第26話 RE:vsオークキング
“?”
“どゆこと?”
“待ってたぜぇ、この瞬間をよぉ!!”
「ッラァ!」
オークキングが拳を繰り出してくる。纏魔気鱗を全て拳に集めて、それを打ち返す。
衝撃波が轟き、お互いの拳が跳ねる。最初に相打ちになった時のリピートをしてるみたいだ。
でも、今度は違う。
「はっ!!」
今度は脚が飛んでくる。纏魔気鱗を、今度は脚に全て集め同じく蹴り返す。
“何してんだ!?”
“さっきとやってる事同じじゃねーか!”
“良いから避けろ!ぶっ壊れるぞ!?”
“スイッチ!俺たちは信じてるぞ!!”
「…ははっ!」
全身が軋む。骨が悲鳴をあげる。
しかし、止まらない。
不思議だと自分でも思う。昨日ネットで知り合っただけの人のコメントに、こんなにも元気が貰えるなんて。
それがいつの間にか、沢山の人達が俺を見て応援してくれている。
「スレ民がこんなに友達想いなんて思わなかったなぁ!!」
軽口を叩きながら、再び拳と拳を激突させる。
“言ってる場合か!?”
“よく喋る余裕あるな…”
“敵見ろ敵!”
“また攻撃喰らうからコメント見ないでくれ”
拳、脚、脚。脚拳脚拳脚脚拳拳拳脚拳拳拳脚脚脚拳拳……
“……あれ?”
“何か、対等に殴り合ってね?”
“winner:オークキングに適応している…?”
“マジで!?”
“先輩!?そんな事できんの!?”
“嘘やろ!?”
“winner:普通ならば有り得ない。覚醒と適応力のスキルを持っているとは言え、適応する前に死亡するだろう”
段々とオークキングの動きが視えてきた。どこを狙っているか、どうやって回避しようとするか、いつ攻撃してくるか。
“いや理論上はそうだけどさぁ……”
“過酷な環境にいる奴程獲得しやすいんでしょ?適応力って”
“確かにそうだが、このラッシュを跳ね返し続けるのは過酷というか地獄やぞ”
“拷問の訓練って、こういう風にするんやろな…”
“即死級の攻撃を跳ね返し続けるのは十分やばいのよ”
視えるだけじゃない。この大砲の様な攻撃にも慣れてきた。
襲ってくる拳や脚が、さっきよりも軽く、遅い。攻撃の度に纏魔気鱗で一点集中させていたオーラを、少しずつ元に戻していく。
“いやオークキングの攻撃やばすぎやろ”
“マジで嵐みたいやな。攻撃の繋ぎが速すぎて見えん”
“これ武人系のスキルあるやろ”
“達人クラスはあるな。マジで動きに無駄がない。動きが次の動作に繋がってる”
“え、こんな化け物が更に武術使ってくんの?ヤバくね?”
“それに短時間で対応し始めてるバケモンの方がもっとヤバいぞ”
見た目以上に大きく、強く見えていたオークキングの攻撃。しかし、その攻撃は既に俺に届かなくなっていた。握りしめていた拳を手刀に、動かし続けていた足を地面に、緊張しっぱなしだった全身の力を抜く。
「…シッ!」
拳を激突させた瞬間、跳ね返ってくる衝撃に合わせて身体を捻る。《《オークキングがしたように》》、全ての威力を脚に集め、その巨体を蹴り飛ばした。
“ファッ!?”
“はあああ!?”
“オークキングを吹っ飛ばしたwww”
“おーしおしおしおし!!”
“良いぞスイッチー!”
“winner:完全に適応したね。生身の身体であの攻撃を受け続けたからこそ出来た芸当だが、普通の人間なら今頃ミンチだっただろうね”
“サンキュー先輩!”
“サンキュー先輩!流石俺たちのスイッチだぜ!!”
“winner:は?”
“ステイ!先輩ステイ!!”
“今のは言葉の綾というか……ww”
“スイッチ強火同担拒否ガチ勢先輩”
“今北産業”
ようやく自分がこの化け物に追いつく事が出来た。吹っ飛んで倒れるオークキングを見て、安堵の息を漏らす。
「どうですか皆さん。俺やれてますよー……あれ?何か同接増えてる?」
奴と戦う前は確か2万くらいだった筈の同接が、気付けば倍以上に増えている。バグかな?
“うおおおおおおおおお”
“初見です!めっちゃ凄い新人ダンジョンアタッカーいると聞いて!”
“凄え……さっきまで一方的だったのに…”
“5万人がお前とオークキングの戦いを見守ってるぞスイッチ!”
“わぁ……イケメンだぁ…”
“イケメンは敵だけど今だけは応援したるわ”
“頑張れよスイッチ”
画面を挟んで隣にいる人達の言葉が、壊れて空っぽになった器に積もっていく。身体の痛みも気にならないくらいに、心が温かくなる。
「皆さん、ありがとうございます。頑張りますね」
飛び起きて突っ込んできたオークキングの拳をかわし、懐へ。続けて飛んできた膝蹴りを、手刀一閃。
「遅いッ!」
膝を真っ二つにしてバランスを崩すが、すぐさま再生し始める。それを待たずに、ボディに右ストレートをめり込ませる。
「ー…ッ」
初めて奴が苦悶の表情を浮かべる。が、すぐさまいつもの無表情に戻り、張り手で俺を引かせる。
「あの超再生、面倒だなあ」
ショルダーガードでいなしつつ、距離をとる。オークキングはさっきの俺の攻撃を警戒しているのか、ジリジリと距離とタイミングを伺っている。
「……よしっ」
バッグから取り出すのはーー
「さらば俺の50万!」
HPポーションを頭から被る。ホントは飲んだ方が良いんだけど、咽せてこれ以上の隙を晒すわけにはいかない。
ポーションは俺の身体に触れると直ぐに内側に入り込む様に染み込んでいく。すると、あれだけ全身をジュクジュクと蝕んでいた痛みがすぐ治まる。あちこちに出来ていたすり傷も一瞬で癒えていく。
“あああああああああああ!?”
“勿体ねええええええ”
“いや、ラストエリクサー症候群になるよりマシかな”
“50万が……”
“大胆だなぁww”
“髪濡れエッッッッッッッ”
“あーいけません!いけませんお客様!!”
“えっど”
“まだおったのか変態”
「折角の俺の初陣だ。派手にやろう」
落ちた髪をかきあげ、オークキングを睨みつけて笑う。
「最初の相手が、お前で良かった」
“一々仕草が叡智よね……”
“分かる”
“叡智ネキもよう見とる”
“winner:コレが私の後輩だ”
“後輩自慢は草”
“でもスイッチの先輩って実質…あ、サーセン”
“初見です!同じ一つ星ダンジョンアタッカーとして勉強させてもらいます!”
“おいばかやめろ”
“こんなのから学ぶな”
“こwwwんwwwなwwwのwww”
“その通りだけどさあw”
“お、同接6万おめ”




