さて、正体不明の魔物ってのはこいつか……。なるほど、中途半端に知恵がありそうだな」




 荷物をあさろうとしていたのか、魔物は人間の存在に気づき、ギロリと赤い目を向ける。喉の奥からゴロゴロと響く獣の低いうなり声が辺りに充満した。


 しかし、ミロードは肩をすくめるだけで臆する様子はない。黒いフードの下で、冷ややかな笑みを浮かべる。




「魔物退治に来たが……さて、さっさと終わらせるか。たまには“火”でも使っとくかね」




 呟いた瞬間、彼の周囲の空気が熱を帯び始める。通常なら詠唱や魔法陣が必要な大魔法を、あっさりと片手の動きだけで発動するのは、ミロードの圧倒的な魔力量と技術が成せる業だ。


 獣が驚いたように一瞬身を引いたが、その隙を逃さず、彼は手のひらを前方に突き出す。




「《爆炎槍フレイムランス》──」




 その呼び声とともに、生温い風が一気に灼熱の炎へと変化し、強烈な火柱が一直線に獣へ襲いかかる。森を焦がすほどの火力が、あっという間に獣の毛並みを焼き払い、凄まじい悲鳴を上げさせた。


 火炎を纏った獣が転げ回りながら耐えようとするが、火の勢いは衰えない。さらに重力魔法で動きを封じられ、なすすべなく地に伏せたところへ、止めの一撃としてもう一度炎が集中砲火を浴びせる。




「悪いが、死んでもらうぜ」




 その言葉を最後に、獣は大きく痙攣したのち、動かなくなった。静寂が戻った街道に、焦げついた毛の匂いと、魔物の焼け跡が立ちこめる。




「ふう……やりすぎたか? まあいいか、周りに火が燃え移ってないだけマシだろ」




 煙の合間を縫って、ミロードは獣の死骸に近づくと、慣れた手つきで魔硝石を探し出す。案の定、かなり大きめの石が出てきた。




「こりゃ、思った以上の収穫だな。ギルドの報酬も合わせりゃ、しばらく遊んで暮らせそうだ」




 ポンと手のひらで魔硝石を転がしながら、ポケットに仕舞い込む。そして、周囲で様子を見守っていた冒険者や商人たちが、呆然とした表情で近づいてくるのを視界の隅で捉えた。




「あなた……いったい何者……?」


「す、すごい……あれだけ手こずったのに、瞬殺じゃないか……」




(おぉ、バレてないようだ)


 すっかりヒーローを見るような目つきで集まってくる人々。だがミロードは渋い顔をして、フードを深く被り直す。




「名乗るほどの者じゃねえよ。ただの通りすがりさ。……悪いが報酬はギルドに送ってくれ。じゃあな」




 人々の驚きや感謝の言葉を背に、そそくさとその場を離れる。下手に粘られて正体がバレると面倒だ。


 街へ戻る道中、ミロードはふと思い出す。ギルド職員ライラには「匿名で処理してくれ」と言ったが、こんな派手な魔法を見せてしまっては、いずれ噂がまた広まるに違いない。




「ま、どうせ“正体不明の黒マントの冒険者”とかそんな感じの伝説が増えるだけだろ。金さえ手に入ればどうでもいいさ」




 相変わらず、深く考えてはいない。大切なのは「今を楽しむための金」だけ。


 またもし財布が寂しくなれば、こうして稼ぎに出ればいい。そうやって“その日を生きるために”動いているだけ――だが、そんな自分の生き方を、ミロードはけっこう気に入っていた。




 ――新たな金が手に入り、すっかり気分も上向き。さて、今夜はどこで飲んで、誰と過ごそうか。ミロードの足取りは軽やかに街へと続くのだった。

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