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【書籍1巻発売中!】スレ主がダンジョンアタックする話  作者: ゲスト047562


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第167話 vs『勇者』三鶴城礼司Ⅱ

「先パアアアアアアアアアアアアアアアアアイッッッ!!??」


“winner:すまない。これもビジネスなんだ”

“いや先輩悪くないやろwww”

“誰もお前がリーダーと戦うなんて思わんわ!ww”

“完全に自業自得で草”

“ここで助けを求めるなww”

“コイツGWに因縁ありまくりだなwww”

“田中ヨルフィ@打倒GW‼︎:ウチの商品に替えよ”

“巡り巡って自分に返ってきてる(物理”

“winner:あ?”


ヤバい。ヤバいヤバいヤバい……!!

俺の直感が告げている。あの青い剣に当たるのだけは、赤い剣に触れるよりも駄目だ。【流気眼】には黒く視える程凝縮されたマナが、青い剣……OWを形成している。唯それだけなのだが、それだけに完成されたあの武器の脅威が測り知れない。とにかくヤバい。

二振りの危険な剣をどうやって回避すべきか。そんな俺の思考を斬る様に三鶴城さんが動く。

俺がしてみせたように、愚直に近付いて青い剣を振るうだけの、無造作な一撃。

しかし、その動きは【流気眼】で丸分かりだ。剣の範囲から逃れ、反撃を──


斬ッ!


「ガッ……!?」


“winner:そもそもトライティーが注力しているのは専らレンジャー関連だろう。彼とは相性が悪いに決まっている”

“え”

“田中ヨルフィ@打倒GW‼︎:すぐ壊れるような不親切な近接武器なんかより、少しでも遠距離に対抗する手段があった方が良い”

“斬られた!?”

“神速の2連撃!?”

“winner:違う”

“サンキュー先輩!”

“え、何だ今の”

“ヒエッ”

“レスバしながら観てるの怖E”

“傷を負ったの久々だな”


逆袈裟に斬られた胴体を見る。

剣はちゃんとかわした、それは間違いない。けどその後に俺が見たのは、剣の軌道をなぞる様に生じた、空気を裂いて飛ぶマナの刃。あれは……。


「まさか、斬撃の余波だけで斬られたのか……!?」


“は!?”

“強すぎて草”

“余波?”

“流石っすよリーダー!”

“これは勇者ですわ”

“winner:今の攻防だけで理解するとは流石だね”


「はっ!」


「チィ!」


動揺する暇はほんの一瞬。赤い剣による追撃が飛んできて、咄嗟に回避する。

唯振るだけで強い剣が、余波だけでも斬れるとかヤバ過ぎるだろ!誰だあんなの作ったの!先輩か!なら仕方ないな!だってあの剣のベース俺だもん!!


「【レーザーハロー】!」


「うおおおぁぁぁぁ!!?」


三鶴城さんに更なる変化が。背後に光のリングを背負い、その光輪から何本ものレーザーが飛んでくる。

クソが!レーザーが散弾みたいにバラけて軌道が読めない上に、三鶴城さんから目を離せば斬撃が文字通り《《飛んでくる》》!マナは減ってる筈なのに、保有量が多過ぎて無尽蔵に感じる!強過ぎる!!完全にスペック差でゴリ押しされてる!!


「ははっ!」


それでも!もっと前に!


「!?」


レーザーの存在に隠れて、天井に黄金の粉が舞っていた。天井から降ってくる様に舞うその粒にレーザーが触れると、本来ありえない角度で曲がって空間中を乱反射し始める。


「【グリズムドーム】」


「んなっ!?」


更に軌道が変化するレーザー。最早どこから飛んでくるか予想すら無駄だと悟らされる。

そんな滅茶苦茶な場所から襲ってくるレーザーを、【吸魔】でひたすらに弾く。


“出鱈目過ぎて草”

“ギャアアアアアアアア”

“こんな場所いたら1秒保たんわ”

“四つ星以上のダンジョンギミックよりギミックしてるよこの人”

“スイッチ反応してんのヤバいな”

“うおっ眩し!”


まだだ!

【吸魔】は手からしか出来ない。この嵐を収めるには、やっぱり本体を直接叩くしかない!


「オオオオオオオオオオオ!!!」


己を鼓舞し、足を進める。

【極光星鎧】で身体を守り、マジックスキルで応戦。レーザーを手刀で弾き、灼熱の剣を掻い潜る。【飛刃】を上空に飛ばして【グリズムドーム】を破壊しながら、【レンズフレアシールド】による反射攻撃を【吸魔】で吸い取る。【流気眼】で次の動きを読み、いち早く攻撃範囲から身をかわす。

くっ……キツい……!目が足りない。三鶴城さんから目を離したくないけど、そうしないと他が対処出来ない。進む為の一歩が重く、実際の距離以上に彼が遠く感じる。

それでも!


「オラアッ!」


遂に到達した三鶴城さんのシールドに蹴りをいれ、飛んでくる斬撃を回避。その先に転がっていた金砕棒を拾う。


「シッ!」


「フッ──!」


三鶴城さんの次の行動が視える。右手に持つOWによる袈裟斬り。

その動きに合わせ、その威力が最高になる前に止めようと金砕棒を振り上げる。












打ち合う事すら許されず、金砕棒が豆腐の様に両断された。振り下ろされた剣が、俺の肩を掠めて地面を裂く。


「……ッ」


俺達の間に埋めがたい戦力差があるのは分かってはいた。けど、武器の差だけでもこんなに違うなんて……。

苦々しく舌打ちしながら、急いでバックステップで距離を取る。三鶴城さんはさっきみたいな追撃はしてこず、俺の準備が再び整うのを待っていた。


「ハァ……ハァ……げほ」


“あらら”

“winner:如何にスイッチ君といえど、相手は海千山千の実力を備えた勇者だ。厳しいだろうね”

“せやな”

“スイッチを贔屓しない処に絶望的な差がある事が分かるぜ”

“まあ無理やな”

“全部負けてる”

“田中ヨルフィ@打倒GW‼︎:それでも諦めないと思うよ”

“スイッチが諦めてんのは想像できんがどうだ?”

“winner:私が言おうとした事だぞ貴様”

“草”

“不覚にも笑った”

“無駄に張り合わんでもろて”


「どうだ?」


次の手立てを考えながら隙を窺っていると、不意に優しく声をかけられる。


「ここまでにしようか?」


「……あはは」


……ホンットに、この人はさぁ。お人好しさんめ。


「確かに今終われば、めでたしめでたしで済むかもな。けど、それじゃいつまで経ってもアンタの横に立てないままだろ?」


「!」


「何度も言わせんな。《《俺達はそこまで弱くねえ》》。アンタこそ、ずっと《《そこ》》にいるつもりかよ」


笑わせてくれたお陰で、力んでいた身体がリラックスする。追い詰められていた思考が澄んでいく。

そうして思い浮かぶのは、師匠の凄さ。今の状況は、前に俺が師匠に強いた時とソックリだ。立場が逆転した今、改めてあの人の強さを再認識する。

確かに絶望的な戦力差だろう。今すぐ越えるには高過ぎる壁なんだろう。埋めがたい差が広がっている事なんて、分かりきってる。

だからどうした。師匠……数多さんは、そんな俺を相手に一歩も引かなかったんだぞ。


「それに、アンタの戦い方は参考になる。この戦いで、《《俺達》》はもっと先に行く。後ろばっか見てると置いてくぜ?」


「……フ。お人好しだな、君は」


「アンタが言うな。絶対超えてやる」


「やってみせるが良い……!」


     ◇


不思議なものを観ていた。


『これで、どうだっ!?』


『甘い!』


『至強』。国内最強と言われ、また自分達も強いという自負を持つダンジョンアタッカー達。

数多の激戦を乗り越えてきた彼らが、たった一つの戦いに魅了されていた。


『【ボルトブラスト】ォ!』


『【ネオンリング】!!』


『至強』が誇るパーティハウスのシェルターの中を、強烈な閃光が何百と散る。非常時には数百人が入れる空間だが、その光を起こす二人にとっては狭すぎる場所だった。

片や我らがリーダー、世界に誇る『勇者』三鶴城礼司。

相対するは、ダンジョンアタッカーになって一年にもなっていない、ぽっと出の新人。

本来戦う理由など消え失せた二人が、全力で互いの命を削り合っている。それは戦いという次元ではない、一歩間違えばすぐ死ぬ暴風雨の如き弾幕が吹き荒れている。

だというのに、彼らの声はどことなく楽しそうなのだ。


「すごい……」


応援しようと詰めかけたモニタールームで。スマホで。全員がその、笑みさえ浮かべている戦いを目の当たりにしていた。

ダンジョンアタッカーには、強者のプライドがある。これまで築き上げてきた経験に加え、中でも彼らは『至強』という強者の軍団に囲まれていた。とりわけ強さという一点においては、各々が一家言あると自負している。

そんなプライドの塊たる彼らが、凄まじい戦いを繰り広げている画面から目を逸らせないでいた。


「流石にきついだろ」


「もうそろそろ終わるんじゃない?」


「……けど、どっちも凄いよな。やっぱさ」


楽しそうに戦う二人を見る視線には様々な感情が入り混じり、口々に思いの丈が溢れてしまう。

畏怖。冷笑。憧憬。


「……何で、そこにいるのが私じゃないんだろう」


そして、嫉妬と後悔。

彼らとて、本当は気付いていた。『勇者』という言葉の重み、背負わされてきた苦しみ、DAGの象徴としての責任を。

しかし、彼ら自身が三鶴城を追いかけている事に甘んじ、『彼は三鶴城礼司だから』と目を背けていた。


「……本当、馬鹿みたい…………」


言ってやりたかった。自分達が声を上げなければいけなかった。

お前がそんな事を言わないでくれ。自分の命まで勝手に背負わないでくれ。自分達がお前を支える力になってやるから。

だがその言葉はずっと仕舞い込まれたままで、『いつかもっと強くなったら』と自らに言い訳して、その『いつか』さえ曖昧にして。


「今まで、ずっとッ……!何してたんだろう……!」


向き合う事さえしないでいた。

そんな自分の《《運命》》を打ち破る様に、画面の向こうでスイッチが吼える。


「……け。いけっ……!」


気付けば、人目も憚らず叫んでいた。


「負けんなスイッチイイィィィ!!」


「勝手に俺達の想いまで代弁しやがって!ふざけんな畜生!負けてたまるか!」


「もっと動けばーか!あたし達はそんなもんじゃない!」


「リーダー頑張れー!!スイッチはもっと頑張れえええええええ!!!」


思い思いに叫ぶ。届くはずのない声を、自分勝手に受け止めてしまう両雄に。

今度こそ届けと、心が叫びだす。

気付かされてしまった。最初から、この戦いは二人だけのものではなかったのだと。


     ◇


(不謹慎だと分かってはいる)


幾度シールドを破られただろうか。何度鎧を打たれたろうか。

手数でも威力でも、何もかも三鶴城が上回っている。【魔眼】があったとしても、スイッチに勝ち目は無い……筈。


(しかしやはり……どうしても思わずにはいられない)


なのに、彼は三鶴城の想像の遥か上を行き、死線を超えて三鶴城の下に辿り着く。

まるで、『アンタならもっと出来るだろ?』とでも言わんばかりに傲慢なあり様に、羨望を覚えてしまう。


(私は、君になりたかったよ)


傍から見れば侮辱とも取れる、滑稽な願い。

しかしどんな逆境に屈しても、どれだけの苦難に直面しても、必ず立ち上がってきたスイッチの生き様を見てきたのだ。

その姿は、三鶴城が理想とするダンジョンアタッカーそのもの。そこに憧れを感じるなというのは酷だろう。


(だが、だからこそ私は君に勝つ。君が発展途上ならば、私もまだ進化の道半ばなのだから!)


青く輝く剣、OWに灼熱の光を灯す【シャインレイ】を重ねる。二色の光は混ざり合い、紫色に激しく煌めく巨大な剣を化す。


(私は、三鶴城礼司はこの程度ではない!それを証明する為の力を、今!)


     ◇


!?何だ!?嫌な予感がする!

三鶴城さんがOWとマジックスキルを一つに融合させ、紫の巨大な剣が生まれる。空気を焦がしていた熱は消え、全てがその剣に凝縮されていくのが視えてしまう。

まだ強くなってる……!上等だこの野郎。それでこそ三鶴城礼司!皆そんなアンタに憧れて、これからもっと強くなっていく!その気持ちだけは揺らがない!


「まだまだ……もっと!」


ウェポンリングから日本刀を呼び出し、【極光星鎧】を纏わせる。それだけじゃない、全ての力を刀に込めてマジックスキルを放つ準備をする。

武器とマジックスキルの融合を、俺もここで試す!


想いよ!


     ◇


(力よ──)











「「届けええええええええええええええええええええッッ!!!!」」


光が、シェルター内を満たした。


=====


書籍版1巻発売中です。手に取っていただけると嬉しいです。


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