第164話 vs三鶴城礼司
「シッ!」
姿勢を低くして正面から突っ込み、直前で右へ回る。気が散漫で隙だらけな三鶴城さんの横腹へ、小手調べとばかりに拳を放つ。
「……ッ!?」
金属と掌がぶつかり、小さく破裂音がこだまする。
お、すぐに気付いて手で防がれた。それに、少しはグラつくと思ったけど、全然体勢が崩れないな。
なら、これはどうだ?
「ふんっ!」
「なっ……!?」
拳に力を込め、下から突きあげる。三鶴城さんの身体が僅かに浮き上がったところで、すかさず蹴りを打ち込んだ。
「ぐっ……!」
“おいおいおい”
“え。ガチやん”
“マジで戦ってる?”
“デモンストレーションのレベルじゃないだろ”
“もしかしなくてもガチバトルかこれ”
俺の蹴りを、剣の腹で受け止めた三鶴城さんが吹き飛ぶ。しかしすぐに着地し、体勢を整える。
「まだまだぁ!」
更に金砕棒を取り出し、ぶん投げる。
「【飛刃】!」
すぐさまマジックスキルで追い討ちをかけ、俺自身も突進していく。
三鶴城さんが剣を振るう。金砕棒と【飛刃】が一振りで散らされるのと同時に、俺は金砕棒を追いかけ、空中でその柄を掴む。
マナを金砕棒に流し込んで形状変化。巨大なハンマーの形態になったそれを、思い切り振り下ろした。
「オラアッッ!!」
筋力と重力を乗せた質量の塊が、三鶴城さんを襲う。
受け止めた彼の身体が僅かに沈む。OWと剣がぶつかり、爆ぜる様な音と共に火花を散らす。
「……!」
押し返される感触がして、咄嗟に腕を振り上げて距離を取る。
俺の攻撃を押し返した三鶴城さんは、先程の隙だらけな姿とは打って変わって、静かに俺を見つめていた。
「……強いな。君は」
「ありがとうございます。けど、簡単に攻撃を防いでる人が言っても、説得力無いですよ」
“いやいやいやいや”
“ちょと待て”
“お前それはやりすぎやろ”
“下手したら氏ぬレベルなんですが……”
“魔王ネタとか抜きにやべえって”
“スキルとかガチで56す気満々やんけ”
「この人相手に、やり過ぎもクソもないだろ。俺は本気で勝ちにいってんだから」
しかも、あの一連の攻撃を受けてもびくともしてない。彼をその気にさせるのは、あの程度じゃ駄目って事だ。
だから、使えるものは全部使う。そろそろ本気でやろう。
オレンジのオーラ、【極光星鎧】が俺を包む。鞭のOWを取り出し、武器にもオーラを纏わせる。
「シィッ!」
鞭を振るう。オレンジのオーラが先端に集中していき、三鶴城さんの手前で引くと同時に轟音と衝撃波を巻き起こした。
「……ッ!」
オレンジの衝撃で歪む空間を切り裂き、不快そうに眉根を寄せる三鶴城さんが見える。
その両脇を挟む様に、ガントレットから伸びたマナウェポン、ワイヤードナイフが襲う。
「【レンズフレアシールド】!」
赤いドーム型のシールドが、俺の武器を弾いた。
それだけじゃない。シールドに触れたマナウェポンが、まるで熱で溶ける様に消されてしまった。
……マジックスキルを出させるのは出来たけど、《《まだ》》か。
「【ボルトブラスト】!」
指先から閃光が炸裂し、シールドに当たる。
これでもまだシールドは壊せない。だが、彼の視界を奪う事には成功した。
閃光の余韻が残っている間に後ろに回り込む。再び金砕棒を取り出し、オレンジのハンマーへと変化させ思い切りぶん殴る。
「ッラァ!!」
「なっ……!?」
“ファ!?”
“リーダーのシールドを壊しやがった”
“嘘だろ!?”
“winner:極光星鎧を無詠唱で出来るようになってるね”
“いやスイッチなら出来るやろ”
“さりげにコモンスキル無詠唱会得してる”
“極光星鎧がやばすぎる”
さあ来たぞ。三鶴城の前に躍り出て、次の一手を待つ。
「……っ」
……だが。
彼は苦しそうな顔で、剣を持つ手を緩めた。
俺を気遣う様に、俺を傷付けるのを躊躇うその姿に。
「……あ?」
ついイラッときた。
舌打ちをしながら、三鶴城さんの目の前まで歩く。
「おい」
師匠から見様見真似で教わった至近距離での前蹴りが、彼の腹にクリーンヒットする。
予想外だったのか、三鶴城さんは凄い勢いで壁に激突した。
「がはっ……!」
「戦ってんだぞ。いつまでもボケッとしてんじゃねえ」
“ええ……(困惑”
“何という理不尽”
“リーダーが手出せないのはお前のせいでもあるんだぞスイッチ”
“でも同意の上でやってる訳だしまあ”
“winner:何故彼がこの戦いを申し出たのか。その理由さえ分かれば良いのだけど”
“サンキュー先輩”
“サンキュー先輩”
“サンキュー先輩。結局そこだよな”
三鶴城さんは、俺が何故怒っているのかまだ理解出来ていないのだろう。困惑した顔で立ち上がるが、やはり攻めてくる気配は感じない。
「……は〜あ。どうせ何言っても無駄だろ?だから、アンタに俺の言葉が届くまで殴り続けるからな」
「……何を」
言葉を待たず、追い打ちを仕掛ける。
先程の蹴りで俺の脅威を感じ取ったか、今度の反応は速かった。すぐに身を翻し、蹴りをかわした。
“ヒエエ”
“あの、壁に脚埋まってるんですけど”
“耐久大した事ねえな”
“結界の防御貫通した?”
“極光星鎧はやべえって”
“そのオレンジオーラはアカンですよ!”
“生半可なシールドじゃ一瞬でお陀仏やんw”
「シッ!」
追撃の手は緩めない。ガントレットから伸ばしたワイヤードナイフのワイヤーを彼の足に巻き付け、ジャイアントスイングの如く振り回そうとする。
「おおおおおおおおっっ!!」
「くっ……!」
いち早く剣でワイヤーを切ったな。そんな事は想定内だ。
グリーヴのマナウェポンを発動させる。オーラを流し込むと側面が開き、そこからジェット噴射の如く推進力が生まれる。
「せいっ!」
流星の様な飛び蹴りが、三鶴城さんを掠めて壁に激突した。
「──ッ!?」
「チッ、外した。制御難しいなこれ」
初めて体感する外付けされた速度に、身体の反応が追いつかなかった。
まあ良いか。驚いてくれてるしな。もっと驚けぃてもらおう。
“はっっっっっや”
“何も見えんかった”
“オークキング以来のスピードじゃね?”
“winner:いや、あの時より遥かに速い”
“おい!リーダーを56す気か!?正気かよ!”
“流石にスイッチも弁えてるだろうが、今回はマジで分からん”
“どうしたスイッチ”
「君は、本気で……!?」
「最初からそう言ってんだろ。まだ《《届かねえ》》のか」
警戒を強め、更に防御を固めようとする三鶴城さん。
頑固だなぁ。だからこそ、やる気が出てくる。
「俺はアンタに聞かなきゃいけねえ事がある」
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