第67話 vsイレギュラーⅡ
“イケメンがよ…”
“くそ、さっきまで泣いてるクソガキだった癖にカッコよくなりやがって…!”
“おっし!吹っ切れたな!”
“やったれスイッチ!!”
“こんなの惚れちゃうよ……”
『ォォオオアアアアアア!!!』
イレギュラーの牙からフレアサイクロンが放たれる。あまにゃんさんを抱えて大きく跳んでかわし、離れた位置で着地する。
「コアの位置は背骨、右肘、胸骨、頭です!俺がこじ開けます!」
「分かりました!」
あまにゃんさんを後衛に置き、イレギュラーに突っ込む。同時に、ウエストポーチからあるOWを取り出す。
『ォォォォオオオオ……!』
前方に気を察知し、急停止。イレギュラーのアクアプリズンが、俺が進む予定だった場所を閉じ込める。その横を抜け、一つ目のコアがある背骨へ到達する。
「……やっぱり」
思えば、最初に戦った時から違和感はあった。俺を倒す為に生み出されたにしては、動きが鈍重過ぎる。耐久力や再生力も、俺が全快の状態なら呆気なく砕かれて終わってしまっていただろう。
もしダンジョンが、もっと本気で俺を排除する気だったのなら、少なくともステータスのぶつかり合いで、俺が『弱い』と感じる様なイレギュラーは現れない筈だ。
そして、何より……。
「ストーンエッジ!!」
『ォォオオオオ!!』
あまにゃんさんが繰り出す岩の刃を、今度は氷の弾丸、アイスガトリングで打ち消す。
“おおおおおおおおお”
“どんだけマジックスキルあるんだ”
“どっちも譲らねえ!!”
“ん?”
“あ”
“あーイレギュラーの原因がスイッチじゃないってそういうことか”
このイレギュラー、あまにゃんさんを優先的に攻撃している。より正確には、《《マジックスキルに反応してマジックスキルを当てている》》。まるで、『自分の方が凄い』と見せつけるかのようだ。
つまり、コイツは俺を倒す為に生まれた存在じゃない。ダンジョンにおける、完全なイレギュラーだ。
「あまにゃんさん、いけますか!」
「はっ、はっ……はい!いつでも!!」
それが今は有難い。腕に漢のロマン砲とも呼べる武器を装備する。
自分が器用じゃないのは知っている。温存など知ったことかと言わんばかりに、そのOWへマナを送る。
「パイルゥ……!!」
“おっ!?”
“キタキタキターーーー!!!”
“その武器はまさか!!”
“いけえええええええええええええええ”
“男の子大好きセット一丁!”
「バンカァァァアアアアアアアアア!!!」
イレギュラーの背骨を思い切り殴る。凄まじい衝撃と共に、マナで出来た巨大な杭が打ち込まれ、背骨を破壊する。
『ァァァァアアアア!!』
全身に伝わる衝撃に気付き、ようやくイレギュラーが俺を認識する。このOWでも、今の俺では威力をコアまで到達させる事が出来ない。けど、そんな事は最初から知っていた。
「ポイントシュート」
俺に向けて気が飛んでくるのを確認し、一足早くその場を離脱する。数瞬遅れて、俺がいた場所をアースレインが穿った。
そして、俺に意識が向いたという事は……。
「グラビティハンマー!」
背骨に残ったマナの杭目掛けて、あまにゃんさんが作り出した見えない重力の槌がピンポイントで撃ち込まれる。
杭が更に深く突き刺さり、コアに到達する。背骨から小さくパキ、という音が響き、コアが消滅する。
『ッァアアアア!!』
「ハァ、ハァ……!一つ目!」
「はっ、は………大丈夫、ですか?」
一度コアの破壊を見届け、あまにゃんさんと合流する。あまにゃんさんは、俺が知る限り既に6本目のマナポーションを飲んでマナを回復しているが、気力がまだ回復しきれていない。俺は言わずもがなだ。
“おおおおおおお!!”
“よし!!いけるいける!”
“でもマナ枯渇症が……”
“マナはすぐには戻らねえから気を付けろ!”
“スイッチとあまにゃんならやれるって信じてるぞ!”
「……あ、忘れてました。黒い牙には注意して下さい。俺、超耐性スキル持ってるんですけど毒状態にされました。多分、耐性を貫通するスキルを持ってます」
「はい!次はどこを狙いますか?」
「それは今からっ、考えまぁす!」
俺に向けて、イレギュラーの左腕が横薙ぎに振るわれる。俺はジャンプしながら、新たなOWを取り出す。
まるで死神が持つ様な形状の大鎌。それを、すれ違いざまに左肘目掛け振り下ろす。硬い感触が持ち手から伝わり、骨を僅かに削った。しかし、その程度のダメージはすぐに再生されてしまう。
「チッ、ホントにかってえな。お前も分からせなきゃ……」
“草”
“元気になった途端イキり始めるなww”
“お前マナ枯渇症なのに何でそんな自信満々なんだよww”
“でもあまにゃんや俺らと普通に会話する余裕あるからオークキングより弱いのはマジなのか”
“このスイッチが二度と戦いたくないっていうオークキングis何”
ていうか、何か他にも忘れてる気がする。何だっけ?
そんな事を考えている内に、俺の着地を狙って黒い牙から気が飛んでくる。大鎌の石突の部分を地面にぶつけて横に飛び出し、着地点をずらす。
直後、俺の最初の着地点が凍結し、氷のドームに閉ざされた。
「アイスドーム……さっきの腕は、前衛の俺を捕まえようとしたのか?」
まるで、敵を近付けたくないソーサラーの様な戦い方だ。今一度警戒しながら、イレギュラーを睨む。
『ォォォオオオオ……』
イレギュラーは、俺達を見下ろしながら動かない。今度は後の先を取るつもりのようだ。
当然だろう。向こうは焦らなくても良いのだ。吸魔の墓の特性上、このまま睨み合いを続けても、マナを吸われ続ける俺達の方が圧倒的に不利だ。それを分かっているからこそ、奴は頑丈さを活かして持久戦に切り替えたようだ。
「ふっ、ほっ…!」
牽制の様に飛んでくるエアバレットをかわしながら、次の一手を考える。
パイルバンカーはもう使えないだろう。背骨は1番地面に近かったからしっかり狙う事が出来たが、残りのコアの位置は地面から遠い、もしくはすぐ動かれて狙いにくい。かと言って、他のOWでパイルバンカー以上に一点集中の破壊力を持った物は……残念だが、殆どない。
だが、最も厄介なのはあの黒い牙。異常な硬さを誇っている上に、奴の強力なマジックスキルの起点にもなっている。動きが鈍くなった所を狙われればひとたまりもないだろう。それもあって、迂闊に接近する事も出来ない……ん?
マジックスキル……マジック、スキル……あれ?そう言えば俺、何でスキル使ってないんだっけ?確か……。
『とりあえず、わたしが良しと言うまでマジックスキルと纏魔気鱗、極光星鎧の使用は禁止。普通のコモンスキルのみで戦ってもらう』
「……あっ」
カチリ、と身体の中で歯車が噛み合う感覚がした。




