第43話 入り口にて待つ者
魔晶。あらゆるエネルギー資源の代わりとなる、ダンジョンから獲れる素材の中でも特に摩訶不思議な結晶。
ソーサラーなどのマジックスキルをメインに戦う人は、自分のマナに加えて魔晶のマナを上乗せして効果を増幅させる触媒としても用いる。
では、魔晶はとても貴重なのか。実はそうでもない。質に拘らなければ、有名なカードゲームのURぐらいの頻度で出る。
そして、魔晶が比較的出やすいと言われているのが……
「ここ、吸魔の墓です」
“来たな三つ星ダンジョン”
“魔晶が出やすい(当社比)”
“採掘ポイント”
“てかそんな金いるんか?”
「実はですねー。レンタルしてた機材なんですけど、DAGから買い取らせてもらったんですよ。それで魔猪の塔で獲得したお金の大部分がですね…」
“マ?”
“100万以上するマナドローンを?”
“うわ、よく買ったな”
“山櫛から東城に行くんだからな。向こうが配信機材レンタル出来るかも分からんし”
“そっか。レンタルしてる機材を東城に持って行く訳にはいかないか”
“でもマナドローンの買取なんてよく許したな”
「そうそう、そういう事です。ギルマスと相談して、今後もDAGに情報提供とか、広告塔としてやるならって事で。無理を言っちゃってすいません」
“そりゃギルマスに報告するわな”
“まあオークキングの情報は確かに有益だったし…”
“大事に使えよ”
心の中でもう一度ギルマスに謝り、俺を映しながら浮遊するマナドローンを見つめる。
DAGがダンジョンの様子を調査する為、ダンジョンの様々な素材、技術を駆使して作ったマナを動力にするドローン。凄い。腕時計型のARモニター出力装置と連動して、配信中に流れてくるコメント欄を横目にでも確認出来る。とても凄い。しかもマナドローンは、装置と連動している間、装置を自動追尾してくれる。凄く凄い。
俺にはそういった技術なんて全く分からないから、『超高性能なドローン』ぐらいの認識しかないんだけどね!
「俺がこのマナドローンを買い取ったので、魔晶の充填も全部俺がする事になったんですよねー。だから、この子の為にも魔晶が必要なんですよ」
“だから吸魔の墓ね”
“別名ソーサラーの墓”
“いるだけでマナを失い続けるダンジョン。マジックスキルを多用するジョブには辛いわな”
「流石、皆さんご存知ですねー。吸魔の墓ってダンジョン、何と中にいるとずっとマナを吸われ続けるんですよ。しかも迷宮型ダンジョンだから、滞在時間もやっぱり長くなるし。マジックスキルをいっぱい使うジョブの人は、マナポーションが無いと入っちゃいけないって言われるレベルのダンジョンなんですよね」
“しかも三つ星ダンジョン以降は、出てくるモンスターは皆コアモンスターだしな”
“まあソーサラーとかのジョブじゃなくても、前衛もマナ吸われると体力の戻りが遅く感じるって言ってるし”
“お前なら大丈夫だと思うが気を付けろよスイッチ”
「あはは、ありがとうございます」
“いつもなら説明してくれる先輩いないな?”
“あれ?本当だ”
“珍しいな。スレにもいたのに、配信にはいないのか”
スレ民のコメントで、そういえばと思い出す。確かに、いつもなら先輩がコメントで解説してくれてたのに、今日はそのコメントが無い。
「言われてみればそうですね……まあ先輩もダンジョンアタッカーですから、ずっと配信観てる訳にもいかないんでしょうねー。というか、人数も少ないですね?」
この前は始まった時点で数千人の人が来てくれてたけど、今日は数十人くらいしかいない。
まあスレ民だけでワチャワチャするのも好きだから良いんだけど。
“今あまにゃんが配信してるからな”
“この時間帯は色んな人が配信してるからね”
“2窓してるわ”
「寧ろこの人数の方が俺らしいかな?じゃあ早速、吸魔の墓で魔晶集めに行きましょうか」
“食うなよ?”
“まさかとは思うが、食用じゃないよな?”
“またギルマスに叱られたいんか?”
「食わないが?俺別にゲテモノが好きって訳じゃないですからね?」
“は?”
“オークキングの魔晶見て涎垂らしてた奴が何か言ってる”
“じゃあ何で食ったんだよww”
「何ででしょうねー……だってホントに美味そうだったんだも、ん……?」
吸魔の墓の入り口まで近付いた所で、人の気配を感じて止まる。
ダンジョンは、一般人が立ち入れないように厳重に包囲されている。ダンジョンアタッカーではあるのだろうが、それにしては動く気配が無い。一応警戒しながら、相手を見える位置まで進んで行く。
“ん?”
“どした?”
“何があった?”
“まさかモンスターか!?”
入り口まで進むと、少女がいた。
長い銀の髪は月の光を浴びて輝き、憂いを帯びた切れ長の金の瞳は潤んでいて、今にも儚い涙を零しそうだ。出る所は出て、引っ込む所は引っ込んでいる均整の取れた肉体は、まさに芸術的と言える。
月光のスポットライトの中で立ち竦むその美少女は、まるで自分が絵画の中に迷い込んだかの様に錯覚させる程、美しかった。
「………ん?」
少女の瞳が、俺に向けられる。途端、今にも消えてしまいそうな儚さが消え、まるで蕾が一斉に花開くかの様に微笑んだ。
「来ちゃった♡」
「ヒエ」
“こっっっっっっっっっわ”
“え?急にホラー始まった?”
“喜べよ。美少女の「来ちゃった♡」だぞ”
“お前は幸せだな。俺は背筋が凍ったぞ”
“人間、ガチの恐怖体験をすると言葉が出なくなるんだな……”
“あれ?伽藍堂シスターじゃね?”




