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第20話「猿人どもを蹴散らすぞ!

まだ薄暗さの残る朝。ソルゾーから半日ほど馬車で揺られた末、ミロードとモーリスはシリアン遺跡の近くまでたどり着いた。




 雑木林を抜け、石段を上っていくと、苔に覆われた大きな門が姿を現す。ひび割れた壁面に、古い神殿の名残を示す彫刻がうっすらと残っているが、今はもうただの廃墟同然。ここが“猿王”の巣食う遺跡だという。




「なるほど……長い年月放置されてる感じだな。気を抜くと床が抜けそうだ」




「崩落も怖いが、罠もありそうだ。猿人がうろついてる可能性も高いから、バリアはいつでも張れるようにしておくよ」




 モーリスがそう言い、背負っていた杖を握り直す。防御結界の魔力が静かに周囲に広がっているのを感じた。


 一方、ミロードは手のひらでそれぞれの魔法の起動を確かめつつ、指輪へ念話を飛ばす。




「よし、カリン。もし大きな乱戦になったら手を貸してくれよ」


『承知しました、ミロ様。いつでも私を呼び出してください』




 カリンはグランドユニコーンの力を秘めており、指輪の中から出現すれば、強力な角と魔力で大きく戦況を変えられる。


 そう考えながら奥へ進むと、やはり警戒した通り――どこかからカサリと音がして、細長い影が飛び出してきた。





 突如として天井の梁から降りかかったのは、灰色の毛に覆われた猿のような亜人。鋭い牙をむき、棒切れや石斧を振りかざして襲いかかる。


 彼ら猿人エイプマンは十数体で群れをなして、ギャアギャアと喚きながら二人を取り囲んだ。




「やっぱりな……数が多いな、モーリス!」


「任せろ。《バリア・エクステンド》!」




 モーリスが杖を突き立てると、薄緑色の結界が彼らをすっぽり覆う。すかさず猿人たちの武器がバリアに叩きつけられるが、跳ね返されて地面に落ちる。


 一瞬ひるんだところを、ミロードがこの機を逃さず動いた。




「反撃といくか──《風刃烈波ウィンド・スライサー》!」




 手先にためた風魔法を一気に放ち、鋭い風の刃を猿人たちに浴びせる。何体かは壁際へ吹き飛ばされ、呻き声とともに動かなくなった。


 残る猿人は動じずに奇声を上げながら再び襲ってくるが、モーリスが結界の形を自在に変化させて攻撃を封じ、合間を縫って魔法弓(バリアを矢のように使う攻撃)で猿人を撃ち抜いていく。




「やるじゃねえか。じゃ、俺も火魔法で追撃するぜ」


「こっちも慣れてきた。防御に加えて、ある程度の攻撃魔法は撃てるからな」




 ミロードはすかさず炎の魔力を引き込み、火球を連発。《フレイムショット》の高熱が通路を赤く照らし、猿人たちをまとめて焼き払う。毛皮が焦げる臭いがあたりに立ちこめるが、残った敵もいるようだ。


 何体かの猿人は天井裏から梯子のようにつたい、上空から投石を降らせてくる。モーリスは結界で弾きながらも、一つひとつを対処するのに手いっぱいだ。




「くそ、上のほうが煩わしいな……。カリン、出番だ!」




 ミロードが指輪を掲げると、そこから淡く光る緑色のオーラが漂い、グランドユニコーン・カリンが姿を現す。気高い角と四肢を持つ彼女が嘶き(いななき)を上げると、その身体を取り巻く霊気が猿人たちの動きを一瞬ひるませた。




『ミロ様、上空の敵を掃討しますね』


「ああ、頼む!」




 カリンは軽やかに跳躍し、天井付近に這いつくばっていた猿人へ突撃。蹄と角で次々に叩き落とし、無力化していく。


 まだ抵抗する者もいたが、反重力の魔力を帯びたカリンの脚力と、突進時の稲光のような魔力放出で太刀打ちできるはずもない。




 さらに奥へ進んだところで、広めの石造りの部屋に出る。高い柱の間に人影が見え、どうやらそこには数人の女性が捕らえられているようだ。縄や鉄の輪っかで拘束されており、表情は恐怖と疲労に彩られている。




「……っ、助けて……! 怖い……」




「大丈夫だ、もう猿人は蹴散らした。今すぐ縄を解いてやるよ」




 モーリスがバリアを展開しつつ、慎重に近づいて解放を始める。ミロードは周囲の警戒を続け、カリンも奥の通路を睨んでいる。


 猿人はおおむね撃破したはずだが、この遺跡に棲むリーダー――猿王の姿はまだ見えない。二人が口をつぐんだ瞬間、遠くから重々しい足音が響いてきた。






 ごうん、ごうん、と空気を揺るがすような振動。石の床を踏みしめながら、巨大な影が部屋へと姿を現す。




 猿人たちとは比べものにならないほどの体躯、筋肉の塊のような腕、異様な光を放つ金色の瞳――そして、手には棍棒のような巨大な武器を抱え込んでいる。




「で、でかい……あれが猿王か?」


 モーリスが息を呑むのも無理はない。人間の二倍ほどもあるその姿は、ただ立っているだけで周囲を圧する威圧感がある。


 女性たちを解放しかけたところで、どうにか身を隠そうとするが、猿王は既に察知しているようだ。低く唸り声を上げ、巨体からみなぎる殺気を放ち始める。




「ここはカリンと俺で食い止める……モーリス、お前は人質を安全な場所へ!」


「わ、わかった。……頼むぞ、ミロード!」




 女性たちは怯えたまま立ちすくんでいるが、モーリスの保護魔法が展開され、移動を補助してくれる。


 一方、ミロードとカリンは猿王に対峙する形で距離をとる。猿王は棍棒を地面に叩きつけ、床が振動して砂埃が上がった。




「来るか……猿王め、見た目通りの怪力ってわけか。こりゃやりごたえがありそうだな」




『ご命令を、ミロ様。私も力を惜しみなく使います』




 剣呑な空気が部屋を包み込み、あちらこちらに散乱している瓦礫や骨、猿人の残骸すら緊張を煽る。


 こうして、ミロードたちはついに宿敵たる猿王と相まみえることになった。人質の安全を確保した今、思う存分戦える状況だ。


 だが、その異形の魔物から伝わる魔力は並々ならぬもの。下手をすればこちらが逆襲される危険もある。


果たして、勝負の結末は。

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