第59話 バミューダトライアングル
“ふぁっ!?”
“ちょっと待て”
“どういうことだってばよ”
“草”
“話聞いてなくて笑う”
“腹痛えwww”
おかしいな。間違ったの俺なのか?どう考えても、あまにゃんさんのファンにもある程度配慮した提案だと思ったら、あまにゃんさんが提案ガン無視で突っ込んできた様にしか見えないんだけど?
「えっと……話聞いてましたよね?」
「そうだ。彼は君やファンに迷惑を掛けないように、境界線を引いた提案をした筈だが?」
事態を静観していた先輩から援護射撃が飛んでくる。ていうか先輩メッチャ怖い。周りの空気がぐんにゃりと歪んでるように見えるんですけど、どうしたんですか?
“ヒエ…”
“いや怖い怖い怖い”
“え、何でこんな無表情なん”
“空間歪んで見えるんだが?”
「はい!聞いてました!」
「あ、そうですよね。それじゃあ……」
「はい!スイッチさんと一緒に行きます!」
「?????」
“何したスイッチ”
“おいこらゴリラ。あまにゃんに何した”
“お前さぁ……”
“いや明らかにあまにゃんやろwww”
“イケメンのアホ面ってこんなおもろいのな”
「いい加減にしてくれ。説明をしてくれないと分からないぞ?」
ヒエッ……先輩の周りの空間がどんどん歪んでいく。心なしか、先輩の顔も見辛くなってきたような……。
「家族を大事にして下さいとスイッチさんは言ってくれました」
「はい。言いましたね」
「だからアタシは、家族を守ります!スイッチさんにも同行します!」
「はいストーップ。一旦タイムアウト下さい」
言葉が通じなくなったので、一度先輩の手を繋いであまにゃんさんから距離を取る。先輩の空気が元に戻り、白い頬が少し朱に染まっていた。
「あ、こら。駄目だぞ?今は配信中…」
「先輩、あまにゃんさんについてなんですが。スレ民の皆さんも、どう聞こえます?」
“まるで意味が分からんぞ!”
“何か家族判定受けてないか?”
“いやいきなりスイッチを家族判定はしないだろw”
“会話の前後が合わなすぎてマジで意味不明になってる”
「む。そうだね……恐らく彼女は、スイッチ君の家族も守ろうとしているんじゃないかな」
「え……?」
先輩の顔が神妙になり、不思議な考察が飛び出してくる。
俺の家族も?どういう事だろうか。
「君を守ることで、『君のご家族』に元気な君を見せてあげたい。そう考えたのかもしれない」
「あ……」
父さんと母さんがいなくなって、どれくらい経っただろう。
死体も無く、慰霊碑しかない福平に足を運ぶ気にはなれなかった。そこに、二人が眠っているなんて思えなかったから。
だけど。もし、『あの世』という世界があって、そこで父さんと母さんが見守ってくれてるなら。俺が頑張ってる姿を見て、喜んでくれるかな。
あまにゃんさんは、俺を守ろうとしてくれたんじゃない。俺が頑張っている事を色んな人達に見せて、向こうにいる俺の家族を安心させようと考えてくれたのか。その優しさに思わず、目頭が熱くなる。
“なるほど”
“サンキュー先輩”
“サンキュー先輩。盲点だったわ”
“スイッチ。泣くな”
“泣くなよスイッチ”
“やめてくれスイッチ。その涙は俺に効く”
「ぐす……ないてないです…」
「終わりましたか?」
気付くと、あまにゃんさんが側にいた。いや気付いてはいたんだけど、俺の声が聞こえるか聞こえないか辺りの位置でずっと見てたんだよね。しかも瞬き一つせず。
「はい。すいません、パーティで挑むのは初めてで不安で……あまにゃんさんさえ良ければ、よろしくお願いします」
「いえ!アタシが同行したいんです!アタシこそよろしくお願いします!!」
“調子乗るなよ?”
“あまにゃん以外に女侍らせてる癖に何してんの?”
“前のパーティのトラウマ思い起こさすな”
“↑全員◯亡確定な”
“オイオイオイ”
“スイッチの事知らないんやな。可哀想に…”
ダンジョン内で突発的に出会って、即席でパーティを組むのは珍しくない。とは言っても、俺はあまにゃんさんの事何も知らないんだよなぁ。杖持ってるって事は後衛職?ソーサラーの墓と呼ばれる程に、後衛職とは相性の悪いこのダンジョンでここまで来れてるから、実力は心配してない。一般的な視点では、彼女はとても優秀なダンジョンアタッカーと言えるだろう。一応、後でジョブ教えてもらわないと。
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(危惧していた事態になってしまったか。彼の魅力の前には仕方ないとはいえ、やはりこのダンジョンの入り口で待っていて良かった。照真君の家族の為?違う。あの眼は、既に彼を《《自分の家族》》判定しているに違いない。困るな……彼女の様に、少し優しくされただけで勘違いして寄ってきてしまう雌が他にもいるかもしれない【!?】。しかもあまにゃんは、ネットでも認知度の高いアイドル。迂闊に消すわけにはいかない。ならば………誰が正妻か、分からせねばなるまい)
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『なら一つだけ。家族を大事にして下さい。それだけ守ってくれれば、満足です』
アタシの始まりであり、救ってくれた人からの言葉。
やっと理解した。初めて見つけて、実際に出会って、変な所も見て、その優しさに触れて分かった。
憧れなんかじゃなかった。
彼はアタシの《《運命》》だった。
運命なんて言葉、ずっと信じてなかった。けど今なら信じられる。だって憧れた人と同じ言葉で、夢や憧れしか見てなかったアタシを救ってくれた人なんて、この人以外いなかったんだから。
運命の人なら、それってもう家族だよね?
だから守るよ。貴方の言った様に、大事にしなきゃ。だって運命共同体だもん。
でも誰かが言ってたっけ。『運命とは自分の手で掴み取るものだ』って。彼はまだ、アタシの運命じゃないのかもしれない。だって変なのが彼に沢山、沢山纏わり付いてるから。だからアタシは絶対に……
アタシノ運命ヲ、絶対ニ離サナイ




