第78話 【勉強会】ワイ将、新たな戦いの準備するwww【DAG】
“唐突に始まるやん”
“お前さぁ…告知しろ?”
“今回はホテルじゃないのか”
“何処だそこ”
数学……じゃない数Ⅰの教科書を机の上に広げ、ノートに問題を書き写す。教科書と睨めっこしながら、解き方を真似て式を作り、解く。
「えー………ん?これ合ってる?あ、スレ民の皆さんやっほーです。スイッチです」
マナドローンが俺を映しながら浮いているのを捉え、カメラにピースしながら手を振る。
“可愛いかよ”
“はー好き”
“何してんだ?”
“タイトルとやってる事のギャップで風邪引きそう”
“おっすおっす”
“ちゃんと勉強してんの偉いな”
「勉強しながらですいません。ホントは雑談枠で取りたかったんですけど、ギルマスから怒られたので、皆さんと喋りながらの勉強会になります」
ノートにペンを挟んで閉じ、顔を上げる。時間は17時。同接は2桁と少ないが、少しずつ数を伸ばしている。
……あ。スレとゼッターにリンク貼ってなかった。
「今からゼッターとスレにリンク貼りますねー。今はまだ暇なスレ民しか来てないから気楽ですね」
“は?”
“ぁあん?こちとら今から帰る所じゃい!”
“お前は全てのニートを敵に回したぞ”
“↑全然怖くなくて草”
“また分からせてやりてぇ…!”
「あはは、この前俺を慰めてくれなかった仕返しでーす。でもこんな風にバカみたいなノリに付き合ってくれる人って、今の俺の周りに誰もいないから、嬉しいんですよ?」
“あ、うん…”
“言葉の節々が重い”
“こいつスレ民の事好きすぎじゃね?”
“ほら、スイッチ同い年の人に飢えてるからさ…”
“精神年齢ガキみたいだって言いたいのかオラァン!”
「言ってませんけど?俺は皆さんと話せて楽しアッスイマセン勉強シマス」
DAGの支部員の人に『勉強しろ』とカンペで怒られてしまった。ノートを広げて、再び問題を解き始める。
えー…っと。これさっきと同じ奴で解くんだよな?中学から高校に上がるだけだと思ってたら、授業内容ってこんなに違うのか。
“www”
“草”
“人いるのか”
“マジで何処なんだよw”
“女だったらマズイですよ!”
「あ、ここはDAGの休憩室です。勉強の為にギルマスが貸してくれて……というか支部員さん大丈夫ですか?残業とか…あ、ちゃんと残業代は出るんですね」
医務室で起きて、羽場さんに滅茶苦茶怒られた後、ある高校の編入試験の書類を貰った。確かに、成り行き任せにダンジョンアタッカーとして活動してるけど、俺は16歳。まだ学生として遊んでも良い年齢と言われ、今更ながら学校の事を思い出した。
『D災で失われたものを少しでも多く取り戻したいなら、まずは学生として勉学に励むと良い。暫くは東城で暮らす事になるだろうしな』
そう言われて、少し考えた後に俺は頷く事にした。
ホントは、もう学校に未練なんて無かった。俺が勉強してたのは、良い学校に行って、良い就職先を見つけて、沢山お金を稼いで、家族と一緒に過ごす為だったのだから。その夢が潰えた時に、俺の学校への希望も消えてしまった。
それでも、また試験を受けて学校へ行こうと思ったのは……。
“winner:やぁ”
“ヒエ”
“でたああああああああああああ!?”
“伽藍堂シスター!?”
“うわでた”
羽場さんが、怖かったからです……!
医務室で滅茶苦茶怒られた後に『〇〇しないか?』って、それはもう『するよな?するって言え』っていう脅迫でしかないよ!?しかもあのヤクザ、大声で怒鳴るんじゃなくて理詰めで3時間も静かに怒るから、こっちはもうずっとハイしか言えないマシーンと化さなきゃ海に沈められるぐらいの気持ちでしたよ、ええ。
今回の学校の事だって、『くれぐれも観光気分で浮かれるなよ?』っていう釘を刺す名目なんだろうなぁ。《《DAGと政府が協力して作った学校》》らしいし、監視の意味も含まれてるんだろうな。やっぱりまだ信用されてないのかな、俺。
「……ん?あ、結構観にきてくれてます?挨拶しても良いですか?」
気付けば同接が1万程に増えていた。支部員さんがカンペでグーサインを出している。
というか支部員さん、何かノリノリじゃないです?俺の事ペットか何かと思ってらっしゃる?
“気付くのが遅い!”
“winner:そこにいるのは誰だい?”
“怖E”
“何が見えてんだ先輩には…”
“流せ流せ”
「えー、はい。スイッチでーす、皆さんやっほーです。この前の吸魔の墓の攻略を観てくれた人、ありがとうございました。先輩やあまにゃんさん、スレ民の皆さんのお陰で無事に終える事が出来ました。感謝してます」
“凄かったなぁ”
“切り抜きめっちゃ増えてて草なんだ”
“カッコ良かったよ”
“ガチ恋勢多数生まれたろうなぁ”
“winner:は?”
“ヤバ”
“オイオイオイ”
「あ、そうそう。その吸魔の墓なんですけど、何かモンスターも出るようになったんでしたっけ?それで今度、DAGが改めて調査するみたいです」
“マ?”
“お前が吸魔の墓の特性を逆に利用したからな”
“マナ殆ど空になったんだろw”
“マナの流れを掌握出来るのはヤバくねえか?”
「まあ皆さんともっと会話したいんですけどね……配信タイトル見てくれます?俺、学校に行く為に、試験勉強という新しい戦いをしてるんですよね」
“は?”
“草”
“何で?w”
“そういやお前学校行ってなかったな”
“学校行ってなかったの!?”
“だからノート広げてんのね”
“忘れてたわ。ダンジョンアタッカーやってなきゃ唯のニートだったなコイツ”
「ニート言うな」
コメントを見ながら、問題と向き合う。元々勉強は苦手だったのだが、中学では教えてくれる教師がいた。しかし、今は独学で教科書と睨めっこしながら、一人でやらなければいけない。しかも、難易度は中学の頃より跳ね上がっているので、一問解く事すら時間がかかってしまう。
これは、俺史上最大の敵かもしれない……いや滅茶苦茶情けないな。最大の敵が高一の授業って。
「うーん……うーん……え?何ですか?」
『小テストを準備してます。赤点を3個以上取ったら試験が終わるまでダンジョンアタック禁止です』
「うぇっ!?」
画面に差し込まれたカンペに、思わず変な声が出る。何でそんな物が……あっ!配信の許可が降りたのって、俺の学力を配信のネタにする為だったのか!だから支部の皆さん、何も言わず手伝ってくれたんですねありがとうございます何で普通に勉強教えてくれないんです?
“おっ小テストか”
“実際スイッチの学力がどんくらいなのか気になる”
“winner:そこにいる支部員は誰だい?”
“英語が駄目なのは知ってる”
“うんうん唸ってる時点でお察しやろ”
「はぁ……やれやれ。なら見せてあげますか、俺の実力って奴を。真面目にやるから、変な答えなんて期待しないで下さいね?」
“は?”
“調子乗らせると絶妙にウゼェな…w”
“なんだコイツ”
“ほう。やれやれ系ですか、大したことないですね”
“何でそんな強気なんだこのゴリラは…”
“馬鹿の片鱗見えてますよ”
“全員口に飲み物を含んでから視聴しましょう”




