第70話 【済】吸魔の墓最下層
「は?何故イレギュラーにだけ教えるんだい?それは私にも共有されるべきじゃないかな?」
「え、アタシも知っておかないと駄目ですよね?イレギュラーは良くてアタシが駄目な理由って何ですか?」
“怖いって!!ww”
“めっちゃグイグイくるやん……”
“余韻天誅すんなw”
“終わりの始まりかな?”
“終わるのはスイッチだけじゃね”
イレギュラーを倒したかと思えば、さっきまで剣呑な雰囲気だったあまにゃんさんと先輩が、俺に詰め寄ってくる。
あまにゃんさん?さっきまで生の喜びを知った顔をしてましたよね?何で無表情なんですか?先輩はその空間歪める奴ってどうやるんです?
「あはは……いやー今度こそ終わりましたね」
「「何故誤魔化すんだい?」」
「凄い息ぴったり。急に仲良しじゃないですか」
“気付いてはいけない”
“スイッチこれ大丈夫か?”
“うーん……二人が可愛いからヨシ!”
“あの、普通こういうのって勝利の喝采とか…”
“何でイレギュラー倒したのにやったぜっていう空気になれないんですかね”
というか、流石に疲れた……ダンジョンの地面に座り込む。吸魔の墓の特性は既に克服済みだからか、ダンジョンがマナを吸わなくなってるな。
「ふぅ。とりあえず、これで吸魔の墓はダンジョンアタック成功……で良いんですよね?」
「………まあ、そうだね。最下層のボス部屋にいたイレギュラーを倒したんだ。実質、奴が今回のボスだろう」
「改めてボスモンスターが出る感じはしませんから、成功だと思いますよ」
「……ありがとうございます。皆さーん、どうですかー?俺やりましたよー」
“イエエエエエエエエエエエイ!!!”
“8888888888888”
“おめでとう!”
“もっと楽勝かと思ったが意外だったな”
“カッコよかったよー!”
“叡智だったわ”
“分かる”
“三鶴城礼司:おめでとう”
おお。全然観てなかったけど、同接が1、10、100……?
「……これって10万人?」
“うおマジだ”
“凄え!同接10万おめ!”
“めでたいねぇ”
“あまにゃんの配信から来た奴もいるだろうけどそれでも凄い”
“そりゃあんなの見せられたらねぇ”
「ふふ、おめでとう。尤も、君は元々この程度なら容易くいけるポテンシャルは持ってたよ」
「す、凄いです!おめでとうございます!」
「あ、ありがとうございます」
いやぁでもこれは……先輩やあまにゃんさんの知名度あってのものだろ。それにGWの新武器お披露目会だったり、イレギュラーの出現だったりが重なっただけで、純粋に俺の配信を観にきてくれたのってスレ民ぐらいでは?
けど、過程はどうあっても、沢山の人が応援してくれたのはホントに嬉しい。
「スレ民の皆さんも、ありがとうございました。皆さんの言葉が、俺にとって力になりました。やっぱり皆さんは凄いですよ」
“こっちこそありがとうな”
“お前のおかげで元気出たわ”
“大好きじゃん俺らのことw”
“三鶴城礼司:君のひたむきさに心を打たれた者は多いだろう。それ程素晴らしい戦いだった”
“お、遂にbot卒業か?”
“BOTじゃなくなったら何になるんだ”
“知らんのか。三鶴城礼司になる”
“草”
“それはもう至強のリーダーなんよ”
“元botには重い肩書きだなw”
「伽藍堂先輩とあまにゃんさんも、ありがとうございました。今日初めて会ったばかりなのに、最後まで信じてくれて嬉しかったです。二人が信じてくれたお陰で、また立ち上がれました」
「気にしなくて良いさ。私と君なら、助け合うのは当然だよ」
「そうですよ。アタシとスイッチさんは家族なんですから。迷惑だなんて思ってませんよ」
“お、おう……”
“せ、せやな…”
“あ、ハイ。そうですね…”
“うんうん……うん?”
“三鶴城礼司:私には君達n”
“bot!?”
“何があったし”
二人とも、なんて良い人なんだ。どっちも俺の配信を観てくれていたって言っても、実際に会うのは初めてなのに。これだけ顔も良くて心も清らかなんだから、パーティの誘いも引くて数多なんだろうなぁ……たまにちょっと怖い時があるけど。
戦いも終わって、コメント欄もいつもの緩い活気が伝わってくる。何か様子がおかしいのもいるけど。
あ、ヤバい。安心したら横腹の痛みが戻ってきた。何か気を紛らわすもの無いかな。
軽くバッグを漁るも、目ぼしい物は無い。そうだ、モンスターの素材は先輩が持ってるんだった。軽く周囲を見渡すと、イレギュラーがいた場所に何か落ちていた。反射的に、それを口に含む。
“ん?どうしいいいいいああああああああ!?”
“あ、馬鹿っ”
“ちょおま”
“は?”
“ああああああああああああああ”
「あっ!」
「スイッチ君、それは……」
「……あれ、今何食べました?」
思わず口にしてしまった事に気付き、食べたモノを吐き出そうとする。しかし、無味無臭のそれは舌の上ですぐさま溶けてしまった。
この感じ、前にもあったような……。
『………』
“あーあ”
“今魔晶食べた?”
“オイオイオイ”
“あまにゃんにそれヨコセやぁ!”
“スイッチさぁ……”
“またギルマスに怒られるなこれ”




