第61話 分からせとはこうやるのだ
少し進むと、また敵の気配がする。数の暴力にウンザリしながら、後ろで何やらゴソゴソしているあまにゃんさんを置いて突貫する。
“ファッ!?”
“はっや”
一歩で詰め寄り、ミイラソルジャーの剣を人差し指と中指でつまみ、へし折る。
「はい邪魔」
ミイラソルジャーを蹴り飛ばす。だが、まだコアは破壊しない。モンスターが所持している装備は、モンスターの消滅と同時に消えてしまう。そうなる前に、ポイズンスティングが飛ばしてきた針を折った剣の腹で受け止める。
「死ね」
二発目の針が飛んでくる前に、折れた剣を投げる。一度やってみたかったんだよね、二指真空◯。
俺の気の抜けた考えとは裏腹に、とても指から出たとは思えないボッ!!という音がしたと思えば、ポイズンスティングのコアが真っ二つに切り裂かれる。
“ヒエエ…”
“今の◯ねヤバくね?怖すぎる”
“叡智ね…”
“分かる”
“叡智ネキ!?”
“おったんか叡智ネキ達ww”
蹴り飛ばしたミイラソルジャーが復帰し、更に奥からカビまみれの槍を二つ持ったゾンビも現れた。
スピアオブモールドか。あのカビの槍は素手で触りたくないな。
「凄い……」
左手からミイラソルジャーが折れた剣を袈裟斬りに、右手からスピアオブモールドが槍を突き出してくる。
「遅えよ!」
後ろ回し蹴りで剣の腹を押し、そのまま脚を回転させ剣を槍に当て地面に引き倒す。バランスを崩した二体が重なり合い、地面に這いつくばる。
「じゃあな」
ドゴンッッ!!!
コアを思い切り踏み砕く。衝撃が敵を貫通し、床が蜘蛛の巣状にひび割れる。
“えっぐ……”
“え、素でコレってマ?”
“何でゴリラと呼ばれるか理解したか?”
“ゴリラに武器などフヨウラ!”
“これが二つ星ダンジョンアタッカーの力ですが何か?”
「はい、終わりました。どうですか?」
「凄いです!配信で見た時より強くなっててカッコ良かったです!《《武器が無くても》》強いなんて「あ"?」尊敬します」
「お、おお……ありがとうございます」
あまにゃんさんが、凄い食いつきで前のめりになりながら褒めてくれる。スレ民と相手してる時は、遠回しだったりすぐに煽りに変わったりしてたから、ここまでストレートに褒められると、ちょっと照れるな。
何か先輩の口から地獄の底から漏れ出た様なヤバい声が聞こえた気がしたけど……気のせいだな!先輩はそんな声出すような人じゃないし、そんな声が出る場面じゃなかったし!
“あまにゃんは誰にでもこういう事言うからな?”
“勘違いするなよスイッチ”
“自分にだけ優しい訳じゃねえからな?あまにゃんの優しさを勘違いするなよ?”
“一瞬寒気がした”
“コーン共必死すぎて草”
“今美少女が悪鬼に変わってなかったか?”
“寧ろスイッチが距離置こうとしてるやんけww”
“コーンは目は見えないからさ…”
“気付くな。見ないふりしろ”
「でも、何で飛刃を使わなかったんですか?あれなら敵の武器を使わなくても良かったんじゃ?」
「あー……実は俺、今修行中なんです。マジックスキルのコントロールが上手く出来なくて、誰かに当たっちゃうかもしれないので、使えないんですよ」
そういえば、彼女には俺がスキルを使わずにダンジョンアタックしているのを伝えてなかった。確かに、配信を観てくれた人からしたら、纏魔気鱗や極光星鎧を使わずに進んでいるのを見たらおかしいと思うよな。
「そうだったんですか……今日はアタシ達以外にこのダンジョンに挑んでる人はいないから大丈夫ですけど「今何て?」え?」
「俺達以外に、このダンジョンは誰もいない?」
「えぇっと……はい」
へぇえ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜??
“あ…マズイ”
“総員、対ショック姿勢!!”
“何や何や”
“何がまずい。言ってみろ
“スイッチ君がめっちゃ笑顔になってる!”
「皆さーん。吸魔の墓ってかなり広いダンジョンなんですけど、実はビルみたいに縦に層が繋がってるんですよ。それでですね、丁度この下辺りがボスの部屋になってるんです」
「え?」
“おい……おい!”
“嘘だろお前”
“やる訳ないよな?!なぁ!”
“あまにゃん可愛いなぁww”
“スイッチが笑顔なのってもう周りを気にしなくて良いから?”
ベルトポーチから、あるOWを取り出す。9本の歯を持つ、熊手を思わせる武器だ。レベルアップで武器術系のスキルを獲得したのか、この武器を持つだけで使い方がなんとなく分かる。
「見て下さい。鍬です」
「うん、違うね。釘鈀と呼ばれる、西遊記の猪八戒が使用した武器だ」
「……です!」
“草”
“最後までカッコつけろやww”
“鈀まであるのか。すげーな”
“絶対開発部に西遊記好きがいるわ”
“で、それがどしたん”
まあ使い方が分かるって言っても、武器の名前まで分かるわけじゃないからね?心の中で言い訳しながら、釘鈀を振り上げる。
「俺、言いましたよね?このダンジョンを分からせるって。でも、唯ダンジョンのモンスターを蹂躙するのは分からせじゃないと思うんですよ」
「え?え?」
あまにゃんさんは、俺のしたい事が分からないのかオロオロしている。反対に先輩は、俺がこれからやろうとしている事が分かったのか、ニコニコと笑みを浮かべている。
“はぁ”
“だから何やねん”
“あまにゃんもいるんだから手心をだな…”
“もう無理だ。コイツは止まらんぞ”
「ホントに分からせたいのなら、ダンジョンの予想を超えた事をしなきゃダメだと思うんですよね」
釘鈀を地面に突き刺し、マナを流す。釘鈀の歯が下へ下へ伸びていくのを感じ、ある程度伸びた所で、
「よっと」
釘鈀を持ち上げ、地面を掘っくり返した。
“ファーーーーwwww”
“マジかコイツwww”
“ええええええええええええええええ”
“イカれ過ぎやろ。何なんだよお前”
“キングコングやで”
“いや普通に怖いわ”
“スイッチ初見民ドン引きで草”
「もう他の人がいないから壊し放題ですよ。んじゃ、行きますか。あ、あまにゃんさんはどうします?」
「す、凄い……流石です!(一生)付いて行きます」
「ふふ、やはり君は面白いね。次は何をしてくれるのか、楽しみだ」
コメント欄はドン引きの嵐だけど、あまにゃんさんは全然引いてないな。寧ろ、好感度上がった?え、自分で言うのもアレだけど今やってるの相当ヤバいですよ?ここでパーティ解散も考えてはいたんだけど、その必要は無さそうだ。
「じゃ、ボスを上から分からせてやりますかね」
《《急いで片付けないと俺もマズいしな》》。そんな事を考えながら、俺は最下層への最短ルートを飛び降りた。




