第68話 vsイレギュラーⅢ
とある考えが浮かぶ。しかし、ぶっつけ本番でやるにはリスクがある。
けど、それ以上に試す価値が十分にある。
「あまにゃんさん!時間稼ぎお願いしても良いですか!?」
「っ、分かりました!!」
“何だ何だ”
“今度はどうした”
“おっ閃いたか?”
「ありがとうございます!」
俺が何がしたいかを聞かず、即座に応えてくれるあまにゃんさんにお礼を言って、イレギュラーから大きく距離を取る。あまにゃんさんが、俺と入れ替わる様にイレギュラーの前に躍り出て、マジックスキルで注意を引いてくれる。
とはいえ、あまにゃんさんだって限界が近い筈だ。先輩に目配せし、合図の確認をする。先輩は俺に気付き、可憐に微笑んでウィンクしてくれた。
可愛い。いやそうじゃなくて。
「先輩!《《良いんですね》》!?」
「ああ、勿論だとも」
よし。先輩の了承も取れたし、やるか。
深呼吸をして、吸魔の墓の床に手を着ける。
「纏魔気鱗」
“はっ!?”
“スキル使ってなかったのかお前!?”
“え、今まで舐めプしてたん?”
“あーそういや伽藍堂シスターに縛りプレイ受けてたな”
“あ!さっき伽藍堂叶がヨシ!って言ったのってそういうこと!?”
「いや、敵を舐めてた訳じゃないんです。先輩から良しって言われるまで待ってたら忘れてただけで……」
“ふざけんなボケェ!!”
“これだからスイッチは……”
“あのさぁ…!こっちは本気で心配してんだぞ?”
“イレギュラー相手に舐めプしたら、そらボコられるよ”
“でもそんなおバカなところもしゅき”
「すいません。あまにゃんさんや先輩、皆さんの為にも、ここからは本気で勝ちます」
コメントから目を離し、自分の手を見つめる。流気眼。マナと気を視覚で捉え、操る事が出来るようになったエクストラスキル。その眼で視れば、俺のマナがダンジョンへ繋がり、少しずつ流れていくのが視える。
「コメントで、『マナ枯渇症は早い内に経験しておいた方が良い』って教えてくれた人、ありがとうございます」
“お、俺じゃん。良いってことよ”
“くそ裏山”
“良いなー”
“三鶴城礼司:ところで、何故伽藍堂叶さんが一緒にいるんだ?”
“今更!?ww”
“空気を!読めやぁああああああ!!!”
“これだからbotは……”
“そんなだからネット民に玩具にされるんだぞ”
“スイッチのせいで米欄も猛り狂っておるわ…”
“コーヒー吹いた。訴訟”
その意味が良く分かる。身体に残る数少ないマナが、必死に俺の身体に残ろうとダンジョンと綱引きをしているのが視える。もしかしたら、適応力も発動しているのかもしれない。
纏魔気鱗でマナを制御し、その綱引きに俺も加わる。
カチリ、と歯車がまた一つ噛み合う。
“てか何してんだ”
“あまにゃんに戦わせて何してるの?”
“手着いてどうした?大丈夫か?”
“急げ急げ!”
「今、ダンジョンと俺のマナは繋がってます。そこから、マナがどんどん吸われていってるんですけど……」
“おう”
“……つまり?”
“あ、分かったわ”
“は?”
「《《その流れを、俺が掌握する》》」
噛み合った歯車が回り出す。先輩から借りたOWで、マナを体外に流す感覚も掴めた。最後の歯車が揃い、マナがどう流れ、どこへ行こうとするかが、手に取るように分かる。
ダンジョンと俺のマナが一つになる感覚と共に、流出していたマナが止まる。
「……寄越せ」
そして、マナが俺に向けて逆流する。ダンジョンの全てのマナを喰らい尽くす勢いで、纏魔気鱗で俺の身体に収める。
「極光星鎧」
オレンジ色の光が爆ぜた。オークキング戦の時以上に強いオーラが、俺を包んでいる。身体も、横腹に傷があるとはいえ、さっきより随分と軽く感じる。
“キタァァァアアァァァアア!!”
“うおっまぶし!?”
“何の光ぃ!?”
“めっちゃ光ってるww”
“極光星鎧きた!これで勝つる!”
“叡智よ”
“分かる”
ん?極光星鎧に変えた途端、ダンジョンとマナの接続が切れたな。マナと気が完全に融合したこのオーラは、やっぱりマナでも気でも無いのか?
いや、そんな事を考えている場合じゃない。こうしている間にも、あまにゃんさんは1人で時間稼ぎをしてくれているんだ。
『ォオオオオオオオオオオ!!』
「はぁっ、ハァ……!」
イレギュラーのストーンエッジをかわしながら逃げるあまにゃんさん。マナも気も減り続けているのに、俺の為に辛抱強く粘ってくれていた。その想いに、必ず報いなければ。
ウエストポーチから剣の形をしたOWを取り出す。見た目は唯の剣だが、マナを送る事で刃の部分が数珠状に分割した、鞭の形態に変化する。
そして、送られたマナの量に比例して刃とリーチを増やす事の出来る、遠近両用のOW。
その名も、蛇腹剣。
「ーーふっ!」
コアが3つ重なる様に位置を調整し、蛇腹剣にマナを大量に送り、《《全力で》》振るう。
ダンジョンの端まで伸びた刃が、イレギュラーを頭部、胸骨、右肘にあるコア諸共前後に割った。遅れて衝撃波が広がり、ダンジョンを縦横無尽に破壊する。
……え?今武器を振っただけなんだけど!?飛刃使ってないよ!?
“ふぁーーーーーwww”
“濡れた”
“何した!??”
“んガッコイイイイイイイ”
“こんな化け物だったのか……”
“カッコよすぎしゅき”
“瞬きしたらイレギュラーが壊れてたんだが…?”
“これは惚れますわ”
“ガチ恋勢無事光に焼かれる”
……ハッ!あまりの結果に呆然としてる場合じゃない!あまにゃんさんは!?
「あまにゃんさん、大丈夫ですかっ!?」
「ハァ…ハァ……スイッチ、さん」
良かった。破壊された地面の近くにへたり込んでるけど、当たってはいないようだ。周囲を警戒しながら、急いで彼女に駆け寄る。
「無事で良かったです。あまにゃんさんのお陰で、イレギュラーの硬さを突破する手段が出来ました。ありがとうございます」
「……ひゃぁい♡」
頬を朱に染め、緩んだ声を出すあまにゃんさん。あれだけ激しい戦いの後だ、生きてるという実感が出て頬が緩んでしまうのも仕方ない。
それよりも、彼女には何度も負担を強いてしまった。本当に申し訳ない。
“ヒッ”
“ぎゃあああああああああああ”
“顔上げるな顔上げるな顔上げるな顔上げるな”
“が、伽藍堂叶の顔が……”
“二人とも逃げろ!!”
“ヤバいヤバいヤバい”
“あれ?伽藍堂妹のいた場所に暗黒が見えるよ?”
“ひええええええええ”




