第57話 吸魔の墓B2・邂逅
「ガトフレアだ。左のトリガーで弾丸を、右のトリガーで火炎放射を放つ。この武器は特殊でね。トリガーを引く事で、マナが自動的に消費され弾丸や燃料に代わるんだ」
「凄いですね。射撃武器もあるんですか」
“マジか”
“いーなー。俺も使いてー”
“OW買えば叶たんに優しく教えてもらえるんですか?!”
“で、おいくら?”
オーバードウェポンを体験した俺だから分かる。この武器や素材は、そんなに気軽に作れる様な物じゃない。俺なんかじゃ想像出来ないくらい、凄い予算や技術が使われてる。
「今更なんですけど、大丈夫なんですか?こんなに沢山……」
「勿論さ。GWだって、今までに失敗が無かった訳じゃない。多くの試作品を作り、多くのトライアンドエラーを繰り返してきた事で、こうして人々の命を護る武器を生み出してきたのさ。君は武器の性能テスト、そして(私達の子供である)OWの販促に一役買ってくれている。感謝しているよ」
「それなら良いんですけど……」
“確かに宣伝にはなってるな”
“素の状態だとしても、スイッチのパワーに耐えれる武器ってだけで評価されるぞ”
“しかも壊れても自己修復するんだろ?OW買えば他の武器いらんくなるのはデカいな”
流石は先輩だ、命を預かる事の重さを理解しているんだな。スレ民の人達も、先輩のOWに対しての反応は好意的なものが多い。
確かに今の俺の配信は、GWで発表されてなかった新しい武器のお披露目みたいになってるからなぁ。その効果のお陰で、同接がどんどん増えている。
「……分かりました。そういう事なら、これからも忖度無しでいきたいと思います」
「ああ。(私達の子供の)力を見せてあげてくれ」
「はい!どんどんダンジョンを分からせてやります!」
“草”
“実際ダンジョン分からせるってどうやんだよww”
“迷宮型のボスモンスター倒せば分からせ完了か?w”
マナ枯渇症のせいで痛む頭を無視して、ガトフレアを握る。
「確か左が弾丸で……」
射線に人がいない事を確認し、左のトリガーを引く。
ガガガガガガッッ!!!
凄まじい連射と共に、一瞬で目の前の敵に無数の風穴が開いた。
「…おお……!もっと反動あるかと思いましたけど、全然無いですね」
“すげ〜www”
“これ便利だな。弾の消費考えなくて良いし”
“反動無いのはデカいな。欲しくなってきた”
「唯、これマナの消費凄いですね。1秒撃ち続けただけでも結構持ってかれました」
敵を倒し、ダンジョン産の食材を食べたとしても、今の俺のマナはそこまで多く無い。
無理は出来ないのは分かってても、それ以上に『俺がこのダンジョンを分からせねばならぬ……!』という怒りが、マナ枯渇症の痛みを無視させてくれる。
「やはりマナの消費量は無視出来ないな……魔晶を組み込むか?しかし魔晶のマナが無くなった場合、使用者のマナを自動的に使うとなるとダンジョンでのマナの消費効率に影響が……」
「あ、俺難しい話分からないので、このまま火炎放射器も使ってみますねー」
“逃げるなアア!!頭脳労働から逃げるなアア!!”
“ダンジョンでは一層あたりに使うマナを計算しながら進むのが普通だぞ”
“許してやってくれ。彼はゴリラなんだ”
“頭は中学で止まってるからな……”
“急に闇深い事実ぶつけないでくれ”
しかし火炎放射器……これはつまり、《《アレ》》をしろという事ですか先輩。
「トンファーキックもそうですけど、先輩もスレのノリを分かってくれてて嬉しいです」
「うん?君が喜んでくれて何よりだ。お礼なら印か」
「じゃあ行きますよスレ民の皆さん!!」
“おっしゃ!やってみせろよ!”
“あれするのかww”
“まあお前にはピッタリだなww”
“先輩何か言いかけてなかったか?”
“止めろ。薮を突いて伽藍堂叶が出てくるぞ”
“草”
“まんまじゃねえかw”
逸る気持ちを抑えられず、未だ湧いてくるフォグマミーやコピーミミックに銃口を向け、右のトリガーを思い切り引く。
「ヒャッハー!汚物は消毒だー!!」
“ヒャッハァァァアアア!!”
“見ろ!モンスターがゴミのようだ!!”
“ここまで似合うヤツもそういねえよww”
元々火葬される前の様なモンスター達。噴き出した炎が、面白いくらいに敵を燃やしていく。
しかし、流気眼がモンスター以外の存在を見つけ、火炎放射器を止める。
「すいません、大丈夫ですか!?」
「え、ぁ……」
そこにいたのは、俺や先輩と同年代の女性だった。どうやら配信中だったらしく、彼女の周りを俺と同じタイプのマナドローンが浮いている。
黒い髪をポニーテールにして纏め、パチリと開いた丸い目が良く見える。童顔で小柄だが、鍛えていると思しき肢体には、引き締まった筋肉が付いており、活発な印象を受ける。とても可愛らしい少女だ。
唯、一部分が……うんまあ俺も健全な思春期の男子だからね?女性のそういう部分はやっぱり気になっちゃうといいますか……端的にデッッッ「あ"?」
「ヒエ……すいません」
先輩から凄まじい殺気が飛んできて、思考を止める。女性は視線に敏感とは聞いてたけど、他人に向ける視線にも反応するのか。失礼な視線を向けてしまった意味も込めて、もう一度頭を下げる。
「……スイッチ、さん…?」
「あ、はい。スイッチと言います。配信を観てくれてありがとうございます」
“あまにゃんだあああああああ”
“あまにゃんに追いついたwww”
“あーあ、出会っちまったか”
“あまにゃん!あまにゃん!!”
あ、この人があまにゃんさんなのか。スレ民からは名前しか聞いてなかったから、全然知らなかった。だから先輩、わざとじゃないのでその殺気仕舞ってもらっても良いですかね?
「……ほん、もの?」
「え。俺に偽者いるんですか?」
“悍ましい事言うな”
“人間に擬態したゴリラならいるけど?”
“魔晶食うヤツなんて1人で充分だよ”
“お前の様な奴は2人もいらねえw”
“あまにゃんに手出すなよゴリラ”
「おーし上等だコノヤロー。全員吸魔の墓集合な。お前等も分からせてやるよ」
“嫌でーすwww”
“お前から来たら考えるわw”
“あまにゃんから離れろゴリラ”
“コーンにもゴリラ呼ばわりされてて草”
「………ッ」
「え"」
あまにゃんさんは少し呆けてると思ったら急に泣き出し始めてしまった。
オ"ワ"ーーーッッ!!?何!?え、視線すぐ逸らしたけど駄目だった!?また俺土下座案件!?




