第45話 吸魔の墓B1
「吸魔の墓は、他者からマナを吸い取り続けるという特性上、ダンジョンにマナが非常に溜まりやすい。そして、ダンジョン内のマナからモンスターが発生すると言う事は……」
「ダンジョンが保有するマナが多い程、モンスターも多く出現する。ですよね?」
「素晴らしい。流石私の後輩だ」
“なるほどなー”
“息ぴったりやんけww”
“まあ先輩だしな”
“叶たんマジカワユス”
“スイッチもよく勉強してるな”
伽藍堂叶先輩のレクチャーを受けながら、吸魔の墓を進む。マナドローンに備わっているライト機能のお陰で、スレ民の皆にも分かるくらい道を明るく照らしてくれている。
ここはまだ入り口に近いから、モンスターの気配は無いな。
それにしても……
「先輩。流気眼で吸魔の墓を視てるんですけど…」
「うん?どうしたんだい?」
「足からマナを吸われ続けてます」
俺と先輩のマナが、ダンジョンの地面に向けてゆっくりと流れていくのが視える。それを伝えると、先輩は少し考えた後で壁に手をついた。
「これはどうだい?」
「あっ……手からも吸われ始めました!」
「なるほど。身体の接地面が多い、大きい程ダンジョンにマナが多く吸われるのか」
“マジか”
“それ貴重な情報じゃねえか!”
“吸魔の墓ってそういう仕様なの!?”
“やっぱ流気眼メッチャ便利だなww”
“スイッチの流気眼欲しすぎる……”
「素晴らしい発見だ。これは後でちゃんとDAGに報告しないとね」
「あー……そうでした。面倒だなぁ」
「ふふ、君は本当に私を飽きさせないね」
柔らかい笑みを浮かべる先輩。顔立ちが整っていることも相まって、少しドキッとした。
可愛い。
「ごめんなさい」
「何故謝罪するんだい?」
「いえ先輩は悪く無いです。俺の問題です」
“オイオイオイ”
“イチャつくなスイッチ”
“俺にもイチャイチャ分けろよ”
“叶たんの善意に勘違いするなよ”
スレ民からも叱責が飛んでくる。そうだよな、ここはダンジョンなんだ。浮ついた気持ちでいるとすぐ殺される場所だ。それに、善意で俺に協力を申し出てくれた先輩に、こんな不埒な気持ちを抱くなんて最低だ。
気を引き締め、ダンジョンを見据えて進んでいく。
“ヒエッ”
“伽藍堂叶がこっち見た!!”
“見られただけで悪寒がしたんだけど”
“叶た……伽藍堂さんごめんなさい”
“伽藍堂シスターが何か怖いですスイッチ”
“スイッチ助けてくれ”
「……来ましたね」
吸魔の墓は十字路が多く、殆ど変わり映えしない道のりであるが故に、一度迷うと出ることすら難しい迷宮型ダンジョン。
そして、俺達が最初に辿り着いた十字路には、早速敵がおでましになった。
煤けて黒ずんだ骨や肉に、多量の包帯を巻きつけた人型のゾンビ。顔の部分はまだ肉が残っており、窪んだ眼窩と削がれた様な鼻の跡が見える。
「チッ……フォグマミー。様々なガス系のマジックスキルを持つコアモンスター。一見すると動きが鈍そうだが、見た目に反して非常に俊敏かつ知能も高い」
「ありがとうございます先輩」
何か舌打ちの様な音が聞こえたけど、気のせいだよね。
“サンキュー先輩!”
“サンキュー先輩!スイッチの事応援してるで!”
“解説助かる”
“視線が無くなった。助かった…”
フォグマミーは十字路の中央で、ヨロヨロとした足取りで俺達から逃げようとする。
「左右の十字路に一体ずつ」
「その通り。三方向から挟んで殺そうとしているね」
モンスターは総じて知能が高い。迷宮型ダンジョンでは、モンスター側は数的不利と見ると逃げる事もある。
しかし、本来動きが速い筈のモンスターが、ノロノロと逃げようとするのは明らかにおかしいのだ。ならば、あの動きは擬態で本命は死角に潜むコアモンスターの方だろう。
「俺は流気眼で、フォグマミーの気が左右に向いてるのが分かりますけど、先輩は気配だけで分かるんですね。流石です」
「私は唯の経験則さ。さて、君ならこの場合どうする?」
“は?”
“分かるのかよw”
“凄えな。俺は二人の威圧で逃げてると思ってたわ”
“こいつらにもコアがあるんだよな”
“安心感あり過ぎて唯の雑談配信かと思ってたわww”
罠を見破られた事に気付いたのか、フォグマミーが止まり、俺達に向き直る。同時に、左右の道からもフォグマミーが現れた。
「あ、丁度集まってくれましたね。ではスレ民に、俺がGWから貰った武器をお見せしましょう」
“おっ!”
“いよいよですねwww”
“いやーどんな武器なんだろうなーww”
“スイッチの事だから凄い武器に決まってんだろ!”
“普通の武器なんかで満足できねえよなあ!?”
「喧嘩売ってくるじゃん。分かってて言ってますよね?はい、『普通の剣』です。マジで普通の、お高めのショートソード」
「ロングソードよりは軽く、初心者でも扱い易い。純鉄製だから強度も申し分ない。これさえ買えばどのダンジョンでも活躍出来る、正にシンプルイズベストを体現したような剣だね」
“サンキュー先輩”
“サンキュー先輩”
“流石GWの娘。自社製品の宣伝に抜かりない”
“はい可愛い”
「ありがとうございます先輩。さて、それじゃぁ……『纏魔気鱗』」
バッグから取り出したショートソードを構え、纏魔気鱗を発動する。その瞬間、フォグマミーの一体が機敏な動きで壁を蹴って俺に突進、遅れて二体が正面からブレス系のスキルを放とうとしてくる。
「ーー死ね。『飛刃』」
ボッ……ーーー。
横薙ぎに振り抜いた飛刃によって、目の前の十字路ごと、フォグマミー達は消し飛んだ。
“うわぁ……”
“何だこれ”
“エグいって”
“爆心地かな?”
“もっと力抑えろ馬鹿!”
“ゴリラにも程があるだろ”
「いや俺も驚いてるんだけどお!?何これ!?流石の俺もここまでの馬鹿力無かったが?!」
「コモンスキルの『真・覚醒』……君の身体能力がどこまで向上しているか楽しみだったが、これ程までとはね」
先輩が冷静に、俺のした事を分析している。そのおかげで、少し冷静になれた。
「そうでしたね。俺の覚醒スキル、進化してたんでした。DAGではエクストラスキルの検証しかしてなかったし、武器の事で頭一杯でした」
“ゴリラがキングコングになっちまった”
“お前マジでランク詐欺やめろ”
“軽率に人の真似しないで?死人出るから”
“武器……”
「俺はちゃんと人間ですぅー。というか、ダンジョンアタッカーとしてはまだ新じ、ん……?」
あれれ〜?おかしいぞ〜?ショートソードを握ってる筈なのに、さっきより軽く感じるな〜?嫌な予感を感じて手元を見る。
ショートソードの刀身が、根本から消え去っていた。
“ふぁーーーww”
“はいネガキャン”
“GWの販促とネガキャンを同時にやる配信”
“普通過ぎて、スイッチの力に剣が耐えられてないやんけwww”
“お隣にGWのご令嬢がいますが”
「すいませんでしたぁぁぁぁああああ!!!」
“土www下www座www”
“見てて飽きねえよマジでwww”
“お前凄えよ。いやガチで”
“やべえ腹痛いwww”
“今の流れ全部撮れ高しかない”




