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【書籍1巻発売中!】スレ主がダンジョンアタックする話  作者: ゲスト047562


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第86話 共通項を持つ者

「ギャラリーが増えてきたね。車を用意してあるから、ひとまず場所を移動しないか?」


「えっ」


「……随分用意周到だな?ちゃんとDAGに着けば良いが」


「ふふ。君がいるのに、変な真似は出来ないさ。さあ、行こうか」


「えっえっ」


あれよあれよという間に、ズルズルと流されリムジンの中へ。そして音も無くリムジンが発進し、今に至る。うん、全然意味が分からないね。


おおおおおつチケ。状況を整理してみよう。まず俺が東城で待ち合わせをしていた人。それは羽場焔那さんだろう。羽場さんに子供がいる事は、羽場家に居候させていただいている時に何となく気付いていた。奥さんと二人で生活しているのに、綺麗に掃除された空き部屋が一つあったから。唯、羽場さんの口から子供の話題が出たことが無かったし、特に触れる機会も無かったから、完全に失念していた。でも羽場さん、娘さんが迎えに来るって知ってたなら教えてくれても良かったんじゃないですかね。何で教えてくれなかったんだ?


次、伽藍堂結城さん。

……………どうしよう!?ホントに何も分からない!!滅茶苦茶凄い人で、先輩のお兄さんって情報しか持ってないから、何で殺害予告されたのか全く理解出来ないんですけど!?俺貴方に何かしましたか!?


スレ民の皆ー、助けてくれー…。


「戸張君」


「ハイッ?」


現実逃避を続けていたら、伽藍堂さんが口を開いた。相変わらず穏やかな笑みを浮かべてはいるが、その三日月が今は死神の鎌にしか見えない。


「君は、吸魔の墓で僕の妹……叶と一緒に、ダンジョンアタックをした。そうだね?」


「え、ぁ……はい。励ましてもらったり、勉強させていただいたり、色々助けていただきました。とても感謝して」


「殺す」


「ナンデェッ!!?」


いきなり過程をすっ飛ばさないで欲しいんですけど!?羽場さんも、気持ち悪いモノを見る様な目で伽藍堂さんを見ていますよ!


「僕はね、幼い頃から叶と一緒だった」


「はぁ……」


「小さい頃から、妹は汚い男達の格好の的でね。僕は、妹を汚い大人達からずっと守ってきたんだ」


「……凄いですね」


「だから、妹に近付く害虫には容赦しないようにしているんだ」


ズズズ……と伽藍堂さんの周囲の空間が歪んでいく。表情が認識出来ない程の暗黒が顔を覆う。それに比例して、俺に放たれる殺意も強くなっていく。


「叶は昔から、人前に出る事を嫌っていた。だというのに、ムーブで君の配信に顔を出している上に、とても可愛い笑顔を振り撒いているじゃないか。僕は目を疑ったよ」


「え、あー……いやぁ…」


人前に出る事を嫌う?先輩が?凄い親しみやすくて、ムーブにも快く出て下さったんですけど。

……いや。そういえば、メディアやDAGの資料に伽藍堂さんの名前や写真は沢山出てたけど、先輩の情報は殆ど無かったな。可憐な容姿と凄まじい才能を併せ持つ銀星ダンジョンアタッカーなのに、伽藍堂さんや三鶴城礼司さんと比べて、目に見える範囲には彼女の写真はおろか、名前さえ出ているのは稀だった。


まさか、伽藍堂さんがメディアに出てたのって、先輩に注目が行かない様にする為……?


「人付き合いが苦手な妹が、たかが一配信者でしかない君にあんな執着をする筈がない。君が、何かしたんだろう?でなければあんな態度あり得ない」


「いや、あの……俺、ホントに何も」


「ハッ、要するに嫉妬だろ」


凍える空気を破る様に、羽場さんが馬鹿にするかのように鼻で笑う。その態度に、伽藍堂さんの殺気が羽場さんにも向かう。目線が交錯しあい、火花が散るのが見えるようだ。

止めて!俺を置いて争わないで!?


「……どういう事かな」


「アイドルのファン心理と一緒だろ。偶然見た相手が、心の何処かの琴線に触れ目が離せなくなる。そして共に成長を感じていく程、距離の近い家族の様な優越感に浸るほどのファンになる。どこにでも転がっている話だ」


「まさか、叶もそうだと?彼はたかだが数回しか実績の無い配信者だよ?」


「経緯など関係無い。そのたかだが数回の配信で、そこの男は多くの人間の心を掴んだようだからな。人の心が理解出来ない貴様には分からんだろうが」


凄まじい舌戦が繰り広げられる。自分の事なのに、身を縮めて二人の会話を聞いている事しか出来ない。

それにしても、伽藍堂さんに対する羽場さんのこの敵意は何なんだ?単なるライバル心とかじゃ無い、憎しみにも似たものを感じる。


「まさか、国どころか世界でも最強の一角を争うダンジョンアタッカーが、こんなイかれたシスコンだったとは。周囲が知ればどんな反応をするのか楽しみだ」


「有象無象の声など、最初から歯牙にもかけないさ。それに、家族を愛する事の何が駄目なんだい?」










ドクン、と心臓が跳ねた。

彼は俺の配信を観てくれていた。俺がどういう存在なのかも知っているだろう。彼からしてみれば俺は、よく分からない完全な異端者だ。そんな突然現れた得体の知れない相手が、大事な家族と仲良くしていたら、誰だっておかしいと思うに決まっている。ましてや、本人が望まない形で従わせているのでは、なんて勘繰ってしまえば、怒るなという方が無理だろう。


俺がそう感じているのだ。伽藍堂さんだって同じか、それ以上に怒るのは当たり前じゃないか。

きっと、妹の為にここまで怒れる伽藍堂さんも、他の人とは形や表現の仕方が違うだけで、家族に対する思いは俺と同じなんだ。


「……伽藍堂さん」


「ん?」


「俺は、伽藍堂さんの考えは正しいと思います。俺も家族が大切ですから、伽藍堂さんと同じ状況になったら多分……いや、絶対伽藍堂さんと似た事をします」


「………」


「君は……いや、すまない。続けて?」


俺の真剣さが伝わったのか、二人が舌戦を止めて俺を見る。場の空気が引き締まり、どちらも俺の次の言葉を待っている。


「さっきまでのやり取りで、伽藍堂さんが先輩……叶さんを大切に思っているのは凄い伝わりました。だから、その……」


「うん」


「……俺は殺されても文句は言いません。唯、俺は父さんと母さんに顔向け出来ない様な真似は断じてしていません。それだけは、どうか信じて下さい」


俺は、伽藍堂さんに深々と頭を下げた。

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