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スレ主がダンジョンアタックする話  作者: ゲスト047562


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第81話 伽藍堂結城の決意

伽藍堂結城という人間にとって、妹の伽藍堂叶は特別だった。


物心ついた頃、自分は他の子供とは違う事に気付いた。自分に見えている世界が、他の子達には見えていない。自分に備わっている能力が、他の人には無い。

自分より大きな人間に対してもそうだった。能力も才覚も、自分には遠く及ばない。子供を無理矢理大きくしたかの様な、小さな存在。身体以外で大きいのは、醜く肥え太らせた自尊心だけだった。


両親はどちらもダンジョンアタッカーの経験があり、将来はガーランドウェポンズという会社の舵取りを期待されている。この二人は、結城の目から見ても優秀な人間だった。





《《どうでも良い》》。


あくまでそれは《《周りと比較して》》という意味であり、結城は自分には彼等以上の才能がある事を、幼い頃から理解していた。両親でさえ、彼にしてみれば『養ってくれる他人』程度の認識しか持ち合わせていなかった。

幼年期特有の純粋さが欠けた少年。周囲の人間は、結城をまるで腫れ物に触るように扱っていた。しかし両親は、『ウチの子は他の子より個性的なだけ』と言い、甘やかすでなく、放任主義でもなく、周りの子達と同じ様に接してくれた。

態度の違いにさしたる興味は無かったが、自分の孤立と慢心を防いでくれる優秀な両親なのだなと、結城は感心していた。


『結城。貴方は今日からお兄ちゃんになるのよ』


彼の意識が変わったのは、新しい家族が出来た時だった。

母の腕の中で目を閉じる、自分より小さくか弱い命。母親に全幅の信頼を寄せ、無垢に甘えるその姿は、今まで見たどの生命体よりも愛くるしい。初めて目にする生き物に、結城は戸惑う事しか出来なかった。


『叶、結城お兄ちゃんが来たわよ。結城、叶に触ってみる?』


叶と呼ばれた少女の、僅かでも触れれば壊れてしまいそうな白い手を、恐る恐る指で突く。


ギュッ


『……ッ!?』


『ふふ、叶も結城お兄ちゃんが大好きーって』


思っていた以上の力で指を掴まれ、固まってしまう。母がクスリと微笑み、彼の髪を撫でるが、それ以上に握られている指に全ての神経を持っていかれる。


『おにいちゃん……』


『そうよ、結城もお兄ちゃんになったのよ』


個体名以外に自身を指す言葉など必要無かったが、何故だか「お兄ちゃん」という肩書きは胸にストンと落ち着いた。

握られた指先から感じる、確かな命の灯火。胸の奥から溢れる温かい何か。不思議と、それが『愛情』というモノだと理解出来た。今まで他者に興味の無かった結城が、初めて「家族」を認識した瞬間だった。






結城と叶は健やかに育ち、小学校に共に通う様になった。幼い頃から既に完成されていた姿の二人だったが、学校に通う年頃になると周りは結城を「天使」、叶を「妖精」の様だとこぞって絶賛する程の美貌へと変わっていた。


そんなある時、両親と共に祖父が主催のパーティーに出る事になった。

結城は、両親の社会的な地位もある為、この様な無駄に飾り立てた社交場が必要だと理解していた。そして、地位だけでなく容姿も整った子供が二人揃えば、醜い豚共が放って筈が無いだろう事も。


『結城君は頭が良いね。ウチの子はーー』


『伽藍堂さんのお子さんは、どちらも優秀ですね。特に結城君は、正に神童と言えるでしょう』


口々に持て囃し、おべっかを使い取り入ってこようとする大人を、妹を庇いながら結城は無感情に追い払う。結城にとっては、有象無象の態度や言動など5分後には忘れてしまう些事。だが、何もかも初体験だった叶には、自分より大きな人間達の気味の悪い圧力に耐えられなかった。


夜、結城が叶の部屋の前を通ると、扉の奥から微かに嗚咽と涙ぐむ声が聴こえた。


『叶っ!?』


『ヒグ……っおにぃちゃぁん……』


愛する妹は、声を押し殺して泣いていた。枕を抱きしめ、肩を震わせるその姿は、何かに怯えているようだった。

瞬間、結城の心にマグマの如く煮えたぎる熱が噴き出す。


『どうしたんだい?誰かに酷い事されたの?』


『……こあい』


『怖い?』


『おとなの人、こあぃい……!』


《《神童の妹》》に対する大人達の無遠慮な態度は、小さく、しかし確かに叶の心を幾度も傷付けていた。

叶とて、その天稟(てんぴん)は他の者を容易く凌駕しているだろう事は想像に難くない。だからと言って、心まで他人と隔絶した差を持っている訳では無かった。


それを見て、結城は怒りを覚えると共に少し安堵していた。

妹は自分と違って、化け物じみた子供ではないのだと。どこにでもいる、普通の女の子なのだと。

だったら自分が守りたい。大切な妹が、他よりも少し優秀なだけの普通の子でいられるように、『お兄ちゃん』が汚い豚共から妹を助けたい。


『大丈夫だよ、叶。もし今度、大人に囲まれても、お兄ちゃんが守ってやるからな』


『……ほんとう?』


『うん、本当だ。指切りする?』


涙で目を腫らす妹の手を握り、指切りをする。そして、彼女が眠るまで側で見守っていた結城の中から、先程の熱が更に湧き出してくる。


『絶対、何があっても、お兄ちゃんが守るからな』


安らかに眠る妹の顔を見ながら、結城は自分自身に言い聞かせるように呟く。

噴き出した想いは決意となって、結城のこれからを決定付ける事となった。











まるで、運命の様に。

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