第36話 スイッチ、雑談枠を作る
親族の人とのやり取りから2日後。
あれから色々あった。魔晶を食べた事を怒られたと思ったら、エクストラスキル候補の検証。4個もあったから、当然1日で終わるはずもなく……気付けば2日も、DAGに缶詰めにされていた。
疲れた……いや支部の皆さんは凄く良くしてくれて楽しかったんだけど、やっぱり一緒に缶詰めにされた人への申し訳なさで気疲れが凄い。
でも、一応検証は終了して、後は引継ぎをするだけだそうで、一安心。こうして俺も解放された。
「んっー……!」
ビジネスホテルの一室で伸びをする。
人目を気にせず、1人だけの時間なんて久しぶりだったから、ついつい気も緩んでしまう。
そして、今更ながらにスレ民の皆の事を思い出した。急いで配信の準備をして、ゼッターのアカウントを作成する。
「……よし」
これで大丈夫かな?
でも、スイッチって名前の垢多いなぁ。やっぱり単調過ぎ?
「んじゃーやりますかぁ」
とりあえず、この前のスレに書き込んでおこう。
あ、コーヒー飲んどこ。
「んぐっ……ぷは」
良し、喉も潤ったな……あ、ベッド。使うのは久しぶりだ。
………どうせ始まっても、すぐに誰かが来るわけでもなし。スレ民が少しくらいでしょ。
【祝】ワイ将、魔猪の塔ソロで攻略したったwww【DAG】
898 スイッチ
ゼッター垢作ったでーww
ついでに配信するから、暇なら観てってくれいww
https://zetter.××
http://move〜〜
899 名無しのダンジョンアタッカー
伽藍堂ブラザーズも勿体無いよなー。イケメン&美少女だし、配信してくれれば絶対トップムーバーになれるっしょ
900 名無しのダンジョンアタッカー
あの2人は既にガーランドウェポンズというドデカいバックがですね……
901 名無しのダンジョンアタッカー
バックというかバックボーン
902 名無しのダンジョンアタッカー
待ってたぜぇ!この“瞬間”をよぉ!!
903 名無しのダンジョンアタッカー
スイッチーー!!お前生きとったんかワレェ!!
904 名無しのダンジョンアタッカー
クソ!!先輩が最初にフォローしてる!?
905 名無しのダンジョンアタッカー
先輩早すぎやろww
【雑談枠】皆さんありがとうございます【DAG】
“winner:やあ”
“スイッチーーー”
“先輩はええwww”
「すげー。ベッドふかふか〜」
ボフン、と備え付けられたシングルベッドに飛び込む。固いベンチや地面じゃなく、柔らかい毛布が俺を迎えてくれる。
“あれ?”
“また初手放送事故かよww”
“スイッチ気付けーww”
「ぅう〜……枕がある」
“可愛いww”
“そっか。今まで野宿だったもんね”
“同接2000超えてるww”
“甘やかしてあげたい……”
「……っぷは。そろそろスレ民来たかな?」
枕に埋めていた顔を上げ、配信画面を見る。
「……あれ?」
既に3000以上の同接を示す数字が並んでいるんだけど。あれ?もしかして……
「……さっきの奴見られてた?」
“観てたでwww”
“winner:愛らしい姿だったよ”
“先輩もよう見とる”
“可愛かったよ♡”
“配信してる時は気を抜くなww”
「あー……それはそうですね、はい…」
あれ?でも配信始まってまだ1分くらいだよ?何でこんな同接いるの?おかしくない?
「どうせスレ民しか来ないだろうと思ってました」
“お前自分の価値理解しな?”
“一夜で伝説を作ったのお忘れか?w”
“なわけねーだろがい!w”
“あぶねっ。始まったばっか?ゼッターで配信告知してくれよー”
“うーんやはりどこか抜けてるなww”
「はい。そうでしたね、同接8万も来てもらいましたもんね。すいません」
ゼッターでも配信のURLを載せる。すると、みるみるうちに同接が増えてきた。
俺、こんなに注目されてたんだなぁ……今更ながらそれを実感し、気を抜いていた自分へ戒めも込めて、両頬を思い切り叩く。
パァンッッ!!
“うるさっ!?”
“鼓膜ないなった;;”
“急に何だ!?”
「ふぅ…良し!スレ民の皆さんこんばんはー、スイッチですー」
“何も良しじゃないが?”
“コイツ……両頬が!”
“ほっぺ叩いたのかww”
“頬叩く為に力出しすぎやww”
「あはは。すいません、配信中に気を抜いた罰ということで。今日はですねー、この前のダンジョンアタックに成功したお祝いと感謝を送る配信です。見て下さい!お金が貰えたので、ホテルにも泊まれるんですよ!」
“魔猪の塔攻略おめ!”
“可愛いなぁww”
“ホテルに泊まれて良かったね”
“カッコよかったぞスイッチ!”
“生配信初見です。前回の配信から来ました。とてもカッコ良かったです”
“お前凄かったぞ!”
“お腹空いてないか?”
“今日はお腹の音鳴らない?大丈夫?”
「はい。今日はちゃんとご飯食べましたよ。今山櫛のビジネスホテルに泊まってて、そこのディナーを食べました。食べ放題だったので嬉しかったです」
“ビュッフェか”
“ディナーがビュッフェでこの内装……特定した”
“やめろやめろww”
“特定班早すぎやw”
「あ、ホテルへの凸はやめて下さいね。他の方の迷惑になるので。じゃないと……」
空っぽになったコーヒーの缶を、パチンコ玉ぐらいまで小さく丸める。
「皆さんがこうなっちゃうんで」
“ヒエ”
“やべえwww”
“アッハイ”
“『こうなっちゃう』は、やった瞬間有無を言わせずにそうする事確定なんよ”
「あはは、よろしくお願いします」
“クソ、顔がいい…!”
“スイッチー。スキルの鑑定したなら結果教えてくれー”
“イケメンが無邪気に笑うと、こんな可愛く見えるのね”
「あ、色々と皆さんに伝えたい事があるんですがその前に」
椅子から降り、床に土下座する。
“スイッチ!?”
“どうした?!”
“何してん??”
「まずは、前回の配信。沢山の応援ありがとうございました。皆さんの応援のお陰で、オークキング勝つ事が出来ました。本当に、ありがとうございます」
“スイッチ……”
“お前が生きていてくれたら、それでええ!”
“律儀だなーw”
“ホントに、スレ民はお前が生きてるだけで嬉しいんだよ…”
「そして。俺は一から、ダンジョンアタッカーとして頑張っていきたいと思います。ですので皆さん、これからも応援してくれると嬉しいです」
土下座したままだから、コメントは見えない。どんなに馬鹿にするようなコメントも、詰るようなコメントを送られても構わない。彼等の応援で救われた俺は、それを否定せず受け入れるつもりだ。
“当たり前だーーーー!!!!”
“やばい、また泣きそうになってきた……”
“スイッチ…生きようと思ってくれてありがとね”
“winner:どんな君でも、私は受け入れるよ”
“先輩…”
“前から思ってたけど、先輩重くね?w”
頭を上げ画面を見ると、俺が生きている事を喜んでくれるコメントが多く流れている。
それが嬉しくて……あ、駄目だ。また前が…
「あはは、駄目だなぁ……皆さんが優しいせいで、涙もろくなっちゃいました」
“可愛いね”
“やめろ。調子狂う”
“スレの感じで喋ってくれ”
“もっと馬鹿みたいになれ”
“いや馬鹿なんだけど、もっと馬鹿を押し出してくれ。俺らもふざけられない”
「酷くない?」
一瞬で涙引っ込んだわ。




