第156話 パーティ制度について
「いらっしゃいませ」
「あ、どうも」
『至強』のパーティハウスの中は、まるでホテルのエントランスみたいな作りだった。
総合カウンターの様な場所から受付らしき女性が挨拶し、続けて他の人もこちらに会釈する。
あれ?この人達……。
「彼女達は皆、ダンジョンアタッカーだ」
「そうですよね?マナ持ってますもん」
“そうなん?”
“ホテルみてえだな”
“改めてマナと気が見える流気眼チートだなって”
“エントランスのソファもふかふかなんやろなぁ”
“ダンジョンアタッカーがウケツケジョーしてんの?”
“ビルっつーかホテルじゃね?”
“ん?もしかしてスタッフ全員『至強』?”
「全員が『至強』のメンバーという訳ではない。彼らは研修をしているんだ」
「研修?」
「ダンジョンアタッカーという職業は危険と隣り合わせだ。大怪我や精神的なショックで戦えなくなってしまう者も多い。そんな人達がダンジョンアタッカーを引退した時、DAGで受付や事務作業等、他の職を斡旋出来るようにと、こうして持ち回りで研修を受けて貰っているんだ。ホテルのコンシェルジュやDAGの職員に来て貰っているし、勿論研修中の賃金も発生している」
「ほえー、すげー」
“凄え”
“マジか”
“ほえーしか感想出てないの笑う”
“良いなぁ。俺もここで研修受けたい”
“マジでもう一つのギルドやん”
“馬鹿みてえな顔してんな”
“みてえじゃなくて実際馬鹿だし……”
“winner:可愛い”
“ギルド内ギルドって感じ”
ギルド内ギルド……確かに、そういう表現がしっくりくる。
嘘か真か、国内のダンジョンアタッカーの約半数が『至強』に所属していると言われている。それ程巨大なパーティの一人一人が、ダンジョンアタック以外でもDAG内で職を手に付けれる様にしてくれてるんだ。DAGの為のギルドというのも間違いじゃないかもしれない。
「他のパーティの人も研修に来ているのは、福利厚生を充実させているパーティの模範である事を示す意味もあるんだ」
「なるほどぉ。そこまで考えられてるんですねえ。にしては、このパーティハウス大き過ぎません?」
“模範的な大きさじゃないね”
“マジで考えられてんのな”
“まあダンジョンアタッカーの頂点ですしおすし”
“ゆうてお前も良いところ住んでんじゃねえか”
“winner:『至強』のパーティハウスの威容は、ダンジョンアタッカーの到達点の一つを知らしめる、ある意味権威の象徴だからね”
“サンキュー先輩”
“サンキュー先輩!”
“サンキュー先輩!わざと大きくしてるのね”
“懐かしいなこのノリ”
おお、なるほど。大きいのにもちゃんと理由があるのか。ホントに徹底されてるな。
「ありがとうございます先輩。そういう意味もあるんですね」
「代わりに説明をしてくれて感謝する。ではここからはパーティ制度、そして『至強』のパーティについて紹介させてくれ」
「はい。お願いします」
DAGには、多くのパーティが存在する。
共通の趣味やジョブで集う者達、星数の多いダンジョンに挑む為の頭数、中には誰かがダンジョンで救助信号が送られてきた場合の人命救助を目的としたパーティなんてのもある。
正式なパーティの申請は二人から行う事が出来、パーティに所属したからといって何かしらの制限や禁止事項が増える訳ではない。挙げるとすれば、『複数のパーティに所属してはいけない』ぐらいだろうか。あくまでダンジョン内での生存率を上げるのが目的なのだから、当然と言えば当然か。
ダンジョンで偶然出会った人と即席でパーティを組む事だってある。その場合、原則として分け前は折半、そこから当人達の星数や貢献度における交渉等で変動する。
因みに、吸魔の墓で先輩とあまにゃんさんとパーティを組んだ時は、俺が寝ている間に先輩が全部してくれていた。ありがとうございます。
「さてここで問題です。一つ星のダンジョンアタッカーと四つ星のダンジョンアタッカーがいるパーティでは、挑めるダンジョンの星数は幾つでしょーかっ?」
“二つ星やろ”
“4?”
“二つ星”
“3”
“二つだね”
“二つ星までなんだよなぁ”
“2”
「……正解は二つ星まででーす。意外と皆さん知ってますね?ホントにスレ民ですか?」
“あ?”
“何だァ?てめえ……”
“喧嘩売ってんのか”
“舐め腐ってて草”
“どこまで無知だと思われてんだ俺ら”
現在、パーティでダンジョンアタックする場合は、パーティで一番星数が少ない人のレベルに合わせる法律が制定されている。
以前まではダンジョンの星数に関係無くアタック出来ていた。しかし一、二つ星のダンジョンアタッカー達が高ランクのダンジョンアタッカー達が集うパーティに加入して、強引に星数の多いダンジョンに行く事案……所謂寄生行為や、その逆に高ランクのダンジョンアタッカー達が新人を伴って無理矢理レベルアップを図る、トレインという行為が頻出した。
それのせいで多くの新人ダンジョンアタッカーが犠牲となり、彼等を守る為にその法案が制定されたのだ。
「因みに『複数のパーティに所属してはいけない』っていうルールも、この事件が原因です。今はそんな事出来ませんし、そのパーティが星数の多いダンジョンに挑む時は、星数の少ない人達は置いていく事になってます」
“まず自分の身を守れる様になれって事やな”
“winner:ちゃんと勉強してて偉いね”
“寄生とトレインする奴らは畜生。はっきり分かんだね”
“新人は置いてきた。この戦いには付いてこれそうもない”
“まあその為に指導料がある訳ですし……”
“スイッチでさえ学べるのにスレ民ときたら……”
“至強は人数多いからその辺大変そうだな”
「補足すると、パーティハウスという制度が出来たのもその件があったからだ。パーティハウスを申請するには、『最低でも五人のメンバーがいる事』、『一人以上の四つ星以上のダンジョンアタッカーがいる事』が条件となっている」
「ありがとうございます。ではそろそろ『至強』について聞いてみたいんですけど、良いですか?」
「ああ、勿論だ。何でも聞いてくれ」
“ここまでちゃんとDAGの解説されてる回も珍しいな”
“どうした。普通の解説配信じゃねえか”
“スイッチがバトル以外で活躍してるの違和感”
“何でや!料理得意やろ!”
“当たり前なんだがちゃんとダンジョンアタッカーしてるんだよな”
「お?喧嘩か?」
「仲が良いのだな」
スレ民とじゃれていると、三鶴城さんが羨ましげに微笑んで俺を見ていた。
「私もパーティの皆と親交を深めたいのだが、やはり肩書きから敬遠される事が多いからな」
「……まあ、俺も初めて会った時は緊張しましたし」
それにスレ民のせいで配信ではBOT扱いして、滅茶苦茶怒られると思ってヒヤヒヤしてたしな。
けど、そうだよな……『勇者』って二つ名や『至強』というパーティの偉大さにばかり目がいくけど、三鶴城さんもちゃんと人間で、彼なりに人間関係での苦労があるんだよな。
……この人には、弱音を吐ける相手はいるんだろうか。『勇者』という二つ名は、それだけで周りを萎縮させてしまうだろう事は想像に難くない。それでも、これだけ頑張ってきた人が、辛い時に泣き言を言っちゃいけないなんて、絶対にあってはならない筈だ。
もう少しだけ、この人に歩み寄っても良いのかもしれない。人のせいで苦労する辛さは分かってるつもりだ。
……本音を言える相手が一人でも増える様に、まずは俺から本音で話さないとな。
「だから私なりに、彼等と親しくなれる方法を模索しているんだ」
「なるほど。
じゃああのすっごいつまらない親父ギャグもその一環なんですね!」
「なんてことを言うんだ」
“草”
“wwww”
“唐突に刺すやん”
“特効やめてね”
“い、言いやがった……!”
“草”
“魔王の痛恨の一撃!勇者に9999のダメージ!”
“もっと慎め!言葉を!”
“リーダーの目ガン開きで草生える”
“他に言葉無かったんか?www”
“火の玉ストレートすぎる”
あれ?皆が思ってる事を代わりに言っただけなんだけど。いやいや、あの時はシュールな場面に合わなかったから笑っちゃっただけで、まさか本気であの親父ギャグが面白いと思ってる訳じゃないでしょ。……ないよね?
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『スレ主がダンジョンアタックする話』10/17発売予定です。
特典ショートストーリーを書かせていただきました。
メロンブックス様では『こうして呪物は出来上がる』
ゲーマーズ様では『支部長にスレッドが見つかってしまったお話』
ブックウォーカー様では『とあるリスナーの話』
が付いてきております。手に取っていただけると嬉しいです。




