第44話 襲来する先輩
Q.見知らぬ他人(しかも美少女)からいきなり「来ちゃった♡」と言われた時の俺の気持ちを答えよ
A.滅茶苦茶怖いです。距離の詰め方がエグい。何で恋人同士みたいなやり取りから始まったんですか?初対面ですよね?
「あ……の、あの」
恐怖で止まってしまった思考を巡らせ、声を掛ける。
「ん?ああ、《《そうだったな》》。すまない、私としたことが少し気が逸ってしまったようだ」
一人で何か納得したように、目の前の美少女が頷く。未だに呑み込めない状況に、コメント欄を見て心を落ち着かせようとする。
“伽藍堂叶!?”
“伽藍堂シスターがいる!”
“GW関連かな?”
“え、何でいるの?”
伽藍堂……伽藍堂叶!?確かに、テレビとかGWのCMとか色んな媒体で見た事あるような……。
すぐに頭に浮かんだのは、この前のガーランドウェポンズの件。正直、GWにはあまり良い印象を抱いてない。しかし、少女……伽藍堂叶さんは、俺に対して敵意は無いようだ。
「え……?伽藍堂叶さん、ですか?」
「ふふ、そんな他人行儀な態度はやめてくれ。いつものように、『先輩』で構わないよ」
「せn………い、え!?」
“はっ!?”
“え!?先輩!?”
“伽藍堂叶がwinnerだったのか!?”
鈴の音を転がす様な控えめな笑い声と共に、伽藍堂先輩が俺を熱っぽい目で見つめてくる。まるで、何かを待っているみたいに。
「………うぃんなー先輩ですか!?」
「は?」
“ファーーーーーーーwwwww”
“うwwいwwwんwwwなwwwーwww”
“コイツずっと先輩をウインナーだと思ってたのかよwww”
“ウィナーやwww”
「えっ?!ウィナー!?す、すいません。英語苦手で……」
「ふ、ははは。気にしてないよ、君は本当に面白いね」
せ、セーフ!!名前をずっと間違えてたのに笑って許してくれた!!良い人だぁ。
「ありがとうございます。えーっと、それで……先輩は何でここに?」
「勿論、君に会う為さ」
「何で?」
何で?
“さっぱり分からんぞ!?”
“どういう……事だ…”
“マジで先輩なら、スレで話した事知ってる筈だよな……”
“凄え!マジで伽藍堂叶がいる!!”
「詳しくは言えないんだが……そうだね、先日GWが非礼を働いてしまっただろう?私もスレッドで君の話を聞いていたからね。非常に心苦しかったんだ。どうにかして君に直接会って謝罪をしたくてね。それで、君が東城に来るまでまだ時間がかかるから、私の方から君の下に来たのさ」
「ほえー」
ほえー。
“伽藍堂叶マジで綺麗だな”
“スイッチ理解出来てるか?”
“突然の事態で頭が……w”
“いや頭がアレなのは元からだけどな”
“伽藍堂シスターがムーブの配信に出るのって初じゃね?”
「おっと、もう配信してるのかい?別に私は君になら撮られても大丈夫だよ。自分で言うのもあれだが、恥ずかしい身体はしてない筈だからね」
ドローンに向けてウィンクする先輩。しかし俺は、先輩の話を頭の中で纏めるのに精一杯だった。
“かわいいいいいいいいいいいいい”
“おい男おるやんけ。邪魔だ”
“男の方はいらんから伽藍堂叶映してくれ”
“こんなに表情豊かな伽藍堂シスター初めて見たわ。めっちゃ可愛い”
“スイッチのチャンネル乗っ取られ始めてねえか?w”
「えー……つまり先輩は、俺に謝る為に、わざわざ東城から来てくれたんですか?」
「その通り。我が社の人間が君に迷惑をかけてすまなかった」
そう言って、彼女が頭を下げてくる。
本来なら、先輩がこんな事する必要なんか無い筈だ。今回の俺の親族のやらかしに、彼女は関係無いのだから。
それでも、彼女はダンジョンアタッカーの数多くいる後輩の一人で、掲示板や配信で知り合ったというだけの仲でしかない自分に、真摯に頭を下げて謝ってくれた。大企業ガーランドウェポンズのトップの娘が、こうやって軽々しく頭を下げるのは良くない事なんだろうけど……ホントに優しい人なんだなぁ。
「ありがとうございます先輩。こんな事で先輩が頭を下げる必要なんか無いのに……こちらこそ、すいません」
「そんな、君の方が辛かっただろうに……本当に優しいね」
慈愛の籠った声で、下げた頭を撫でられる。泣いている赤子をあやす様なその仕草が懐かしく感じ、思わず涙ぐみそうになるのを必死に堪える。
「んん"っ……!それで、何で吸魔の墓に?普通にDAGで待ってても良かったんじゃ?」
「それなんだが、私とパーティを組んでくれないかな?」
「えっ」
“ファッ!?”
“えええええええ!?”
“何で!?”
“どうした急に”
突然のパーティの提案に戸惑いを隠せない。
基本的に、高位のダンジョンアタッカーが、自分より星数の少ないダンジョンに入ることは出来ない。
しかし例外が存在する。それが今回の様な、星数の少ないダンジョンアタッカーとパーティを組んで入る事だ。その場合、高位のダンジョンアタッカーは、アドバイザーとして助言するだけで、緊急時以外での対応はしない事になっている。又デメリットも大きく、素材ガチャの配分も、お互いの星の差の数だけ少なく分けられるのだ。
ダンジョンアタッカーのランクの中でも最高位の一つ下、銀星まで到達している人が、何で二つ星の俺を?あまりにメリットが無さすぎる提案に、何か裏があるのでは、なんて邪推してしまう。
「理由なんて決まってるだろう?私が君のフィアんッん……!ファンだからさ。それに、これは君への個人的な罪滅ぼしも兼ねてるんだ。私の取り分は無しで構わないから、パーティを組んでくれないかな?」
「罪滅ぼしなんて……!先輩が気にする事じゃないのに…」
スレで愚痴っただけなのに、GW関連の人間だからってだけでここまでしてくれるなんて……変な邪推をしてしまった自分が恥ずかしい。
先輩の心遣いに、泥を塗る訳にはいかない。
「……分かりました。ありがとうございます先輩。(今日は)よろしくお願いします」
「ああ。こちらこそ、(末永く)よろしく頼むよ」
“あれ?国内最強のパーティでは?”
“うおおおおおおお!!スイッチと先輩のパーティだあああああああ”
“何か微妙に噛み合ってないような……”
“俺もスレ民としてスイッチと触れ合って、直接会えばワンチャン…?”
“顔面偏差値も戦闘力もヤベー奴ら”
「それじゃあいよいよ、吸魔の墓に潜っていきましょうか」
「そうだね。因みに、私はパーティを組むのが初めてでね。至らない部分もあるかもしれないが、よろしく頼むよ」
「いえいえ、俺もパーティは初めてなので。それに先輩は銀星ですから、この三つ星ダンジョンでは緊急時以外は行動出来ませんし。いつものように、スレ民の人達の為に解説をしてくれると助かります」
「ああ、任せてくれ。ふふ、初めての共同作業だね」
「?………はい!そうですね!」
“はい可愛い”
“スイッチ素直かww”
“伽藍堂叶がこんな笑うなんて……”
“何か怖いゾ?”
“もっと叶ちゃん映してくれ”




