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第16話「伝説級のダンジョンか、、半分潜れば充分だろ」

サークイン王国へ向かう長い街道を行く道中、ミロードとモーリスの足は思いのほか軽かった。先日のリント王国での再会以降、共に行動するのは懐かしくも新鮮で、互いにどこか落ち着くものがあるのだろう。


 カリンも指輪の中で「お二人が並んで歩くのを見ると、昔の仲間との旅を思い出しますね」とほんのりとした感想を述べている。




「……それにしても、ここら一帯はダンジョンが多いって噂だが。俺たち、変に寄り道しすぎないようにしろよ、モーリス」


 ミロードが苦笑まじりに言うと、モーリスは少し顔をほころばせる。


「はは、そうだな。まあ……でも手頃なダンジョンがあれば、懐を膨らませておくのも悪くない。守り一辺倒じゃ生活費は稼げないしね」




 冗談とも本気ともつかない掛け合いを交わしながら歩いていると、通りすがりの旅人からこんな情報を仕入れる。


 「道の途中に、三十五年ものあいだ未攻略のダンジョンがある」


 かつて王国やギルドが何度も攻略を試みたが、どうにも途中で断念してしまうらしい。デザインや構造が複雑すぎるのと、一部フロアのモンスターが異常に強力なのが原因だとか。




「三十五年も攻略されてないってことは、そもそも誰も最後まで行けなかったわけか。確かに冗談抜きで危険そうだな」


「……ちょっと興味あるな。こういう“長年放置”のダンジョンには、レアなアイテムも眠ってるかもしれない」




 結局、二人は“ちょっとだけ”と念を押して、ふらりとそのダンジョンへ立ち寄ることにした。サークイン王国まで急ぐつもりだったが、旅慣れした冒険者にとっては、こういう寄り道こそ醍醐味なのだ。





 夕方近く。街道を外れた先にある鬱蒼とした森林地帯の奥に、そのダンジョンはひっそりと口を開いていた。


 入り口の周辺は白い霧に包まれ、地面には不気味な文様が刻まれた石柱が立っている。かつての冒険者が残していったと思しき古びた看板には「王道の迷宮・入口」と雑に書かれていた。




「見た感じ、ただの洞窟って感じでもないな。石畳もあるし、昔の神殿か何かを流用してるのか」


「気をつけろよ、モーリス。お前の結界やバリアで守りは万全だろうが、罠がどんなのかわからん」




 冷たい空気が体を包む中、二人は慎重に足を踏み入れた。


 そして、すぐに中の広い空間に出る。石造りの通路や部屋が連なるような構造で、ところどころ壁に残る古代文字や装飾が目を引く。


 普通の冒険者なら、ここで入念に準備や探索をするところだが、ミロードとモーリスは長年の経験と感覚頼みで突き進む。もっとも、「最後まで行く気は毛頭ない」というスタンスだ。





 いくら強いとはいえ、二人だけで三十五年未攻略のダンジョンを踏破するのは無謀に近い。特に食料やポーションの備蓄も多くはない。


 それでも、ある程度奥へ進んで金目のものを回収するくらいは余裕だろう――そう確信させるのが、彼らの実力だ。


 案の定、途中で現れるゴーレムや幽霊騎士のような魔物も、モーリスの防御魔法とミロードの攻撃魔法の合わせ技であっさり撃破されていく。




「くっ……昔はリーダーを含め、5人で動いてたからもっと楽だったけどな。今は二人か」


「はは、でも十分やれてるじゃねえか。あんときの連携が体に染みついてんだろうさ」




 モーリスは前衛の冒険者を守るかのように、広域バリアを展開。魔法に弱いゴーレムの岩石弾を受け止めながら、ミロードが重力魔法や火魔法で反撃して粉砕する。


 まるで昔のパーティ編成を思い出すかのように、二人の動きは流れるように噛み合っている。





 幾度かの戦闘の末、ある程度フロアを進んだ二人は、大きめの宝箱を発見。中にはそこそこ珍しい魔道書の切れ端や、中~小サイズの魔硝石が数個入っていた。


 さらに通路を曲がった先の小部屋でも、細かな宝石や銀貨が散らばった箱を見つける。


 収穫としては十分すぎる。おまけに、まだ余力を残しているとはいえ、情報どおり先に行くほど危険度が増すのは確実。


 さすがに無装備で最深部まで行くのは本意ではない――二人とも、そこは同じ考えだった。




「よし、このへんで切り上げよう。これだけあれば宿代や生活費くらい余裕だろうしな」


「そうだな、欲をかいて深追いするのは得策じゃない。いつか万全の準備で来るならともかく……今は十分稼いだよ」




 昨日今日で強化したわけでもない装備、それに時間もそんなにかける気がない。そもそもメイン目的はモーリスの婚活であって、ダンジョン探索ではないのだ。





 エンチャントが残る扉を一つ乗り越えた先で、地上へ戻る別の通路を発見し、二人はそこから脱出する。地上に出れば、すでに太陽は傾き始め、薄い夕焼けが森の木々を照らしていた。


 ほんの数時間の探索だったが、そこそこの金銭と素材が手に入り、しかも派手に怪我することもなかった。


 モーリスは防御魔法を解きながら、肩を回して小さく笑う。




「……やっぱりミロードと一緒の冒険は調子が出るな。懐かしいよ」


「はは、俺も割と懐かしかったさ。昔は5人でワイワイやってたっけな。……ま、あいつらは今頃、新興国でバタバタだろうが」




 久々の連携で魔物を蹴散らす感覚。かつての英雄パーティの名残が胸をくすぐるが、彼らは今やそれぞれの道を歩んでいる。そう実感しながらも、二人は微笑みを交わした。





「さて、サークイン王国へはもう少し先か。今日手に入れた宝で宿代には困らねえし、飯もいいもん食えそうだ」


「そうだな。ありがたい収穫だった。……カリンさんもお疲れさまだ。お陰で楽に戦えたよ」


 モーリスが指輪に向かって微笑むと、カリンが念話で控えめに返す。


『いえ、ミロ様とモーリスさんの連携が素晴らしかったので、私は支援の魔力を少し送っただけです。お役に立てたのならよかった』




 こうして、予想外の“小遣い稼ぎ”に成功した二人は、道中で拾った銀貨や宝石を軽く分配しあいながら、森を抜けて本来の目的地へと再び歩み始める。


 明日の夜にはサークイン王国の城下町に着くだろう。そこからモーリスの婚活がどう転がるかは、まだ未知数だ。


 いずれにせよ、昔を思い出すような探索を終えて、ちょっと気が晴れた様子の二人。それぞれの心の奥には、今なお“冒険者”だった頃の熱が宿っているのかもしれない。




「じゃあ行くか。腹も減ったし、途中で夕飯が食えそうな村があるといいが」


「そこは相変わらず放浪スタイルだな。俺も少し慣れてきたよ」


「はは、俺に合わせりゃいいんだよ。モーリス、お前は守りだけじゃなく、飯屋の情報も頼むぞ。なんせ、お前は婚活中なんだからな」


「……なんの関係があるんだ、それと!」




 そんな軽口を叩き合いながら、風に吹かれつつ街道を歩むシルエット。賑やかなサークインの街へ向け出発した。

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