第93話 そして俺は流れる様に土下座した
「大丈夫だよ。仮にも四つ星ダンジョンアタッカーだ。あの程度で死にはしないさ」
「そ、そうなんですか?」
“あの、程度……?”
“貴方達トップ層のダンジョンアタッカーの基準と我々を比べないでもろて……”
“あんなの喰らったら身体どころか心もぐちゃぐちゃにされるわ”
“生きてはいるんだろうけど生きてるだけになりそう”
“もう二度とダンジョンアタック出来ないだろ”
俺がオロオロしている間に、伽藍堂さんが相手を壁から救出して、いつの間にか呼ばれていた救護隊によって運ばれていった。
その時の彼の姿は……うん、ちょっとね……マナドローン君に自動モザイク機能あって良かったねって事で……。
「あの、ありがとうございました伽藍堂さん」
「どういたしまして。壁の修理費用も、彼の治療費に上乗せして請求するから気にしないで良いよ。それよりも、彼の乱入のせいで時間が無くなってしまったね。確か、DAGの撮影は時間が決まってる筈だけど……」
「ああ、もう五分程しかない。だから、そろそろ切り上げなければならないね」
“短っ!”
“まあ1Fと地下観れただけでも面白かったよ”
“出来れば武器屋とか見たい”
“食堂のメニュー見せてくれー”
“武器屋はマジで気になるOWもう売ってんの?”
“OWは完全受注生産予定らしいぞ”
そうなのか。まあ普段は撮影禁止だし、許可が降りただけでも凄いんだよな。許可を取ってくれた先輩や、施設の説明をしてくれた伽藍堂さんに感謝しないと。
「えー、それじゃあ今日の配信はここまで!他の施設が気になる人は、是非いっしょにダンジョンアタッカーになりましょう」
「DAGはいつでも、貴方達をお待ちしております」
“ひええ顔が良い”
“マジで顔面偏差値高過ぎる配信だな”
“でもシスコンなんだよな…”
“クレイジーサイコシスコンじゃなければオチてた”
“顔が良すぎるのにシスコンというだけで大減点されるの草”
伽藍堂さんが便乗して、勧誘の誘いをしてくれる。ホントにありがたいなぁ、スレ民の皆さんは彼のシスコンという本性を知っているせいで反応がアレだけど。
「伽藍堂さん、今日は忙しい……忙しい?俺を拉致しかけてましたけど。まあ良いや、今日は施設の紹介をしてくれてありがとうございました。先輩も、前回と続けて助けてくれてありがとうございました」
“正気に戻るなww”
“まあ元々スイッチ◯しに来たんだから暇なんか?って思うのは分かる”
“そう考えたらよく好感度マイナスから数時間でここまで稼いだな”
“妹の方は…”
“シッ喋るな”
“未だに好感度高い理由分かってねえんだから黙ってろ”
「どういたしまして。今日は珍しい体験が出来て、僕も楽しかったよ。わざわざ時間を作って会いに来て良かったよ」
「気にしないでくれ。元々はこの屑が悪いんだ。それに私も、君の元気な姿を見る事が出来て嬉しかったしね」
二人共、嫌な顔をせずに応えてくれる。伽藍堂さん達は美男美女だから、二人が笑顔で並ぶとその周囲が浄化されていく様に光り輝いて見える。
東城に着いていきなりとんでもない目にあったけど、伽藍堂さんと友達になれたし、俺の実力を示すことも出来た。結果的には、悪くない出だしと言えるんじゃないだろうか(自ら突っ込んできた犠牲者から目を逸らしながら)。
「では皆さん、観てくれてありがとうございました。またーー」
「すまない。スイッチ君がいると聞いて来たのだが、今大丈夫だろうか」
俺はまだ夢を見ているのかと、他人事の様に思考が飛んでしまった。
フィールドホールに入って来たその男性は、黒い髪を短く刈りそろえている。俺を見つめる黒い瞳は柔らかい笑みと共に細められ、警戒をさせない様にゆっくりとこちらに近づいて来る。
“ふぁっ!?”
“嘘だろ!?”
“リーダー!?何してんすか!”
“え?三鶴城礼司?マジで?”
“リーダー!!本物!?”
“三鶴城礼司だあああああああ”
伽藍堂さんが国内最強のダンジョンアタッカーなら、彼は国内最高のダンジョンアタッカーと言えるだろう。
ダンジョンアタッカーが国内でブームとなる火付け役となった人物であり、二つ名という制度を作るに至った傑物であり、今のDAGはこの人無くしては語れないとまで言われる、伽藍堂結城と並ぶ生ける伝説なのだから。
そのエクストラスキルは、紛れもなく唯一無二。効果は、自分を信じる者が多い程、自分と仲間達を無制限に強くするというもの。そしてそのスキル故に、DAGで初めて二つ名を貰うに至った、国内最高戦力の一人。
「伽藍堂さん達もいたのか。こんにちは」
「お久しぶりです。三鶴城さん」
「……どうも」
『勇者』三鶴城礼司その人が、俺の目の前にいた。
伽藍堂さん達が居住まいを正し、近くで気配を消していた羽場さんも会釈している。それを見て、俺も緩んでいた精神が引き締まっていく。
「初めまして、スイッチ君。私は、三鶴城礼司と言います」
「あ、はい……初めまして、スイッチと言います。あ、すいません今配信中で……」
「そうだったのか、突然邪魔してしまって申し訳ない。君が東城に来ていたと知り、気が逸ってしまった」
「いえいえ、こちらこそ…………ん?」
三鶴城さんの会話に違和感を覚える。そして、背中から嫌な汗が噴き出す。
この人、さっき変な事言わなかったか?スイッチって俺のムーブでの名前だよな?俺が配信中なのにも驚いてないし、そういえば『スイッチ』を探してここに……え?俺?まさか……いやいやいや。国内最強のパーティ『至強』のリーダーだぞ?こんな新人の配信なんか観て……観て……。
“スイッチ知ってるの!?”
“リーダーは自分のパーティ以外の新人もちゃんと見てるからな”
“いや名前呼びじゃなくてスイッチ呼びしてたが?”
“もしや配信観てらっしゃる?”
“え?あの三鶴城・BOT・礼司ってまさか本物だったとか?”
“至強のリーダー様がコメントでbotになるわけないやんwww”
スレ民も何かに気付き始めている。
嫌な予感しかしないが、これだけは確かめなければ……!
「あの、すいません。俺の勘違いだと思うんですけど、もしかして俺の配信でコメントなんてしてくれたr」
「ああ。君とコメントの皆との会話は、いつも楽しませてもらっている。最初は同じ文章ばかり打ってすまなかった。ああいうのは荒らし行為だと、仲間に注意されてしまった。すまない」
「ああいえ違うんですこちらこそBOTなんて言ってすいません本物だと思ってなくて調子乗ってしまいましたけど最初に言い出したのは俺じゃなくてスレ民であって俺は便乗しただけで別に何も悪口とか言って無いんですだから悪いのはスレ民なので俺は違うんです」
“botとか言ってすいまえんでした”
“躊躇なくワイらを売るやん”
“乗っかったお前も悪いだろ!”
“(罪を)認知して早く”
“連帯責任って知ってるぅ!?”
“責任逃れの言い訳はスラスラ出てくるなw”
“なんて醜い争いなんだ…”




